Exhibition

水に浮かぶ島のように
-群馬県立館林美術館の20年
【終了しました】 群馬県立館林美術館

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

北に多々良川が流れ、南西には日本遺産のひとつとなった多々良沼が広がり、水田と湿地に囲まれた広く平らな土地に建てられた群馬県立館林美術館は、「〈水面〉に浮かび上がる〈島〉」がイメージされ、周囲の自然をも取り込んだランドスケープ(景観)がデザインされています。20年経った今も周辺はさほど変わらず、季節のうつろいとともに風に揺れる稲・麦・ガマの穂などがこの土地の原風景を伝え続けています。

2001年10月26日に開館した当美術館は、まもなく開館20周年を迎えます。開館前の1995年に収蔵したフランソワ・ポンポン《シロクマ》に始まり、クレー、ピカソ、シャガール、ウォーホル、南桂子、藤牧義夫、戸谷成雄・・・ 、美術館の歴史とともに徐々に豊かさを増した所蔵品は現在1,200点余りとなり、展覧会の企画にも大きな影響を与えてきました。

本展は、ポップで親しみやすい県立館林美術館の収蔵品の中から選りすぐりの約100点を、この美術館ならではの5つの章構成によって紹介します。また、建設当時の美術館や企画展の記録写真、毎日チェックした新聞・雑誌の切り抜きなどを元に作った年譜によって、美術館の20年を振り返ります。

フランソワ・ポンポン《ヒグマ》1918-26年

【展覧会を鑑賞して】

「〈水面〉に浮かび上がる〈島〉」がイメージされている、と美術館の建物について説明がある。今回は展示作品だけでなく美術館全体を鑑賞しないと、展示タイトルの意味を受け取れないのでは?と考えながら美術館へ向かった。

展示は5つの章で構成されている。
第1章は展示室2から始まる。入ってすぐの場所に展示されている、モイーズ・キスリング『青い花瓶のミモザ』。普段は静物画、ましてや花の油彩など気に留めることは少ないのだが、なぜか見入ってしまった。花の部分が渦を巻いたボンボン状になっており、絵の具の盛りが良い。そのためリアルさを感じ、ついつい引き込まれてしまった。
控えめなのに、集合するとイエローのパワーを発揮するミモザ。入り口から、良い作品に出会えて幸せな気持ちになった。

第2章に入ると、何か視線を感じる。
振り向くとそこには、三輪途道『下仁田ーおじい』『下仁田ーおばあ』が待っている。正座した、おばあの足の小ささが愛おしかった。
元の場所に戻って順にみていると、少し不気味さを感じる虚無僧のような木彫をみつけた。群馬県大泉町出身の中平四郎『讀賣』。讀賣とは、瓦版を読み聞かせながら売り歩く人物のことだそう。目深く被ったとんがり帽子のような編笠、片手に瓦版を持ち、もう片手には提灯のようなものを持っている。一木から彫られた一木造だからか、とてもスタイルが良い。でも不気味さを感じてしまう。虚無僧のような編笠スタイルがそうさせているのか。中平四郎は「牛を彫らせたら日本一」と称されていたという。いつか牛もみたい。

第3章には、ジャン・デュビュッフェの作品が壁一面に並ぶ展示室がある。モノクロの作品に、難解なポエムが書かれている。かなり難解だ。
それに救いの手を伸ばすように現れる、色鮮やかなラウル・デュフィ『電気の精』とソーダー色のガラスが幻想的なマリア・ルゴッシー『Dream』『Power of Nature VI』。マリア・ルゴッシーのガラス作品は、360°鑑賞するだけでなく、影や映り込みなど、そこに佇む作品の全てを目で楽しむことができる。

第4章は、栃木県足利市に住んでいる私にとって馴染みのある作家の作品がある。菊地武彦『線の気韻1993-69』。同市内のギャラリーでみることが多かったので、広い美術館で大きな作品を鑑賞できるということは、貴重だと思う。
荒々しい線、錆びた鉄、異素材を重ねたり引っ掻いたりされた画面は、無骨さの中にある繊細さを感じた。そして、そのような表現が自分の心の中のように思えた。きっと、その時の精神状態によって、受け取り方が変化する作品なのではないだろうか。
作品に近寄りディテールを、離れて全体像をみる行為を何度か繰り返した。次第に、自分の心の中と対話しているような気持ちになった。
同市出身の長重之の作品もある。地元の作家作品を美術館でみることができるのは、やはりうれしいことだ。

第5章は展示室1に戻る。お馴染みの彫刻作品がずらりと並ぶ。
フランソワ・ポンポンは、名前も作品も全部かわいい。
そして、鑑賞するたびに新たな発見がある。最近気に入っている作品は『雉鳩』。ムクッとした膨らみが鳥のキュートさを強調している。毎回『雉鳩』のかわいさを目に焼き付けた後は、外に出てから無意識で鳥を探してしまう。
別館フランソワ・ポンポンのアトリエも、忘れずにみてほしい。

5月〜6月は、美術館周辺を散歩するにはもってこいの季節だ。芝生で昼寝もできる。
今まで登ったことはなかったが、美術館正面口へ向かう途中に、トイレと自動販売機がある。その上を登ることができるのだが(一部立ち入り禁止)、そこからみる美術館はタイトル通り「水に浮かぶ島のように」のイメージ。
展示作品だけでなく、建物から敷地全体を隅々までじっくり楽しめる場所なので、その日は美術館以外の予定を入れないことをお勧めする。

※施設の利用状況に関しては群馬県立館林美術館のWebサイトをご確認ください

http://www.gmat.pref.gunma.jp/

Place

群馬県立館林美術館
群馬県立館林美術館

広大な自然の中に佇む群馬県立館林美術館は、どこをとっても絵になる素晴らしいロケーションが魅力的。朝から夕方まで、ゆっくりと過ごしたい場所である。