Exhibition

立花文穂展 印象
IT’S ONLY A PAPER MOON
【終了しました】 水戸芸術館現代美術ギャラリー

GO ON編集人

【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています

文字や紙、本を素材・テーマに作品を制作してきたアーティスト、立花文穂(たちばな・ふみお、1968年広島市生まれ)による、美術館での初個展を開催します。

製本業を営む家に生まれた立花は、幼少期より身近に存在した紙や印刷物、文字などから着想を得て、「よせ集める」「つなぎ合わせる」という行為を通じ新たなかたちをつくりだしました。2000年に入り活版による印刷物や大判カメラで撮影した写真、さらにブロンズによる彫刻など「文字」を基軸にした作品を制作し表現を探ってきました。同時に、葉がきからポスターまで多種多様な印刷物や本などのグラフィックデザインで高い評価を得るなど分野を横断して活動してきました。2007年から責任編集とデザインを自らが担当し発信する媒体として刊行する『球体』もその一つです。

立花の表現の原点には、紙に触れること、文字を書くこと、があります。それらは、実父が営んできた製本所の存在、子どもの頃から親しんだ「書」、そして彼の生まれ故郷である広島の歴史と記憶へとつながっていきます。近年、立花は、筆を持ち「書」のような作品へと回帰しています。

本展は、「印象」(英語では「IMPRINT/IMPRESS」)というタイトルのもと、印刷/印字と象形(かたどる/かたちづくる)という立花の創作の思想・思考に深く触れられる機会となるでしょう。美術館における初の個展として、本展に合わせて制作される新作とともに、彼の四半世紀にわたる創作を総体的に紹介します。

球体9『機会 OPPORTUNITIES』2021年
『球体1』2007年

【展覧会を鑑賞して】

本展では印刷、紙、文字、グラフィックデザイン、コラージュなどといった「アナログの格好良さ」が見どころなのだろうと思っていたが、会場に入ると次第にそのような上辺だけの印象は払拭されていった。展示は9つのテーマに分かれている。私が特に興味を持ったテーマについて、いくつか感想を述べたいと思う。

<1 .書体>
会場に入り圧倒的な力強さで迎え入れてくれた『た』。立花氏が幼稚園の時に書いたものだ。半紙からはみ出しそうな勢いで書かれた『た』はそれ以外何者でもないのだが、半紙に染み込んだ墨文字の深い部分を知りたくて何度も『た』の前に戻ってしまう。

<2.母体>
立花氏の故郷広島の話だ。私はここで冒頭に抱いていた作品に対するイメージ、そして広島の歴史のことなぞ表面的な部分しかみていないことに気付かされる。立花氏の父親は製本屋を営んでおり、平和式典の時に慰霊碑に納められる原爆死没者名簿を製本していた時期があったという。その死没者名簿に原爆で亡くなった人たちの名前を1人ずつ筆で書く人がいる。その映像と立花氏が書いた風通しについての文章を読み、涙が溢れた。私はこのようなことを全く知らなかった。

紙に文字を書くということは、何を意味するのか。紙に染み込む墨文字は人の涙、血液、そして影のようにも考えられ、一文字一文字に命の重さを感じた。<2.母体>をみてから、改めて<1 .書体>をみると作品の受け取り方が変わる。

展覧会鑑賞後に『傘下』を読んだ。撮影記憶などを記した用紙の中にある2014年6月11日に記した一文を紹介したい。

「墨を磨った筆で書いた字は、永遠」

立花氏の作品における根本的な部分は、この言葉に全て集約されているように思えた。

<4.変体>
『文字のはなし』と題されたメモが貼ってある作品は、まるで黒い雨のようだ。そのメモを読むと印刷工程における製版の作業が、原爆の悲惨さを語る人影の石と繋がる。<2.母体>にある風通しの文章もそうだが、立花氏の書く文章はやさしくて力強くスーッと心の中に入っていく。押し付けがましい部分がなく、読む側の思考に余白を持たせる。ぜひ、立花氏の文章にも注目してほしい。

<5.球体>
ガシャンガシャンと刻む活版印刷機のノイズが、他の楽器と交わることで音楽に変わっていく。活版印刷機は「楽器」ならぬ「楽機」なのだ。スピーカーから鳴る音は心地良く、ずっと聴いていたいと思わせる。

<7.月(にくづき)>
暗く重々しい作品が並ぶ。これらは新作だそう。立花氏の戦争画と捉えて良いのではないだろうか。

なぜ文字を書くのか。それはデジタルとアナログの話だけではみえてこない、深い歴史と想いがある。「アナログの格好良さ」から入っても良いだろう。それをきっかけに立花氏の思考に触れてほしい。

最後にもう一度『た』の前へ行った。なんだか生きるパワーをもらった気がして、グッと拳を握って会場を後にした。

<3組6名様へチケットプレゼント> ※当選者1名に対して2枚チケットを送ります
展覧会の感想文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。チケットプレゼントをご希望の方はこちらからご応募ください。Contact内お問い合わせ内容に「水戸芸術館チケット応募」と記載してください。当選者へはメールにてお知らせいたします。ぜひ、ご応募ください!※受付は終了しました。ご応募ありがとうございました(9/12)。

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水戸芸術館現代美術ギャラリー

個性的なタワーが目印の水戸芸術館。その中の水戸芸術館現代美術ギャラリーは、館内だけでなく街なかにアートを展示するなど、アートを通して地域の人々と繋がる活動も実施している。