Column

日本の夏、奇太郎の夏

佐藤一花

はじめて岡本奇太郎さんと対談したのは2年前の夏。まさかその奇太郎さんが『轟音』で連載をすることになろうとは、その時は思いもしなかった。8月5日から鎌倉のCyで個展『IZAKAMAKURA』を控える奇太郎さんと、前回同様、ノープランZOOM対談を行った。

「来週から個展がはじまりますが制作の状況はいかがですか?」

「ヤバいです。ほとんど寝てます。普段から1日10時間は寝るんですが、締め切り前になるとさらに睡眠をとる傾向があって、今は15時間近く寝てます」

「大谷翔平スタイルですね、間に合いそうですか?」

「現実的に作品に手をつけられる時間は限られるんですが、寝てる間に作品の構想や完成までの手順を考えられる特殊能力があるので、起きたらすぐにそれを形にしています。ギリギリですがなんとかなるかなと」

「今回個展のテーマはあるんでしたっけ?」

「いつも通り特にテーマはないんですが、アナログコラージュと立体作品と動画の上映を予定しています」

「最近は動画制作にハマっているんですか?昨年の大阪の個展で披露していたブラウン管に映し出した動画作品も面白かったです」

「僕自身、動画制作に関してほとんど知識がないので手探りでやっています。飽き性なんで慣れない作業をやるのは楽しいですね。アナログコラージュはここ数年、ギャラリーやクライアントからの要望がないと、自ら進んで作ることはまずないです。それでもいまだに『コラージュアーティスト』って言われることが多いんですけど」

「世の中の人の印象なんて勝手なもんですからね」

「確かに自分はゼロから作品を作るタイプではなくて、既にあるものを整理したり加工したりして作品を作るタイプには違いないですが、コラージュアーティストというよりは編集者的な感覚で制作しています」

「作品を作る上で刺激を受けたインプットって最近何かありましたか?」

「ちょうど今日見てきたマルジェラのインスタレーションがすごく良かったです。ジョン・ガリアーノがディレクションした『シネマ・インフェルノ』っていう映画を、上下左右鏡張りの部屋の中で上映していて、不思議な視覚体験ができました」

「草間さんの鏡の部屋みたいな感じ?」

「そうそう。映画の内容自体は自分的にはどうでもよかったけど、その見せ方が面白かった。あとオートクチュールを発表するのに、洋服をモデルに着せてランウェイを歩かせるっていう基本的なやり方じゃなくて、演劇と映像も掛け合わせて見せるっていう発想自体も面白いなと感じました」

「奇太郎さんはガリアーノのインスタレーションみたいにコンセプトを立てて作品をつくることはないですか?」

「基本的にはないけど、例えば赤瀬川原平さんの『宇宙の缶詰』みたいに、コンセプトがあることで作品の面白さが倍増するような表現を思いついた時は、『この作品のコンセプトは~』とか言うかもしれないですね」
 
そこから奇太郎さんによる赤瀬川原平さんの話が止まらなかった。読売アンデパンダン展での逸話、千円札裁判、イラストレーター・漫画家としての活動、尾辻克彦名義での芥川賞受賞、トマソンの発見、日本美術応援団など、赤瀬川さんがいかにジャンルを横断した活動をしていたかについて熱く語る。その熱量から奇太郎さん自身、赤瀬川さんのようなマルチタレント的な存在に憧れがあるように感じられた。

確かに、バンドをやって絵も描くとか、そういう人に対しての憧れは私にもある。嫉妬ではなく、なぜ自分はひとつのことも大して出来ないのだろうかと思ったりする。マルチな活動について語るうちに、先月発表されたAwich、NENE、LANA、MaRI、AI、ゆりやんレトリィバァによる『Bad Bitch美学 Remix』に話が及んだ。

「BBB、最高でしたよね。其々がぐうの音も出ないというか、誇張も嘘もなく、でさーねーって言うしかない歌詞で」

「ゆりやんなんかはそれこそ、アメリカズ・ゴット・タレントに出演したことやNetflixで主役を張ったこと、R-1とTHE Wで二冠を獲ったことがリリックになっていて、単純にラップも上手いしマルチそのものだよね」

「じゃあ、奇太郎さんを今後誰かに紹介する時は、コラージュアーティストじゃなくてマルチタレントって紹介しますね」

「一応、作品も作って原稿も書いて、アートコレクションもするし、免状を取得して茶道もやったり、赤瀬川さんやゆりやんほどとまではいかないものの、それなりに色んな表現は試しているつもりなんですけどね。コラージュアーティストよりはマルチタレントの方が怪しくていいかも。もしくは酔っ払い」

対談中、絶賛飲酒をキメ込んでいた奇太郎さんは、時間が経つにつれ私から見ると顔半分下が見切れるようになっていき、最終的には酔い潰れたのか画角から消え去ってしまった。来週の個展に向けて構想を考える時間に突入したのかもしれない。その成果はぜひ会場でご覧ください。

岡本奇太郎 個展『IZAKAMAKURA』
【読み】いざかまくら
【意味】一大事が起こり、とりあえず駆けつけるべき時
平面、立体、動画、準備しました。※在廊日時はInstagramストーリーにて告知します。
8/5(土)〜20(日) 14:00-24:00(水曜日定休)
at Cy 鎌倉市由比ガ浜1-9-4

岡本奇太郎今月のコラム「酒場奇太郎 〜財布〜」はこちらをご覧ください。

佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。