【展覧会概要】
ピピロッティ・リスト(1962年スイスのザンクト・ガレン州グラブス生まれ)は、実験的な映像表現を探究するアーティストとして、1980年代から現在に至るまでスイスを拠点に世界各地の美術館や芸術祭で作品を発表してきました。色彩に満ちた世界をユーモアたっぷりに切り取ってみせる映像と、心地よい音楽空間設計によるリストのヴィデオ・インスタレーションは、国を超えて幅広い世代の観客を魅了しつづけています。
本展は、身体、ジェンダーとセクシュアリティ、自然、エコロジーを主題とした作品およそ40点で構成されています。身体や女性としてのアイデンティティをテーマとする初期の短編ヴィデオ、ヴェニス・ビエンナーレ(1997)や横浜トリエンナーレ(2001)で国際的な注目を集めた《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に》(1997/京都国立近代美術館蔵)、自然と人間の共生をテーマにパノラミックなスクリーンへと展開する近年の大型インスタレーションなど、30年以上に渡り現代美術における映像のあり方に新たな可能性をもたらしてきたリストの代表作を紹介します。
さらに、ベッドや展示室の床に敷かれたカーペットに身を預けて思い思いの姿勢でくつろぐ、食卓を囲むといったインスタレーションが、遊び心あふれる映像体験へと鑑賞者を誘います。リストが映し出すユーモアと色彩に満ちた世界に触れることで、人間の普遍的で切実なテーマを鑑賞者の心身とともに解きほぐす機会となるでしょう。
○作家プロフィール
ピピロッティ・リスト(本名 エリザベス・シャルロッテ・リスト)
1962年スイス北東部のザンクト・ガレン州グラブスに生まれる。2004年からスイスのチューリヒを拠点に活動。
1980年代にウィーンの応用芸術学校およびバーゼルのデザイン学校で商業美術や映像表現を学び、フリーランスで広報ヴィデオの制作に携わる傍ら、音楽バンドの舞台デザインや映像制作を行う。
1986年に自身を撮影した短編ヴィデオ作品《私はそんなに欲しがりの女の子じゃない》がスイスのソロトゥルン・フィルム・フェスティバルで受賞したことをきっかけに、ヴィデオ・アーティストとしての道を進むこととなる。
1997年には《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に》でヴェネチア・ビエンナーレ若手作家優秀賞(プレミオ2000)を受賞し国際的な評価を獲得した。その3年後にはニューヨークのタイムズスクエアで16面のマルチビジョンによる《わたしの草地に分け入って》が上映され、また、ポンピドゥー・センター前広場(2007)やニューヨーク近代美術館(2008)でも大規模な映像インスタレーションを発表。
2014年以降はアメリカ、オーストラリア、イギリス、デンマークそして地元スイスの主要美術館で大規模な個展を開催するなど、その活動は世界から注目を集めている。
日本国内では、1999年に京都国立近代美術館で《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に》が上映されて以来、2000年代の主な個展「The Cake is in Flames:ピピロッティ・リスト」(2002、資生堂ギャラリー、東京)、「ピピロッティ・リスト:からから」(2007、原美術館、東京)、「ピピロッティ・リスト:ゆうゆう」(2008、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川)などで作品が紹介され多くの反響を呼んだ。
また、瀬戸内芸術祭やPARASOPHIA:京都国立現代芸術祭2015など芸術祭の委嘱作品として制作されたサイトスペシフィック※な作品でも知られ、その作品は原美術館(東京)、京都国立近代美術館、東京都現代美術館、金沢21世紀美術館(石川)などに収蔵されている。
※サイトスペシフィック:作品が展示される場所の特性を生かした作品

4チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション/ベッド、枕(13分23秒、8分11秒、8分11秒 )
オーストラリア現代美術館での展示風景、2017年、Photo: Ken Leanfore
©Pipilotti Rist, All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
※施設の利用状況に関しては水戸芸術館現代美術ギャラリーのWebサイトをご確認ください