Exhibition

生の軌跡 ―Traces of Life―
【終了しました】 アーツ前橋

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

アーツ前橋では収蔵作品を中心に、地域ゆかりの作家の作品や県内の美術館、コレクターの所蔵作品とともに構成するテーマ展、<コレクション+>を開催してきました。今回の<コレクション+>では「軌跡」をテーマに、絵画、写真、映像、立体、インスタレーションなどの多彩な作品を紹介します。

「軌跡」は人や物事、時間の辿ってきた跡や、あるいは内的な世界の表出、さらに図形を表す線など多くの意味を内包しています。アンドレ・ブルトンの著書『夢の軌跡』では、シュルレアリスムにもとづき「夢」は芸術の根源とされる無意識の象徴とされ、その軌跡は言葉や造形としてかたちを得て、詩や絵画として芸術の華を咲かせます。

また「軌跡」とは文字どおり「線」そのものを示しています。線によって描かれるドローイングには思考の源が表れ、また線の軌道が描き出す「円」には、抽象的、幾何学的な形態のみならず、精神的なものを含めた概念や関係性を見出すことができます。本展では、無意識の表象、あるいは行為や運動の記憶など、さまざまなかたちで表出する「軌跡」についての考察を試みます。

【展覧会を鑑賞して】

「生の軌跡」というタイトルに少々難解なイメージを抱き、「生きてきた跡」という言葉を重く捉えていた。しかし観賞後、私の考える「生の軌跡」が見出され、すっきりした気分で帰路に着くことができた。

私の考える「生の軌跡」は「ノイズ」だ。引っ掻き、割れ、重ね、不揃いな線…。特に印象深く「ノイズ」を感じた作品をいくつか紹介したい。

小泉明郎《無題》。
2分という短い時間に「生の軌跡」が凝縮されている。『蛍の光』が流れる中、線を何重にも書き殴り潰す不快な音。こんなにもノイジーな『蛍の光』を聴いたのはじめてだ。映像もノイズも私の好みで、「生きるってこういうことだな」と感じた。たった2分間で、こんなにも格好良くそして奥深さを表現できるなんて、と感動した。今後も楽しみな作家であり、本展で1番好きな作品だ。

菅野創+やんツー《SENSELESS DRAWING BOT》。
電動スケートボードが動き、文字とは言い難い模様を書いていく様は、まるでグラフィティロボット。小泉明郎作品の『蛍の光』が微かに聴こえる中この作品をみると、視覚だけでノイズを感じた。ストリートカルチャーとAIが引き起こす、新しい感覚の作品である。

村田峰紀《フェードアウト》。
ペイントが施された割れた鏡に光を当て、その影が空間を覆い尽くしている。柔らかな影は美しく、割れた鏡には狂気を感じる。2つの感情が交差する不思議な感覚に陥った。

村田峰紀《c-drawing#17》。
3層になるベニヤ板に施されたペイントは、引っ掻きや穴を開けて下層部分が剥き出しになっている箇所がいくつかある。近くでみるとその粗さにノイズを感じるが、引いてみると、全体が深海でその中を泳ぐ魚のようにみえた。

村田峰紀の両作品にもノイズを感じる。前者2作品と比較すると、作品が発する情報が多いので、作品の意味を考えやすいのではないだろうか。

鬼頭健吾《interstellar》。
一瞬目がチカチカしてLEDライトにしか目がいかなくなるのだが、その後慣れてくると、暗いだけではなく色が何色も使われていることに気づく。ラメも使用している。それはまるで、暗い宇宙をみているような雰囲気だ。LEDライトのチープさに今っぽさを感じる。

鬼頭健吾《broken flowers》。
床に鏡が敷き詰められていて、鏡に反射した光でつくられた空間はまるでディスコのよう。《interstellar》もそうだが、身近にあるもので作品をつくっていることに気づく。日々の生活に作品のヒントがあるのだろうか。ここでも光というノイズが「生の軌跡」を醸し出していた。

皆さんも作品を鑑賞しながら、自身の「生の軌跡」を考えてみてはいかがだろうか。意外と簡単に見つかるかもしれない。

※施設の利用状況に関してはアーツ前橋のWebサイトをご確認ください

https://www.artsmaebashi.jp/

Place

アーツ前橋

体感したり学んだりできる、新しいアートの発信地。現代美術を中心に展示。1階には図書などを閲覧できるスペースやショップ、カフェもあるので、時間をかけて楽しみたい。