Exhibition

希望をめぐる4つの個展
【終了しました】 足利市立美術館

【展覧会概要】

遠藤昭 展 ― 炎こそわれらがいのち
貝野澤章 展 ― 内的亡命/遁走
下川勝 展 ― 消滅と救済
山口泉 展 ― 死の国からも、なお、語られ得る「希望」はあるか?

「果たして希望はあるのか」。今や多くの人が一度は抱いた感慨ではないでしょうか。地震や豪雨による激甚災害、コロナ禍、世界情勢悪化に伴う戦争の危機など不安の要素を数え上げればきりがありません。私たちは大きな時代の曲がり角に立っています。このような状況において、私たちは絶えず自分自身を見失う危険にさらされています。いかにして自身を保ち、希望を抱くことができるか。どんなに時代が変化しても希望を持つことは大事です。なぜなら希望は生き力だからです。こうした問いに直面した場合、導いてくれるのが芸術です。創造する精神はさまざまな示唆を私たちに与えてくれます。この度、遠藤昭(1931-) 、貝野澤章(1948-)、下川勝(1950-)、山口泉(1955-)の各氏の個展を同時開催し、希望を抱きがたいこの時代をいかにとらえ、希望を紡いだのか、希望とは何かを考えます。

【出品作家について】

遠藤昭(1931-)は足利出身の画家です。父は着物に直接柄を描く画工でしたが、竹村と号し、日本画を手がけました。旧制足利中学卒業後、数年間新制中学校の代用教員を務めたのち、東京藝術大学彫刻科に入学、56年卒業しました。50年、長重之らとVAN洋画グループを結成、翌年第1回展を開催しました。57年、モスクワ世界青年学生平和友好祭美術部門に木版画を出品、銅賞を受賞します。62年、養清堂画廊(東京)にて個展開催。71年日本版画協会会員となりました。76年、足利市民会館で、84年には足利市民プラザで個展を開催。80年美学校で石版画を学び、84年画廊春秋で個展を開催。以後2003年閉廊するまで同画廊にて複数回個展を開催しました。本展では、初期作品から最近作まで、一貫して流れる遠藤の衰えない批判精神をたどります。彼もまた戦争により傷ついた世代であり、国家とは何か、なぜ戦争が起こったのか90歳を過ぎた現在でも思索を継続しています。

貝野澤章は、1948年、東京に生まれました。69年美学校に入り、中村宏教場で油彩画を学びました。72年、画廊人魚館(東京)において種村季弘企画の「地図にない地図」展に参加。翌年、同画廊において個展「架空領」を開催しました。82年画廊春秋(東京)で個展「望楼と版図」開催、以後同画廊で個展を重ねました。また91年からは好文画廊(東京)において個展を開きました。2001年、「ながめ・みつけ・みつめ展」、2019年、「深江のぞみ・貝野澤みつめ・椎屋みはる展」を足利市立美術館において開催。同館において05年「生誕100年 オマージュ 長谷川沼田居」展に出品しました。05年から07年にかけてSPACE U(館林)において連続個展が開催されました。貝野澤の描く世界は、人類が滅亡した後の光景のようです。人のいない場所こそユートピアなのかもしれなません。人が存在しなければ善悪、良否もありません。そこは彼だけの「亡命」の場所です。同時に鑑賞者にとってもアジールとしての機能を果たしています。

下川勝は、1950年、大分県中津市に生れました。高校3年生で初個展「18歳の証言」(谷弥画廊・福岡)を開催します。高校卒業後上京し、工藤哲己、前田常作と親交を結びます。74年、妻の実家に近い館林に転居。足尾鉱毒事件について調べ、被害地の旧谷中村を訪ねます。77年、草間彌生と親交を結びました。2005年より、自宅近隣の河川、それに続く海岸線を歩行して拾得した石や空き瓶、ペットボトルのキャップ、空き缶をもとに写真やインスタレーション、オブジェを制作します。東京と地元で個展を開催、作品を発表しています。下川は石などの自然物に着目します。自然の力のみで形成された石の姿に無為の相に見出し、自身の制作に大きな変化が訪れました。彼は河原で石を拾い、名付けてはまた川に戻します。一方で、下川はペットボトルなど自然界において分解しえないものとも出会います。さらには原発事故により放射性物質で汚染された薬草とも向き合います。ここから下川の思索はより深まっていきました。

山口泉は、1955年、長野県に生まれました。77年、東京藝術大学美術学部在学中に『夜よ 天使を受胎せよ』で第13回太宰治賞優秀作を得て、文筆活動に入りました。小説と評論の両面から自由と抑圧の問題を追及しています。小説『旅する人びとの国』「宇宙のみなもとの滝』『悲惨鑑賞団』『オーロラ交響曲の冬』『神聖家族』ほか、批評『宮澤賢治伝説』『原子野のバッハ』ほか、画文集『死の国からも、なお、語られ得る「希望」はあるか?』があります。近刊として『吹雪の星の子どもたち 翡翠の天の子どもたち』二部作合本を上梓、著書多数。山口は、近年、「死の国からも、なお、語られ得る「希望」はあるか?」という「問い」を主題として絵画制作を展開しています。文筆にせよ、絵画制作にせよ彼の創作活動は、「『絶望』を見据えながら、諦めないこと。本来、人が生き得ない世界で、なお、人として生きようと願い続けること」という営為にほかなりません。彼の作品群は、私たちの「魂」や「精神」は、本来自由であり、高みに至り得るものであることを、想起させてくれます。

※施設の利用状況に関しては足利市立美術館のWebサイトをご確認ください

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足利市立美術館
足利市立美術館

集合住宅と併設された美術館。1階と2階は美術館、その上は住居という個性的なつくり。 通るたびに、住んでいる方をうらやましく思う。