Exhibition

境界線、そして交差する点へ
―アーツ前橋コレクションから考えるコスモポリタニズム―
【終了しました】 アーツ前橋

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

人間が土地を移動することは一種の習性といえるのでしょうか?古来よりお伊勢参りや四国のお遍路をめぐる旅から、近年では行先未定のバックパッカー体験記がベストセラーとなったように、“未知の世界を知りたい”という好奇心を芽とした移動は、生物学にみても同じく移動をする渡り鳥や魚類の遡上・回遊とは一線を画します。

本展では、自らが暮らす場所の地層を掘り下げた髙橋常雄、田中恒、髙橋武の視点から出発し、インスピレーションの源泉を求めて国境を越え海外へ渡った、深谷徹、中村節也、狩野守らによる表現の飛躍を、アーツ前橋のコレクションから再検証します。こうした物理的な移動に加え、詩的な空想の世界へと旅をした東宮不二夫、正田譲、武澤久の作品や、アーツ前橋の多文化共生プロジェクト〈イミグラジオ〉など約40点の作品・資料を展示します。

地理的・時代的・社会階層的な〈移動〉によって見えてくる複層の世界は、すでに私たちの暮らす場所にも存在しています。日常から非日常への越境体験により生み出された作品を通して、未知の場所へ行きたいと願望を新たにしたり、自分が今いる場所への思いを一層強くするかもしれません。以前と同じ世界が戻らないとしても、私たちの視点そのものを絶えず刷新することで、皆さん一人ひとりにとって特別な意味を持つ場所へ思いを馳せていただける機会となれば幸いです。

※2022年6月2日(木)より一部展示替え

【展覧会を鑑賞して】

各々の作品には小説や映画のストーリーが紡がれているように思え、鑑賞している側は、作品に於ける「現実」と「空想」の境界線に立たされているのではないかと感じた。

その境界線が曖昧で、どっちの世界にいるのか分からなくなってしまう作品があった。南城一夫《描く人(自画像)》。魚を描く自身を描いているのだろうか。キャンバス全体の背景と、自身が描いているキャンバスの背景が同化しているようにみえる。まるで鑑賞している側も深海にいるような不思議な気持ちになった。

作品を鑑賞しながら、自分のストーリーをつくりたくなる作品が3つあったので紹介したい。東宮不二夫《黒い鳥》。鳥(鳩のようにみえた)と岩、もしくは小さな島が合体したような黒い塊。シュールな世界なのだが、ぷっくりとした鳥に愛らしさを感じる。どんなストーリーをつくろうかと、作品の前で立ち止まってあれこれ想像して楽しんだ。

正田壤《遠い花火》、《ダナエー》。両作品ともワンピースの柄がかわいらしい。これから始まる夏の季節にワクワクしてしまう。今年は外に出かけて花火をみに行けたらいいのに。そんな夏のストーリーを想像していた。

作品点数は少ないが、ギュッと凝縮されたストーリーが詰まっている。入場無料なので、ふらっと立ち寄っても良いだろう。そして各々のストーリーを想像して楽しんでほしい。

※施設の利用状況に関してはアーツ前橋のWebサイトをご確認ください

Place

アーツ前橋

体感したり学んだりできる、新しいアートの発信地。現代美術を中心に展示。1階には図書などを閲覧できるスペースやショップ、カフェもあるので、時間をかけて楽しみたい。