【展覧会概要】※展覧会概要の下に取材記事を掲載しています
「ブラチスラバ世界絵本原画展」(略称BIB=Biennial of Illustrations Bratislava)は、スロバキア共和国の首都ブラチスラバで2年ごとに開催される、世界最大規模の絵本原画コンクールです。
本展覧会では、開催国であるスロバキア共和国と、隣国であるチェコ共和国の作家による絵本原画をご覧いただくほか、2019年10月から翌年1月にかけて現地で開催された第27回展(BIB 2019)の中から、各国の作家による受賞作品をパネル展示にて紹介いたします。
もとは一つの国だったスロバキアとチェコの両国は、2020年に日本との交流100年を迎えました。それを記念して、両国の新しい作家に注目し、原画作品のほか、多彩な絵本の数々を展示いたします。
また、日本とBIBとの関わりに目を向けると、第1回展より参加してきた日本は、主要な出品国の一つとして、多くの受賞作家を輩出してきました。本展においては、BIB2019で金牌を受賞したきくちちきをはじめとして、出品した15組の日本人作家の原画作品をご覧いただくとともに、4組の作家に焦点をあて、作品に込めた思いや創作活動の背景をご紹介します。
【展覧会を鑑賞して】
チェコとスロバキアと聞いて思い出すのは、ヤン・シュヴァンクマイエルの映像作品だ。
「ちょっと不気味なファンタジー」、そんなイメージがある。
そのため『チェコとスロバキアの新しい絵本』と聞いても明るいイメージは浮かばず、薄暗くどんよりとした曇り空の風景しか浮かばなかった。
展示室1はチェコの絵本が並ぶ。
私が気になった作品はバルボラ・キシコヴァー『しかけ』。鉛筆と水彩で描かれた探偵物語だ。絵本なのに色がない。少年の表情があまり明るくない。冒頭で述べた「薄暗くどんよりとした曇り空の風景」そのものである。しかし、妙に気になってしまう。少年の大人でも子どもでもない微妙な雰囲気が気になるのだろうか。じっくり読んでみたい作品だ。
2つ目はミラン・スタリー『タマネギにみんな泣く』。明るい色使いとポップな描写がかわいらしい。しかし食虫植物が出てきたりするので、程よく毒気が含まれている。
展示室2ではスロバキアの絵本、各国の作家による受賞作品、出品した日本人作家の作品が鑑賞できる。入って正面に展示されている、スヴェトザール・コシツキー『ホチの山々には必ずなにかがある』。私は展示全体の中でこの作品が1番好きだ。グリザイユ画法(茶色の下塗りの上に白と黒の油彩だけで描く)で表現されている。そのため光と影の雰囲気に奥行きを感じ、ぐいぐい引き込まれる幻想的な作品だ。この作品も絵本なのに色がない。
しかし「子ども審査員賞」を受賞している。なぜだろう。
じっくり鑑賞していると、絵本の中には妖精のようなキャラクターや魔女などが出てくる。まさに「ちょっと不気味なファンタジー」ではないか。
色があるから子ども向け、というような基準はなく、いかに物語に入り込んでいけるかが大切なのではないか。きっと子どもたちは、この光と影の幻想的な世界に引き込まれていったのだろう。大人の私もすっかり魅了されてしまった。
展示室3は、絵本ができるまでの作家の背景が展示されている。
展示室2にある4組の作家のアトリエや、絵本の世界がそのまま飛び出してきたような立体の作品などがある。あまりネタバラシをしてしまうとつまらないので詳細は伏せるが、展示室2と展示室3を行き来して、作家の頭の中をイメージするのも楽しい。この展示をみることで作家への親しみが生まれ、「これから誕生する新たな物語」を期待せずにいられない。
今回の展示で「絵本=明るい=子ども向け」だけではない世界を知ることができ、改めて絵本の奥深さに気付かされた。子どもと一緒でも、大人だけでも楽しめる絵本が揃っているので、ぜひ足を運んでいただきたい。
※施設の利用状況に関しては足利市立美術館のWebサイトをご確認ください