Column

酒場奇太郎
〜運命を変える方法〜

岡本奇太郎

「カッコ良さそう」という理由だけで大学では心理学を専攻していた。そんなしがない動機なので何ひとつ身に付かず、覚えていることはフロイトがコカイン中毒だったということと、ウィリアム・ジェームズの以下の言葉だけである。

 心が変われば行動が変わる。
 行動が変われば習慣が変わる。
 習慣が変われば人格が変わる。
 人格が変われば運命が変わる。

私には今年からどうしても断ちたい悪習がひとつあった。それは反りが合わなかったかつての上司のSNSを見ることである。恥ずかしい話だが私はかれこれ10年以上、起床と同時にその上司のSNSを確認していた。おそらく彼は現状に不満があるのか、プロフィール欄に「元」の経歴を書き、様々な媒体が発信する記事にコメントを寄せては事情通を気取っている。それを見て、「アホやコイツ」と溜飲を下げる私に対して、「そのアホをずっと見てるあんたが一番アホ」と妻は言う。間違いないだろう。こんなことをしていても虚しいだけだと、私自身何年も前から痛感していたのだ。

早速、元日から見るのをやめた。毎朝反射的に見ていたにも拘わらず、そうと決めれば自分でも驚くほど呆気なくやめられ、代わりに自分のためになる情報を見ることにした。そうして1週間も過ぎると、まるで憑き物が落ちたような爽快感を日々感じるようになり、ふと先のジェームズの言葉が思い出された。私はこれを機により良い運命を引き寄せるのだろうか。などと考えるうちに、ようやく心理学に興味が湧いてきたのだ。

それから私が学んだことについてはここでは詳しくは書かない。認知心理学の領域とだけ記しておく。それを知ったことで私の行動や習慣は大きく変わり、ここ最近の私の変貌ぶりには妻も目を見張るほどだ。

元上司のSNS断ちで得られた爽快感も影響するかもしれないが、まず先にSNS依存自体から抜け出すことに成功した。以前は四六時中SNSを見ていたのが、自分が投稿する時くらいしか開かなくなり、それによって浮いた時間は長年の積読本の消化に充てるようになった。

YouTubeで視聴するコンテンツも娯楽から教育的要素があるものに変わり(ラジオやポッドキャストも同様)、何よりアル中から脱出することができた。それまでは、「朝起きたから酒呑もう」「食事するから酒呑もう」「掃除するから酒呑もう」「仕事するから酒呑もう」と、朝から晩まで何をする時も「酒呑もう」だったのが、今では食事の時間に1、2杯呑む程度だ(なぜかは分からないが代わりに紅茶を飲むようになった)。

驚いたのは先月末のこと。詳細は伏せるが、数年に一度レベルの〝何でもありの夜〟があった。この日は私が「生きて帰って来ればOK」と妻も覚悟していたようだが、なんと私はどシラフの状態で帰宅したのだ。かつて酔っ払って遭難し、財布をなくして警察と攻防を繰り広げたこの私がである。明らかに人格が変わった。となると私の運命は…。

こんなことを書くと、「何か売りつけるつもりか」と訝しむ人もいるかもしれない。その通り私は、この自分を変える方法を誰もが実践できるようにマニュアル化し、情報商材としてあなたに100万円で売りつけるつもりでこれを書いている。そして儲かった暁には、両親に旅行のひとつでもプレゼントしたいし、どこかで災害が起こった場合はすぐにまとまった額を寄付できるような人間になりたいと思っている。

運命を変えたい人は下記のメールアドレスにご連絡ください。
anatashidaidesu@zmail.com

今日はこれから銀座の『君嶋屋』で一杯。ではこの辺で。

『HIDDEN CHAMPION』72号で『岡本奇太郎特集』が掲載されています。学生時代から現在に至るまでのインタビューとアートワークの数々。是非ご覧ください。
日本全国の様々な場所で無料で手に入ります。
配布場所(同サイトから購入も可)など詳細は以下から。
『HIDDEN CHAMPION』
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Creator

岡本奇太郎

横須賀を拠点に活動を行うアーティスト。雑誌編集者時代に担当した吉永嘉明氏(『危ない1号』2代目編集長)のコラージュ作品に刺激を受け、創作活動を開始する。以降、コラージュやシルクスクリーンなどの手法を用いた作品を制作し、個展開催、国内外のアートフェアやグループ展に参加。また、アパレルブランドとのコラボレーション、ミュージシャンへのジャケットアートワークの提供のほか、自身がこれまでに影響を受けた芸術を紹介するアートエッセイ『芸術超人カタログ』(双葉社発行『小説推理』)などの執筆活動も行っている。