【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています
彫刻家・佐藤忠良の生誕 110年を機に開催する本展覧会は、佐藤の三つの代表作に焦点を当てながら、作品・資料合わせて174点(前後期展示替えあり)を紹介する展覧会です。写実を深く追求し、日本人の手で初めて日本人の顔を表現したと高く評価された《群馬の人》、イタリアの近代彫刻に刺激を受け、当時の若い女性が身につけた衣服や帽子を活力あるポーズに取り込んだ《帽子・夏》、的確な描写力と場面展開によって1962年の刊行以来読み継がれているロングセラー絵本『おおきなかぶ』。これら三点の傑作の制作背景を、佐藤自身が収集したロダン、ムーア、マリーニなどの作品と、彼らについて語った言葉を手がかりに解き明かします。
佐藤忠良について
宮城県に生まれた佐藤忠良(1912~2011)は、青年期までを北海道で過ごし、画家を志して上京します。その後ロダンをはじめとするフランス近代彫刻に魅せられ、東京美術学校(現・東京藝術大学)で彫刻を学び、卒業して間もなく新制作派協会(現・新制作協会)彫刻部の設立に参加しました。戦時中、召集されて旧満州に渡り、3年間のシベリア抑留も経験します。復員後は一貫して具象彫刻の道を歩み、戦後の日本彫刻史に大きな足跡を残しました。
前期:7月16日(土)~8月21日(日)/後期:8月23日(火)~9月19日(月・祝)
【展覧会を鑑賞して】
みなさんはブロンズ像に対してどんなイメージを抱いているだろうか。私は公園や学校、駅前、施設などパブリックな場所にあるアートというイメージがある。つまり、生活の一部というのだろうか、見慣れすぎていて特にこれといって印象に残るものがなかった。
しかし、本展示内にあるブロンズ作品の制作過程を紹介するVTRをみて「こんなにも大変な作業だとは!」と思い、ブロンズ作品に対する見方が変わった。そして「生活の一部」なんて軽々しく言って申し訳ない気持ちになった。制作過程において驚いたことは、彫刻家だけで完結しないということだ。彫刻家、石膏職人、鋳物職人、仕上げ職人が手を施すことで一つの作品が完成する。
佐藤忠良は「人体の骨となる心棒は、手抜きをせずしっかりとつくることが重要」だと話す。VTRの中で「段取り半分」と言っているのだが、この言葉をしっかりと頭に入れて作品を鑑賞すると、モデルのポーズひとつひとつが自然で美しいことの理由がみえてくる。
展示Iの作品《群馬の人》《常磐の大工》は「こういう人みたことある!」といったリアルさを感じた。《群馬の人》は伏し目でこけた頬、ブロンズだから分からないけれど浅黒く日焼けした肌をしているのだろう。何を見つめ何を考えているのか。顔の表情から心情を探ってしまう。いくつかの顔作品の中で、特に不思議な印象を持った《木曽》。アルカイックスマイルになんとも言えない不気味さを感じてしまったが、なぜだか目が離せない。展示IIの《フードの竜》《ラップ帽》も同様で、長くみていれば表情を掴めるのではないかと思い、しばし作品をみつめてしまった。
展示IIは帽子シリーズの作品が並ぶ。クタっとした麦わら帽子を目深く被る女性は、トップレスでパンタロンを履いている。ポージングやファッションがスタイリッシュで美しい。まるでファッション誌を眺めているような感覚になる。モデルが被っていた帽子も展示されていて興味深い。この作品のシリーズは、同じモデルだが髪型が作品によって異なる。先に記述したVTRの中で佐藤忠良は「髪型で印象が変わる」と話し、修正を施している様子があった。正面からはみえない髪型だが、全体のバランスをみるために細かいところまで調整する姿にハッとさせられた。
展示IIIは有名な絵本「おおきなかぶ」の原画が展示されている。やさしいタッチだが芯となる部分は、心棒の話を彷彿とさせるような強さを感じた。
展示Iの「こういう人みたことある!」から展示IIの「まるでファッション雑誌!」の流れには驚きがあり、当初抱いていたブロンズ像のイメージが大きく覆った。ぜひ、多くの人に佐藤忠良作品を堪能してほしい。