Column

酒場奇太郎
〜SOSOU〜

岡本奇太郎

先日、出張で横浜に来た高校時代からの友人と桜木町の『はなみち』で呑んだ。ここ数年、相手から店選びを委ねられた場合、必ず1軒目に連れて行く『はなみち』は、桜木町駅直結の『ぴおシティ』地下2階に広がる飲み屋街の中でも、とりわけ老舗然とした立ち呑み屋である。

飲兵衛に嬉しい昼12時オープンで、刺身は安くて美味く、酒が濃いのが特徴だ。濃い酒がきくのかグラスに印字された〝桜木町 はなみち〟を指差しながら、「『スラムダンク』の主人公の桜木花道はこの店が由来やねん」と言うと、誰もが信じて疑わない。実際は桜木花道のWikipediaにもそんな記述は一切ないが、「あの漫画は神奈川県が舞台やから」とダメ押しのダンクを決める。一体何が目的なのか自分でもわからないが、『はなみち』のグラスで呑むと無性にそう言いたくなる。

この日、呑みに行った洋平ちゃんは高校入学時に前後の席になって以来の友人だ。放課後はいつも一緒に駅前のファッションビルを地下から最上階まで隈なくチェックし、最終のバスの時間までゲーセンで格闘ゲームに没頭。帰宅後は固定電話(携帯電話がない時代)をスピーカーモードで繋ぎ、今日の話の続きをしたり、テスト前にはどちらかが寝落ちするまで勉強をした。

ド田舎から脱出したかった我々は、東京の同じ大学に進学し、日本武道館で開催された入学式にも一緒に行った。しかし、この日を境に2人の関係性は大きく変化する。

団体行動が苦手でサークルに入ることなど微塵も考えなかった私とは違い、洋平ちゃんは「オールラウンドサークル」に入り、キャンパスライフを満喫する道を選んだのだ。

高校時代のように毎日遊べなくなり寂しい思いをしていたある日、洋平ちゃんから呑みの誘いがあった。久々の再会に乾杯。お互いの近況を報告し合おうとした矢先、私のヒジがコップにあたりテーブルに水をこぼしてしまった。

 「粗相! SOSOU!」
 「……なにそれ?」
 「サークルやとこういう場合、粗相コールがかかるねん。はい、奇太郎くんジョッキ持って!」
 言われるがままにジョッキを持たされる私。
 「ハイ! 飲~んで飲んで飲んで! 飲~んで飲んで飲んで! 飲~んで飲んで飲んで飲んで!」

YOHEI IS DEAD
私が好きな洋平ちゃんはもういない。

相棒を失った私のよりどころはファッションだった。高額の治験バイトとカードローンの合わせ技で、DCブランド御三家のコムデギャルソン、イッセイミヤケ、ヨウジヤマモトをはじめ、マルタン・マルジェラ、アン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテン、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク、ダーク・ビッケンバーグ、ラフ・シモンズ、ヘルムート・ラング、ヴィヴィアン・ウエストウッド、ジャンポール・ゴルチエ、ヴィクター&ロルフ、フセイン・チャラヤン、クリストファー・ネメス、ミルクボーイ、20471120、ビューティービースト、マサキマツシマ、シンイチロウアラカワ、ミハラヤスヒロ、ゴム、アトウ、栄養失調の勃起、髭、ベリーボタン、コージクガ、67ミッション、アンチクラス、ライフアットユアオウンリスク、ローター、カバンドズッカ、コズミックワンダー、ダイエットブッチャースリムスキン、ジュヴェナイルホールロールコール、トウキョウリッパー、グッドイナフ、エレクトリックコテージ、ジェネラルリサーチ、アンダーカバー、マイノリティ、40%、リボルバーなどを身にまとい、私は校内でオールラウンドサークルのヤツらを4年間にらみ続けた。

大学卒業後、私は人妻に性感帯を聞く仕事などに追われ、洋平ちゃんはブラックな不動産営業職を経て、現在は呉服屋の社長業に忙しく、今では年に1、2回電話する程度の付き合いだ。

待ち合わせ場所の桜木町駅南改札前に着くと、ニシモトイズザマウスのTシャツにプリーツプリーズのジャケットとサンローランのバックパックを100点のバランスで合わせた洋平ちゃんが立っていた。一方、その日の私はGUのパンツに岡本奇太郎Tシャツという出で立ちだった。やはり私もオールラウンドサークルに所属するべきだったのだろうか。いかにも羽振りが良さそうな洋平ちゃんに『はなみち』の魅力が伝わるのか不安に思ったが、とにかくSOSOUのないように気をつけるしかない。

私の心配をよそに、洋平ちゃんは『はなみち』のたたずまいや料理の質や価格をいたく喜んでくれた。特に洋平ちゃんのすぐ横にあった日本酒の自販機には大興奮で、服に酒をこぼすこともいとわず浴びるように呑んだ。
「こんなもん隣にあってここ最高やな! 僕、酒は安いのが一番好きやねん。大吟醸とか口に合わん。最高すぎる!」

YOHEI IS BACK
私が好きな洋平ちゃんが帰ってきた。

今日はこれから阪東橋の『浅見本店』で一杯。ではこの辺で。

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『HIDDEN CHAMPION』
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Creator

岡本奇太郎

横須賀を拠点に活動を行うアーティスト。雑誌編集者時代に担当した吉永嘉明氏(『危ない1号』2代目編集長)のコラージュ作品に刺激を受け、創作活動を開始する。以降、コラージュやシルクスクリーンなどの手法を用いた作品を制作し、個展開催、国内外のアートフェアやグループ展に参加。また、アパレルブランドとのコラボレーション、ミュージシャンへのジャケットアートワークの提供のほか、自身がこれまでに影響を受けた芸術を紹介するアートエッセイ『芸術超人カタログ』(双葉社発行『小説推理』)などの執筆活動も行っている。