Column

瞋の害はないFレポート

佐藤一花

今回の煩悩は、6つの根本煩悩である瞋(じん)の中の害(がい)。
瞋は、怒り腹をたてること。
害は、生きるものに危害をあたえる。

最近狂う人に出会っても自分はそんなに怒ってないし、危害なんてもってのほかな生活をたしなんでいる。平和は良い事だが、誰かを其々の価値観のもと、イラっとはさせている。そんな事はお互い様な訳だが、不満を持ったり嫌いの裏返しでそう云う人のSNSを見たりしちゃうと言っていた人が居た。痛いけど毎度剥がしてしまう、ささくれと一緒か。

2023年春夏コレクションが終わった。コレクションは何の?って、Fでファッションだ。世界にはいくつもの都市でコレクションが行われており、パリ、ロンドン、NY、ミラノ、東京でも年2回程度のペースで行われている事が多い。

フロントローに座ることを喉から手が出てしまう位光栄に。はて、行けるだけでも天にも昇るのかと云ったイベントだ。その割に全く気にとめていなかったので、盛んに見る事はしなかったけど、バレンシアガのコレクションがどうしても頭にこびりついていた。

ショーにおけるトップバッターって凄い重要で、ファイナルより顔感あるのがトップなのではないだろうか。今回のバレンシアガのショーのトップは、Ye(カニエ・ウエスト以下カニエさん)だった。

<セキュリティ>と書かれた全身真っ黒な格好。バレンシアガのショーは、毎度トップが黒の格好との事。大袈裟なポケット沢山に肩幅もこれでもかとオーバーサイズの上着、レザーのバイカーパンツをはいていた。決して綺麗な服ではない。髭も伸びきってほぼ表情は見えない、物々しい雰囲気。

しかも何より驚いたのが、会場に泥が敷かれていたこと。雨が降ったかの様に、くぼみもでき水たまりが線になり、その上を泥はねを盛大に飛び散らせながら、服を汚す事も気にせずモデル達が歩いてゆく。カニエさんをトップに持ってくる時点で、やってんなーと少しダサさを思ってしまったが、そんな間もなく、次々とモデルが険しい顔で登場してくる。

バレンシアガは、日本だとほんのり反社反グレ、水商売みたいな顧客によって、イメージが少し歪んでいるけど、創業時はオートクチュールもやっていた由緒あり系である(オートクチュールとは、完全注文服の事。贅沢の髄、量販と真逆の世界だ)。

なんだ、飛び道具的なカニエさんなのかしら、しかも泥だし奇を狙いすぎてちょっと…なんて思って全容を見ずにいた。しかしあの泥が気になって、一部始終を動画や写真で全ルックをくまなく見た。良い時代になり、容易く全容を見られるこの環境よ!神。最初の出落ち感無く、服やモデル達の表情すら素晴らしい流れのコレクションだった。

今回ショーのテーマが気になったので調べた。<The Mud Show>と印字されたボロい財布が今回の招待状で、会場のショーレターには「レッテルを貼られることが多い世の中だが、たとえバッシングされることがあっても自らのアイデンティティを守るべき」と書かれ、泥のくぼみと水たまりのセットは、真実を掘り下げ、現実的に生きることのメタファーであるそう。

グっときちゃった。デムナさん。デムナ・ヴァザリア氏は、バレンシアガのデザイナー。ヴェトモンのデザイナーからの大抜擢君。やるな~ヴェトモンでもイキッてる感あったけど、大メゾンでもかましてるなと好感度200%位UPした。

大メゾンのデザイナーですら、売上やコンスタントなショーに苦しみ数年で代わる代わるも当たり前、消費社会も戦争の起こる世界も、環境破壊も全部人間が起したことで良い事だなんて思っていない。ましてや服なんて自由に着れる環境は、ファッションやっている人位で、後は制服の様な世界が広がっている。

でも小説や藝術、音楽と同じように服にもアイデンティティのあるモノなんだとバレンシアガのコレクョンで示されている様で少し嬉しく思った。服を作っている人達以上に、世の中は冷めている。そんな中、イキりの部分で最優秀賞ではなかろうか。

ただ、そんな事も感じなければ、薄汚れたコレクションにしか見えなくもない。多様性などとか申すつもりはないが、これが今の私には必要なんだと感じた晩秋&気づき。

因みに今回のバレンシアガおきにルックは、イボイボ蛍光イエローのロングドレスと固結びのされたピンクのドレス、異様に膨らませたMA-1に短パンショーツ、ボロニットに靴ひもをアッパーに巻きつけたスニーカーなど。

殴られた傷がモデルには施され、表情も其々に全員ヤバく尊いものだ。自然に触れる幸せもあるが、不自然に気づいて面白い事もあるの。どやさ!

余談だが、グッチのツインズバーグのショーも舞台構成賞の恐ろしく凄い演出なので、是非見て欲しい。

佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。