Column

マルタン・マルジェラの在りよう

佐藤一花

どうでも良いことばかり考えてしまう。点々と考えて、本筋が見えないことばかりだ。

友人からは、文化服装学院の元教諭をSNSで見つけたよとURLが貼られてきた。また別の友人から、久しぶりに会おうと連絡が来た際に、このコレクション良かったよとURLが貼られてきた。

どちらもマルタン・マルジェラ(以降マルジェラ)についてで、私の偶然とは言え、モヤが再燃した。まず前者の元教諭の動画は、一般的にファッショスナップの様な街頭のお洒落な人をインタビューするものだったが、一気に学生の時に戻った気分だった。文化服装学院には名物先生が何人かいて、イッセイミヤケおばさんだけじゃなく、超羨望の的な先生もいた。

その先生は、全身マルジェラで固めていて、細く美しく辛口、おネエの言葉遣いで坊主にしていて、それはそれは神秘的で美しい先生だった。その先生が58歳無職としてインタビューを受けていて訳だが、すっかりマルジェラは着ていない。しかも、「文化服装学院で教えていたけど、どんなに生徒を育てても世界的デザイナーは出ないし辞めた。マルジェラも糞ガリア―ノになってから着るのを辞めた」っていう、痛快爽快なパンチラインが並んでいた。

うん、先生ごめん。私も世界的デザイナーになれると思っていたのだけど、全然ド田舎の片隅でパソコン叩いて仕事して、コラムやコラージュを制作しているわ。いやごめんってより、1mの金尺や目打ちで刺されているような痛快な気持ちだ。この所業は、文化服装学院の授業や講義で、寝たりふざけた生意気な学生に対して、副担の先生が私たちにやっていた事だ。大好きな先生なんだけど。

脱線。

そのインタビューを受けていた先生の言葉に妙に納得したのだった。世界的デザイナーの方もだけど、糞ガリアーノの部分。なんか分かる。

私は、2014年にマルジェラのディレクターに就任して以降、マルジェラはマルジェラではなくなったと思っていた。それから早10年も経過していたのか。マルジェラについては、お洒落な人もそうでない人も足袋ブーツを見れば、お分かりだろう。そのアイテムを履けば、お洒落じゃない人もお洒落っぺー感じになる魔法のアイテムだ。あたしファッション知ってんでしょとモード感出して、マウント取れるアイテムだ。

去年、渋谷でマルジェラがビルをまるッとインスタレーションした展示も、ジョンガリアーノの世界沁み沁みだった訳だが、そういうのを目にする度に何かいつも虚しいもの感じていた。

世界のブランドなんてそんなもんだろと言われれば、そうなのだけど、バンドのボーカル変わったら、そのバンドはもう違うものだよね。KENZOも高田賢三が亡くなってから、エレガンスからかけ離れ、全然イケイケ路線になった。

そういうものなの!って誰かに怒られそうだけど、同じマルジェラに対するガリアーノの立ち位置と先生の言葉に共感してしまったのだった。とはいえ、友人から連絡がきたURLは、ガリアーノが手掛けるマルジェラの2024SSコレクションだった為、勿論くまなく拝見させていただいた。

SNSでもビニールの膜が貼ったようなメイキャップが話題となっていて、皆真似してやっていたのは見ていた。コレクションは歌から始まる、映像や物語の没入感がすごくて、前置きが超長い。何か薄気味悪い、治安悪しな場所に男が逃げてゆく。ランウェイショーはないのねってなったくらいに、急にコルセットを巻いた半裸の男性がフランスの湿った石畳を歩き始めたことで、ショーが始まる。

石畳と地下牢屋の二か所をモデルたちが歩くのだが、中世フランスのふくよかな娼婦達は、透けたドレスにコルセットをして体を強調して歩いている。ぼろいトレンチにハンチングで、ハイソックス決めた完全変態ルックのメンズ。鳥肌実が履くような透けたハイソックスを履いている。

それがジャンキーの様に震えたり、客に絡んだりして、永遠何パターンも出てくる。服の造形はもちろんテクニカルで美しい技術を持つものだが、長いガリアーノの夢物語を毎度見せられて、何のプレイなのだろうと思っていた。

渋谷の展示を見た時と同じプレイ。汚ぼろいファッションを否定する訳でなくて、マルジェラってどこ行ったんだろうって思ふ訳、壮大なガリアーノの世界をずっと見せつけられて、この夢物語にすっかりハテナが出ている。だって、こんなのはマルジェラではないから。

エコロジーでも何でもなくて、贅を尽くした服たちでショー自体としたらすんばらしいものなんだろうけど、マルジェラどこ行ったのよと思ふの。申し訳なさ気味に出てくる、背中のタグの白糸と足袋シューズが悲しいわい。服の概念的をぶっ壊したマルジェラはマルジェラであり、ディオールなどでは素晴らしいコレクションを見せてきたガリアーノはガリアーノなんだな。

チャゲアスと米米CLUBが混ざった感じ、聖子ちゃんと明菜が混ざった感じ。違う!そうじゃないのよ!ってなるでしょ。

ころころ変わるビジネスでのデザイナー世代交代劇場は、もう飽き飽き。ファッショについては、過去を振り返らない訳にはいかないのだよ。

先生、私って、、いつからこんな人間になったのでしょう?いつになく爽やかな夜風の中、星空を見上げ叫びたいわ。

是非気になる方は、見てみてくだされ。ファッションも奥が深いのよ。

佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。