Column

痴の散乱

佐藤一花

今回の煩悩は、6つの根本煩悩である痴(ち)の中の散乱(さんらん)。
痴は、真実がわからない。
散乱は、ちゃらんぽらん。

自分が本当にちゃらんぽらんで居られるのは、学生の頃の友達が多いからだと思ふ。ちゃんとしなくていい、真実なんか無くていい。意味も説明も理由も無くていい、そんな関係性。最近、意味とか説明とか理由とかやはり「いらねーかも欲」が再燃し、勝手に自分の心を思い直していた。

とある日、シナモンロールの絆創膏を差し出され「カズカちゃん好きそうだからあげる!」ってくれる男性がいた。加えて、「結構貼ると目立たないからいいよ!」と笑っていた。手放しの最高さ、痛快に向こう側へ逝っちゃってる人物が今回の話の中心、最近訪れたレストラン『SHOOBEDOODA(シュビドゥダ)』を営む店主のり君だ。まぶだちである嫁のいっちゃんも、のり君も同級生。

神奈川県鎌倉市由比ヶ浜で、美味しい食事とワインが楽しめる、愉快な大人の社交場を提供している。フレンチ・イタリアン何でもござれの気取ってはいないが、味はハイセンス抜群、美しく愛らしい料理が多いお店。これぞ、クリエーションであり、カルチャーだなって行くたびに毎回思っている。いつだって社交場から、文化は生まれるの。

今回久しぶりに『SHOOBEDOODA』夫婦に会える事に心躍らせていたが、40歳を超え、尚シナモンロールの絆創膏を買い、下北沢でクルクルの強めパーマをあてたのって云ってくる友に、清い心のまま後ろからBB弾で撃たれた様だった。嫁のいっちゃんもそれを笑って聞いている。こんな平和ってない。

ひとしきり、飲食店は自分の知る限り大変な数年を過ごして来ただろうけど、彼は更なるパワーアップを遂げていた。友には幸せでいて欲しいし、やりたい事を自由にしていて欲しい。

学生の頃、学食で話しているのと同じ空気を今でも感じられる様な弾ける時間を過ごせている。馬鹿笑いって、一番の健康の元。卑下でも謙遜でも、皮肉でもない笑い。推しが鎌倉にもいて、自分は幸せものだ。しかも、このお店とても美味しいお料理とワインが出てくる。

勿論な話だが、友の店だからといって美味しくなかったら行かない。美味しいが前提である。世界の色々な処で食事をしても、いつも思ふのは、食文化の高さは日本が一番だ。海外も美味しいけど、ここの店で食べる方が楽しいがプラスされる。

食事については、プロライターではないので割愛したいのだが、海なし県育ちの魚臭みにスーパーセンシティブの私が臭みを全く感じないカツオとトマトの香草入のオードブル、つやつやの豆とディルのサラダ、オリーブフライなど、ジビエから牛肉、魚まで香草やスパイスを使用した料理が多い。海外の料理が好きな人も、そうでない王道な味が好きな人にもハマる味付けがされている。


スイカのガスパチョを食べた友が、美味しすぎて何入っているか分からず「ベーコン入っている?」と迷言し、爆笑したのを今も思い出す。厳選の素材とテクニックを用いると、素人は迷走し困惑するほど美味しいものが出来上がるのだと、のり君の料理に感心する。
料理に関しては全く以てちゃらんぽらん要素はなく、ビシッとした仕込みをしているのだろう。

もともと互いに服作りをしていた訳だが、のり君は当初から服よりもずっと音楽をコアに追いかけている人だと認識していた。この間も「レゲエ担当です!」って急に云っていて思い出した。しかし、19歳くらいはどっぷりでハードコア鋲ジャン着ていたと聞いて、いっちゃんと共に笑い転げた。服飾時代の迷走期と云うものはつきもので、皆いろいろを経て、自分らしさに出会っていくもの。店名を俺のフレンチに擬え、「俺の鋲ジャンにしろ~」と、酔っ払いのクダも良い処の話で大笑いした。

その間も相当数の料理をひとりでこさえ、彼はワインのアドバイスも怠らない。白・赤・泡・泡…。こういうのが良いと云うと、すーっとお好みワインが出てくる。個性派~クラシカルに美味しいワインの取り揃えも流石に洒落ている。どっと飲んでも、二日酔いにならなかったのが不思議なくらいだった。

カウンター越しにやんややんや云っても、面白可笑しい返しと、美味しい料理が出てくるのは、高級鮨屋と同じようだ。カウンターで手技を見られながらでも、鮨屋の大将は、面白い話も酒の紹介も怠らず、全てがショータイムのエンタメ感で完結する。のり君も『SHOOBEDOODA』で、いつの間にかそうなっていた。

旨いものを出すけど、うんちく云わない、クリエイティブに興味深々、小難しい事より本当に美味しいものを求めて生きている。それを嫁のいっちゃんも心から応援している。同級生のたくましくなった姿をみて勝手にキュンとし、このコラムを書こうと今に至っている。

きっとお店には沢山の面白い客が来ている。先日も北海道で白樺からお酒を作っているという男性とご一緒させて頂いた。丁度自分がビールを作りたいな~なんて思っている時に面白い話を沢山聞けた。

更にはU-zhaanからも愛され、毎年お店でやっていたライブが2022年7月13日(水)に復活する。<新井孝弘×U-zhaan北インド古典音楽ライブ>音楽と料理の祭りだ。詳しくは、『SHOOBEDOODA』のインスタグラムを参照ください。

常自分が作る行為もそうだけど、美味しいものを食べ楽しい会話を繰り広げるって、非常に文化的だ。この間も、お店の中の人達は笑顔ほころび、幸せ充満空間だった。

いざ鎌倉に備える為の、社交場『SHOOBEDOODA』へまた足を運ぼうと思っている。

佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。