Exhibition

あしかがの歴史と文化再発見!
―鎌倉殿の義弟 足利義兼の祈り 大日如来坐像―
【終了しました】 足利市立美術館

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

遥かなる昔から文化が開けていた学問のまち、産業のまち足利には、古(いにしえ)からこの地に暮した人々の豊かな生活や深い創造性を宿した文化財がたくさん遺されています。おしゃれなデザインを施した縄文時代(約3000年前)の耳飾りや、独得のヘアースタイルに優雅な衣装を着こなした古墳時代(約1450年前)の埴輪たち、そして尊顔に対峙するだけで心の落ち着きを与えてくれる鎌倉時代(約820年前)の大日如来坐像が、その事実を今に生きる私たちへ教えてくれます。

本展では、足利の歴史と文化を再発見する機会として、縄文時代から鎌倉時代にわたり、生活の中から生み出された美、祈りをとおして生み出された美、祈りを中心に、本市の歴史の奥深さをご紹介します。
*本展は国立博物館収蔵品貸与促進事業の支援を受けるとともに、公益財団法足利市民文化財団40周年記念事業の一環とし実施するものです。

国重要文化財《大日如来坐像》菅田山 光得寺蔵 画像提供:東京国立博物館 Image:TMM Archves
《人物埴輪(童女)》東京国立博物館蔵 Image:TMM Archves

【展覧会を鑑賞して】

「歴史と文化のまち足利」。住んでいるとそのキャッチコピーに慣れてきて、気に留めなくなってしまう。しかし本展をみることで改めて「足利ってこんなにも歴史のあるまちなのか!」という驚きが生まれてきた。

<第1章 原始〜縄文時代から弥生時代〜>
私が特に注目したのは土偶と土版、そして耳飾りだ。女性の形をした土偶は祈りの道具として作られた。それぞれの表情がかわいらしい。祭りや儀式で使用されていた土版・岩版は土偶と違って人間の形をしていないが、楕円形や四角形の板状に顔や模様があって、こちらもかわいらしく思わず微笑んでしまう。

あがた駅南遺跡から出土した耳飾りにも注目したい。一つひとつ文様が異なる。花びらのような透かし彫りなど、この技術は一体誰に教わったのだろうか。約3,000年前にこんな技術が存在していたとは!赤く塗られた彩色も残っており、ただただ美しさに見惚れてしまう。当時のオシャレを想像すると、現代よりもファッションセンスがあったのではないかと思う。

<第2章 古代〜古墳時代から奈良・平安時代〜>
足利市には現在でも1,300基を超える古墳が残っているという。助戸十二天古墳から出土された鈴釧(すずくしろ)、鈴杏葉(すずぎょうよう)、三環鈴(さんかんれい)、といった鈴シリーズは、馬具として使用されていた。音を鳴らすために小石が入っているのだが、古代から続く鈴の音色は、きっとロマン溢れる心地良い響きがするのではないだろうか。

葉鹿町にある熊野古墳で出土された《女子人物埴輪(童女)》の二体。一体は足利市、もう一体は東京国立博物館にある。今回89年ぶりの里帰りという感動の再会である。垂れ目で小さな口をしたその表情には、幼さを感じる。国宝である埴輪《三人童女》と似ているため、同じ埴輪工人集団によって作られたと考えられている。「再会できて良かったね!」と心の中で声をかけながら、その歳月を想像し大いに感動した。

では、なぜ二体が離れてしまったのか?足利市立美術館 片柳館長に話を伺った。

当時発掘は研究として広く知られず、考古学はあまり注目されることがなかったという。しかし調査する人はおり、発掘したものを守り伝えるために東京帝室博物館(現 東京国立博物館)へ寄贈していた。またそれが名誉なことでもあった。《三人童女》と似ていることについて、同じ埴輪工人集団によって作られたと考えると、この両毛エリアは古代から交易が行われていたのだろう、と話す。

<第3章 中世前半〜鎌倉時代〜>
32年ぶりに足利市内で展示される国重要文化財《大日如来坐像》は、明治初年まで樺崎八幡宮に伝わり、光得寺へ移され守り伝えられた像である。明治維新後の神仏分離令により、樺崎寺は廃寺となるが、そんな混乱の世の中でも像を守っていた光得寺の歴史に対する意識の高さにも注目してほしい。厨子は傷みがあるため展示されていないが、像を360度鑑賞できる貴重な機会だ。像の中の納入品についての説明も大変興味深い。

8月7日に講演会『足利氏の造仏をさぐる』に参加したことを追記したい。「今回展示しきれなかった歴史遺産がこの100倍はある」ということに驚愕し、《大日如来坐像》のことを知らない足利市民が多いという話に残念な気持ちになった。多くの人に本展をきっかけに「歴史と文化のまち足利」を再発見してほしい。そして何気なく歩くこの道にも、まだ見ぬ何かが埋まっているかもしれないし、まだ見ぬ偉人が歩いた道かもしれないと思いながら、一歩一歩踏みしめながら歩いて行きたい。

※施設の利用状況に関しては足利市立美術館のWebサイトをご確認ください

Place

足利市立美術館
足利市立美術館

集合住宅と併設された美術館。1階と2階は美術館、その上は住居という個性的なつくり。 通るたびに、住んでいる方をうらやましく思う。