Exhibition

聴く-共鳴する世界
場所の記憶 想起する力
【終了しました】 アーツ前橋

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

「聴く-共鳴する世界」
本展は、聴く行為を通して世界と関わる実践を芸術作品によって紹介します。何を、どのように聴いているのかに私たちの意識を向けることで、それまで気づかなかった出来事を再認識させる作品が近年注目されています。

私たちは何をどのように聴いているのでしょうか。これまで聴かれてこなかった音や声に耳を傾けるにはどうすればいいのでしょうか。聴こえてくるのは言葉だけではありません。私たちは地球上のさまざまな存在に耳を傾けられます。聴くことに意識を向けると、自分たちが互いに依存し合う存在であることがきっと実感できるはずです。一人称ではなく二人称によって私たちは自分のことを知るのかもしれません。このことに気づくと、聴くことは音楽だけでなく、人類学や歴史学から権利要求やケアの実践、つまり政治/福祉/環境などの領域ともむすびつきます。
この展覧会を通して、あなたも複数の声が響き合う世界にぜひ耳を傾けてみてください。

「場所の記憶 想起する力」
この展覧会では、美術家たちが〈場所〉の現在や過去をそれぞれの感性によって表現した作品を紹介します。日常生活の経験、あるいは堆積している過去をさかのぼることを通して、自然や建物の風景や人間や生き物たちの営みを感じとることができます。そのとき、人称性を持たない〈場所〉が記憶を持っているかのように立ち現れます。〈場所〉には、個人の具体的な経験と、人間の生よりもはるかに長い時間の尺度が溶け合っているかのようです。

私たちは、深刻な厄災によって、いつもの日常が大きく変化する経験をしています。アーツ前橋も、約3か月にわたり臨時休館したあと、展覧会や事業の計画の見直しを余儀なくされました。困難になんとか向き合おうとするとき、私たちは自分が立つ足元を見つめ直そうとします。ここはどんなところで、ここからどんな未来を築くことができるのか。少しずつ前に進むには、しっかり足の感覚を確かめるのと同時に、軽やかに飛翔するような想像力も必要かもしれません。美術館は、そのような機会を提供する〈場所〉でありたいと私たちは願っています。

【展覧会を鑑賞して】

私は「場所の記憶 想起する力」を鑑賞してから「聴く-共鳴する世界」へ進んだので、鑑賞した順に感じたことを記載したいと思う。

「場所の記憶 想起する力」
会場内、石内都「ひろしま」7作品と、戦災時の前橋市の記録を展示したゾーンが続いている。石内都の写真は、写真から滲み出てくる想いが強く、鑑賞しているとその場から足が動かなくなる。「ひろしま」の作品は本やテレビなどでも目にしているが、やはり実際の写真が目の前に現れると、より一層想いの強さを感じる。その流れで、戦災時の前橋市の記録に目を通す。小見辰男の「前橋戦災スケッチ」の中で『18、19の花盛りなのに』という言葉が記述されたスケッチが数点あり、『青春時代を経験できない人生なんて』と、生きる意味を考えてしまった。私は「前橋空襲」というものを初めて知り、また空襲が起きる前に伝単(でんたん)というビラをまいて予告をするというのも、ここで知った。毎年、原爆が投下された日や終戦記念日が来ると戦争について考えたりするが、普段から考えているわけでは無い。今回のように、ふと目にした作品・展示をきっかけに「思い出すこと・考えること」は、無くてはならない大切な時間だと感じた。

「聴く-共鳴する世界」
作品のキャプションにQRコードがあり、それをスマートフォンで読み込みイヤホンやヘッドホンで試聴しながら鑑賞するスタイルである。最初は絵画と音をセットで鑑賞していたので「絵画に合う音を聴く」ということなのかと思っていた。春の風景画をみながら、明るいピアノの旋律を聴き「春が待ち遠しいわ〜」、暗めの絵画だがピアノの旋律は明るめなので「実はこの暗そうな老婆はルンルン気分なのかな」など、音から感じるイメージで絵画の内容を想像しながら鑑賞をしていた。

しかし進むにつれて、空間全体と音が融合していくようになった。
特に興味を持った作品は、恩田晃の《静まりかえった庭-イーストヴィレッジのコミュニティガーデン、パンデミックの時分》、《コラージュ・オン・カセット》だ。

私は「日常の音」を聴くことが好きなのだが(例えば「海外の雑踏の音」など)、始めはそのような雰囲気なのかと思ったが、作品のタイトルをみてハッとした。これは「音の記憶」なのだ。恩田晃の作品を鑑賞する前に、小森はるか+瀬尾夏美による東日本大地震後の陸前高田市を撮影した作品があった。登場する人物の言葉や映像をみて、3.11にならないと「その日」を忘れてしまっている自分に気付いた。

恩田晃の作品も同様のことが言える。パンデミックは現在進行形で、日々我々の生活に影響を与えている。しかしそれが落ち着けば忘れてしまうだろう。「忘れないため」という押し付けがましい印象を受けず、自然と「記憶」を呼び戻させるような作品だった。

2つの展示を通して、私の中では「記憶」が大きなテーマになった。「美しい・きれい・格好良い・おもしろい」だけでは完結しないアートもあるのだ。
皆さんはどの作品に何を感じるだろうか。時間をかけてじっくりと鑑賞していただきたい。

※施設の利用状況に関してはアーツ前橋のWebサイトをご確認ください

https://www.artsmaebashi.jp/

Place

アーツ前橋

体感したり学んだりできる、新しいアートの発信地。現代美術を中心に展示。1階には図書などを閲覧できるスペースやショップ、カフェもあるので、時間をかけて楽しみたい。