Exhibition

津田 直+原 摩利彦
トライノアシオト―海の波は石となり、丘に眠る
【終了しました】 太田市美術館・図書館

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

およそ一万四千基という群馬県の古墳築造数は関東地方では屈指、全国的にみても数多い地域の一つといわれています。身の回りには、森となって風景に溶け込んでしまっているものもあれば、整備保存され公園として親しまれているもの、一部または完全に消失してしまったものなど様々な状態の古墳があります。消失と出現の狭間をさまよう古墳の風景を、私たちはどう見たらいいのでしょうか。

ともすれば「古墳の風景を見る」というと、視覚だけの行為のように思いがちです。しかし、「風景」という言葉が、空気の流れを意味する「風」と、日の光や影を意味する「景」から成り立っていることを考えれば、「見えないもの」と「見えるもの」の両方を取り込んで初めて、人はその風景を実感するのかもしれません。見えないものをも掴もうと思考し、身体の全感覚を使って対峙したとき、古墳は私たちの前にどう立ち現れるのか。

津田 直と原 摩利彦は、海を越えて伝え残された歴史に触れながら、外部から内部へ、明から暗へと、構造的に古墳にアプローチし、巨視的かつ微視的に考察することで、見えないものの領域、つまり古人たちの世界観や時間意識をも捉えようと試みました。その成果を、写真や音/音楽などの手法を用いたインスタレーション作品として表現します。古代の時と今が緩やかにつながっていることを示す彼らの作品を通して、本展が、私たちの日常に存在する古墳と出会い直すきっかけとなることを願います。

津田 直(つだ なお)
写真家。1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より国内外で多数の展覧会を中心に活動。最近では芸術祭への参加や、現代美術のフィールドを越えて他分野との共同制作、執筆、講演、特別授業なども行う。主な作品集に『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)受賞。大阪芸術大学客員教授。
https://tsudanao.com/

原 摩利彦(はら まりひこ)
音楽家。1983年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科修士課程中退。静けさの中の強さを軸にピアノを中心とした室内楽やフィールドレコーディング、電子音を用いた音響作品を制作する。笙やサントゥールを取り入れ音響的共存を目指したアルバム『PASSION』を発表。野田秀樹『フェイクスピア』やダミアン・ジャレ+名和晃平『VESSEL』などの舞台作品、映画『流浪の月』(監督:李相日)の音楽を手がける。令和3年度京都府文化賞奨励賞受賞。

津田 直と原 摩利彦の共同制作としては、芸術祭・のせでんアートライン2021《7+1 / 舞い降りてくる星辰、光を放つ》(能勢妙見山 / 信徒会館 星嶺、よろづや2階)がある。

All images from the series TORAINOASHIOTO © Nao Tsuda + Marihiko Hara

【展覧会を鑑賞して】

展示室1に入ると、弦楽器(バイオリン、ビオラ、チェロ)のしなやか音色が会場全体を包み込む。馬の尾でつくられた弓を用いた弦楽器だという。群馬県にある古墳の写真と木曽馬の写真が展示されており、古墳のなだらかなラインと馬の身体のラインが同じようにみえてくる。

なぜ馬なのか?「群馬だから」と言えば簡単に済んでしまうが、埴輪の馬を多く目にすることから分かるように、古墳時代においてすでに馬を育てる技術があったようだ。

写真をみながら弦楽器の音色を聴いていると、長い歴史を感じながらも、自分自身もその歴史の中を生きているという実感が生まれてくる。

展示室2へ向かうスロープでも、なにやら音が聴こえる。手すり側のスピーカーから、木曽馬の里で録音したリズミカルで心地良い馬の足音や鳴き声が聴こえる。そっと耳を澄まして聴いてほしい。

展示室2は暗闇の中に1枚の海の写真が光り輝く。玄界灘(福岡県、沖ノ島近海)の夜明けの海だ。波の音、鈴のような音が聴こえ、外部と遮断された不思議な空間になっている。

「石室内に入った時に海の存在を感じたから」と話す原氏は、綿貫観音山古墳の石室にハンディレコーダーを置いて夕方6時から朝9時まで中の様子を録音した。何も聴こえないが音量をUPするとノイズになるという。ここで聴こえる波の音は、この夜の静寂の音からつくったそうだ。

展示室3では作家が作品の説明をするVTRが流れる。そこでとても興味深い発言があった。

「古墳に対する固定概念から離れることで、歴史の入り口を探す」。

古墳に対する教科書的なイメージではなく、別視点(そこで生活する一般人の目線)で古墳をみるということだ。「古墳という言葉を1回忘れる」。簡単なようで難しい…。そんなことを考えながら、「そういえばここは古墳だった」といった目線で再度展示を鑑賞した。

日々、生活の繰り返しによって歴史は塗り重なりつくられていく。そう考えると、古い時代と現代は別物ではなく繋がっているのではないだろうか。鑑賞すればするほど発見がある展示なので、時間に余裕を持ってみてほしい。

※施設の利用状況に関しては太田市美術館・図書館のWebサイトをご確認ください

Place

太田市美術館・図書館
太田市美術館・図書館

アート系の本や雑誌、絵本などが揃う幅広い世代の方たちが楽しめる開かれた空間。グリーンのある屋上では、1Fのカフェで買ったドリンクを片手に寛ぐこともできる。