Exhibition

佐藤雅晴
尾行-存在の不在/不在の存在 水戸芸術館現代美術ギャラリー

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

佐藤雅晴は、ビデオカメラやスチルカメラで撮影した日常の風景をパソコン上でペンツールを用い、なぞるようにトレースしてアニメーション化する、「ロトスコープ」と呼ばれる技術によって映像作品を制作してきました。

東京藝術大学大学院美術学科絵画専攻修了後、ドイツに渡り、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに研究生として在籍したのちドイツを拠点に活動、2010年に帰国し茨城県取手市に居を構えます。その直後に上顎癌が発覚、以後、闘病生活を送りながら制作に励んでいましたが、2019年3月、惜しまれつつも45歳で他界しました。

彼の作品は、現代美術、映画、アニメ、メディア・アートの表現領域を越え、国内外で高い評価を得てきました。佐藤自らが撮影した身近な人々や身の回りの風景を忠実にトレースすることによって生み出される佐藤の作品には、現実と非現実が交錯する独自の世界観が描かれています。生前、佐藤はトレースという行為について、描く対象を「自分の中に取り込む」ことだと語っていました。それは、自身の暮らす土地や目の前の光景への理解を深め、関係を結ぶ行為ととらえることもできます。

一方、佐藤の作品を見る私たちは、実写とのわずかな差異から生じる違和感や、現実と非現実を行き来するような知覚のゆらぎをおぼえます。人それぞれに多様な感情や感覚を呼び起こす佐藤の作品は、見ることの奥深さと豊かさを与えてくれるものといえるでしょう。

本展では、1999年に渡独し初めて制作した映像作品《I touch Dream #1》から、死の直前まで描き続けた「死神先生」シリーズまで、映像作品26点、平面作品36点の計62点を通じ、佐藤の画業を振り返ります。

《東京尾行》2015-2016年

【展覧会を鑑賞して】

展覧会のタイトルに「尾行」とある。『東京尾行』『福島尾行』といった作品もある。「尾行」の意味とは何だろうか?そう考えながら展示会場へ足を運んだ。

日常的な風景が並ぶ『東京尾行』。
実写の一部分がアニメーションになっている。「人物がアニメーションになっているのか?」と考えたが、そうでもないようで「なぜこの部分が?」と考えながら鑑賞を続けた。犬の散歩をしている作品は、犬がアニメーションになっていて「かわいいなぁ」とみた後、反対側には人物がアニメーションになっている。どっちが主なのか混乱する作品だった。もしかしたら、その風景の中の主がアニメーションになっているのかもしれない、と考えた。

佐藤氏が「自分の作品で100年後200年後の人々に伝えていこうと考えた。福島へは何度も取材へ行った」と話す『福島尾行』。『東京尾行』と同様の手法だ。実写部が現実の世界で、トレースしたアニメーションが非現実の世界を表現しているのであれば、これらは全て非現実的な世界であってほしいと願った。

タイトルになっている「尾行」について、佐藤氏は「トレースすることを尾行だと考えるようになった」と話している。東京、福島という街をトレースして「現実」と「非現実」の世界をつくっているように感じた。

鑑賞中、気になることがあった。
どこからか、携帯電話の着信音が鳴り響いている。「誰かの携帯電話が鳴っているのかな?」と思いながら展示室を移動すると、着信音の正体は『Calling(ドイツ編)』。作品だった。

携帯電話のデザインから外国だということがすぐ分かる。スマホではなくガラケーなので、時代を読み取ることもできる。このように電話を通じて作品の背景を想像しながらみていたが、途中から「これは実写?アニメーション?」と混乱することが何度かあった。私はなんとなく、アニメーションだとホッとすることが多かった。しかし実写だと、現実の世界を突きつけられているような気がして、少し怖く感じることもあった。

作品の中で、もう1つ気になることがある。
ハエ、タバコ、エレベーターなど、何度か同じシーンに出くわすことがある。この繰り返しも「現実」と「非現実」の世界を行き来するような、不思議な感覚に陥った。

ドイツ語で夢という意味がある『TRAUM』。映画のようなシーンが続き、セリフはない。じっくり鑑賞しながら、作品の背景を細かく読み取り想像する楽しみがあった。「映画のような」と記述したが、これは短編映画だと思う。

普段目にする何気ない風景がアニメーションになることで、一気に不思議な世界になってしまう。だからその風景を何度も凝視し、細かいことに気づき想像する。その行為はまるで、鑑賞している者が佐藤氏を尾行しているようにも捉えられた。

他にも「しかけ」があるので、ぜひ現場でみつけて楽しんでほしい。

※施設の利用状況に関しては水戸芸術館現代美術ギャラリーのWebサイトをご確認ください

Place

水戸芸術館現代美術ギャラリー

個性的なタワーが目印の水戸芸術館。その中の水戸芸術館現代美術ギャラリーは、館内だけでなく街なかにアートを展示するなど、アートを通して地域の人々と繋がる活動も実施している。