Column

疑で妄語な世界漫遊

佐藤一花

今回の煩悩は、6つの根本煩悩である疑(ぎ)の中の妄語(もうご)。
疑は、あれこれ疑うこと。
妄語は、嘘をつくこと。

今週から私は、1週間仕事を休んで旅に出ようと計画している。
それは以前から考えていたことなのだが、最高な1週間を過ごしてリフレッシュをする必要があると強く思っていた。数回のコラムを書いてなんだか説教くさいなと思い、でも嘘をつく訳にも行かず、そんな処で相当な覚悟のまま休みを取った。

1日目(月)

私は空港に行き、まず行きたかったイギリスのグラストンベリーフェスへ。フジロックなんか比べものにならない大規模自由空間。泥相撲必須なペラペラの雨合羽と長靴で参戦。The KillsやAmy Winehouseを聴きながら、意気揚々とモッシュ後ボロぞうきんになり意気消沈。寒さと疲れをどん兵衛きつねうどんで「寒いねー」と微笑で癒し、「これ相当美味しんだよ」とケイト・モスに試食させたい。いろんなものキメこんでも良いけど、無事熱い風呂と寝床だけは中年の為、死守必須。

2日目(火)

昨日の疲れを癒すようにアミノバイタル(フェスで私の必需品)をかっこんで、パリへ。
やたら偉そうにパリコレ参観。初回MUGLERでキレキレのオエオエ発作起こして、Maison Margielaであーもう胸やけ、HERMES、CHANELで1回正気に戻り、Rick Owensでまたキューンとファッションって何だろうに戻り、コム デ ギャルソンで日本人は良いなと思いたい。
さっさと狂喜乱舞の服祭りを後に、憧れのマルジェラの5つ星ホテル「ラ メゾン シャンゼリゼ」へ。5つ星ホテルって空調管理なのか、至るところが良い香り。「マンダリン オリエンタル」とかもそう(実際に)。「何処に良い香り成分が置かれているのかしら」と探したほど、自然な良い香りに何処もかしこも包まれている。ここはどんな香りだろう。
ホテルで早々に食事を済ませて、アート作品に囲まれたギャラリーのようなスイートルームで、ひとりカラオケで夜ふかしを。歌うは尾崎紀世彦「また逢う日まで」。
BALMAINで設えた東洋人体系には全く合わない白のタキシードを着て、部屋で歌って踊る。

3日目(水)

とんだ乱痴気騒ぎに嫌気がさして、インドへ。デリーより5時間強リシケシまで行って、スリンダー先生のヨガクラスで諸行無常に、露店のヤギミルクのチャイでホッとしたい。
スリンダー先生がくれるヒマラヤンのハーブのど飴を手に更に移動。ダライ・ラマ14世に会って、手を握りあいたい。良く分からなくても、でっかい声でお経を唱え怒られ、幼少期の話やこれからの世界の事をきいて、パリで買ってきた高価な服達も寺院にドネーションしてこよう。寺院で1泊。

4日目(木)

折角インドまで来たので、スリランカへ。なぜならば、アーユルヴェーダ病院に入院。ヨガからの目玉~へそ~お尻からオイルまみれ、最終のシロダーラで昇天の天国逝き。
元気になって「お腹すいちゃったー」って、ヴィーガンカレーに舌鼓、セイロン紅茶の茶畑でびっくらの最高級紅茶を頂き、香りの向こう側へ行きたい。
確実に怪しい店に行かされ、宝石類も買わされても、良い思い出となるだろう。海外特有の独特なデザインのアクセサリー達は、ばあちゃんになってから似合うから。

5日目(金)

すっかり体も軽くなったので、モロッコの幾何学で青い街シャウエンへ、工藤丈輝氏の舞踏公演inモロッコを観に。狭い鮮やかな街並みから出たり入ったり天上から吊るされたりと、暗黒舞踏の所作や踊りの明るさが勝つか、暗さが勝つかのデスマッチ的情景。エキゾチックさと工藤さんの白塗りは高相性で終演。
その後、工藤さんとフェズ旧市街やマラケシュに行き、土産物屋で散財しタジン鍋で乾杯、「酒がないね~」と怪しいどぶろく的地酒で大酔いして、ミントティーで我に返る。初めて話す緊張と体の疲れが相まって、ぐっすり就寝。

6日目(土)

早朝ひとっ飛びして、アメリカのアリゾナ州アンテロープキャニオンで氷室京介のMVものまねをとりたい。タンクトップに革パンは、あの灼熱の乾いた環境では地獄だろうけど、是非ヒムロックを味わいたい。着替えたらヘリでセドナへ行き、ビンビンの感受性で世界のエネルギーボルテックスを感じ、渦を天に描く教祖的アレをやってみたい。現実派からの超逃避行が最高、サードアイの開眼。と言いつつ世俗忘れず、地元の美味しくなさげなアメリカンダイナーへ行って、食べられない量のハッシュッドポテトを食べたい。
夜は、サンフランシスコ・カリフォルニア界隈の極悪スケーター達と酒を酌み交わし、スケートして、Neck Faceと一緒にグラフィティーを描いて「映えるねー」って顔隠して記念撮影。人生初の悪い大役を果たす。彼からは悪魔崇拝、ギャング組織図の基礎を学びたい。日本のやくざについては「ブラック・レイン」、「アウトレイジ」を用いて、説明したい処。
そのまま朝方までコーチェラフェスでビヨンセを拝見して、特濃アメリカンを体感。西洋のお綺麗で性格悪そうな子たちに疲れ、来ていたオノ・ヨーコとしみじみ日本のアートと平和について話し合い、ニューヨークへ行くことを決める。

7日目(日)

飛行機で寝てニューヨークへ。ジョンが住んでいたアパートをヨーコに案内してもらい、流れで千住博のアトリエで滝の絵を見せて貰い感動しつつ、「うーんでも難しい話わかんねーな」と山口晃氏を呼び寄せ、NY美味しいもの探訪を決行。庶民的~高級店まで、アートの話はそこそこに美味しいものと晃氏のスーパーきみまろ漫談で笑い死にしたい。
合間にダミアン・ハースト邸でアート鑑賞もしつつ、ダイヤモンドの頭蓋骨を頭に載せ記念写真も。「作品の骸骨1個くらい盗んどけばよかったなー、良い人そうだし」と脳裏をよぎりつつ、お礼の手土産を置きマンハッタンへ戻る。
ニューヨークの老舗ライブハウスCBGBでは、パティ・スミスと町田康、エレカシの後に、立川談志の落語で〆たい。
中村勘九郎一家のNY公演は、全く似合わないTOM FORDの一張羅を着て最前列で鑑賞、七之助の華吹雪を1枚持って帰りたい。

勿論、買い物はBESS NYCでオーダー鋲ジャン、スニーカー、ボロTを購入。田舎に帰ってきたら「どうしたんだ?」と言われる衣装系ど派手アイテムを宮本浩次と購入。コンサバではない服装について散々説明し、宮本さんにあーだこーだ言っても着地しない会話に疲れ、複雑に解散。
Whole Foods Marketで意識高すぎさん達に負けず劣らず、沢山ヴィーガンお惣菜とスープを買い込んで、老舗5つ星ホテルの「ザ・プラザ」へ。ルームサービスで結局熟成肉ステーキを注文し、赤身の正義感を堪能。面白くない良く分からない英語のアニメをみながら外国の香り漂う泡風呂につかり、この1週間を振り返り枕の高さに気を取られつつ就寝。
空港についた私は、とても生まれ変わったようにオフィスレディとして今日から働き始めています。

全部嘘です。あれこれ疑うこともなく、嘘。
真っ赤な嘘。時空歪む移動時間だし。
と云う訳で、理想の1週間妄想劇。
書いている私が超絶楽しかった。人を傷つけない嘘も良き。
前職場の知り合いの子どもに「8人兄弟の元ボクサー」と言い聞かせ、シャドーボクシング見せたもの。嘘をつくなら、完全こういった方が良いね。お付き合いありがとうの山。佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。