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此方と彼方の世界
誕生日プレゼントに、友人から鈴木清順閑話集「そんなことはもう忘れたよ」をいただいた。映画関係の本はいくつか出ているが、清順監督のプライベートに迫った書籍を読んだのは初めてだった。読了していないが、ますます清順監督の魅力に取り憑かれそうな内容である。
その影響で、ここ最近は清順監督のことで頭がいっぱいだ。
清順監督を知ったのはいつだっただろうか。「美少女仮面ポワトリン」の神様かな?
初見からすでにお爺さんだったので、ずっと神様の印象だ。
映画を初めてみたのは、2001年シネセゾン渋谷で特集上映された「DEEP SEIJUN」。
その年に新作「ピストルオペラ」も上映されていたと思う。
「DEEP SEIJUN」で上映された作品は、大正浪漫三部作と呼ばれている「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」。
なぜそんなにもこれらの作品に惹かれたのか分からないが、パンフレットはもちろん(プレス用のパンフレットも買った)サントラまで買い、三作品全て鑑賞した。
特に印象に残ったのが「陽炎座」(最後のセットが崩れるシーンで我慢できずトイレに行ってしまったが)。以下、ずっと頭に残っているシーンとセリフ。
『だしぬけに失礼ではございますが』大楠道代のカゴに入った花がパーっと飛び散る階段。
松田優作の足の長さを存分に生かした、大楠道代との絡み合い。
『三度お会いして四度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません』。
大楠道代の股からほおずきがたくさん出てくる桶の中。
『夢というのはなぜ覚めるのでしょう』。
拍子の狂った祭囃子が気になる原田芳雄が、『あなたの唇が美味しそうだったから』と松田優作の唇に触れる。
未だよく分からない「人形の裏返し」の話。
なぜ出演しているのか謎でしかない、金髪で青い目をした楠田枝里子。
誰かの背中に指で書きたい『□い○○△』。
大楠道代は妖しく、美しく、そして冷淡な雰囲気で観客を惑わせる。
余談だが、大楠道代が確か豊田監督の映画に出演した時に、共演者との打ち上げに参加せず、煙草をくわえベンツをぶっとばして去っていったというエピソードを何かでみて「目指したい女性」の1人になった。「ツィゴイネルワイゼン」の大谷直子も同様で、あの冷ややかな目で「なにか?」と言ってうるさい輩を黙らせたいものだ。
2007年頃だろうか、荒戸源次郎がプロデュースした映画館の一角座が上野公園の東京国立博物館の敷地内に建てられ(移動式映画館)、そこで「ツィゴイネルワイゼン」を鑑賞した。「DEEP SEIJUN」の鑑賞後なので、2回目の鑑賞だと思う。
私は清順監督の映画は、絶対に映画館で鑑賞したい。自宅の小さな画面でちまちまーりみるなんてもったいないと思っている。
だからDVDは持っていない。上映されるたびに映画館へ足を運ぶようにして、セリフやシーンを脳裏に焼き付けるようにしている。
上野公園での上映後、外に出るとすでに夜。
雨が降っており、霧がかかっていた。
早足で上野駅へと向かったが、一瞬狐につままれたような気持ちに。
前をみれば煌々とした明るい上野駅がみえるのだが、恐る恐る後ろを振り返ると霧で何もみえない。
まるでそこは「此方と彼方の世界の狭間」のような気がして、怖い気持ちと、もっと映画の余韻を堪能すべくここに留まっていたい、という両方の気持ちに苛まれた。
大谷直子に「もう後戻りはできませんわね」とでも言われているかのように。
しかし、本当に怖くなってきたのでダッシュで上野駅に向い、元の世界へ戻ったのだ。
その頃から「此方と彼方の世界の狭間」を描く映画の魅力にはまり、デヴィット・リンチやテリー・ギリアムの作品をみるようになっていくのであった。
目指したくても目指せない異次元にいる
前回記載した川勝さんは「師」であり、様々なことを学ばせていただいた。
しかし清順監督から「何を学んだのか?」と聞かれても、そうはっきりとは答えられない。
ましてや「目指しているのか?」と聞かれたら、到底手の届かない遥か彼方のスーパースターなので、そんなこと恐れ多くて考えられない。
やはり「美少女仮面ポワトリン」の神様なのか?
飄々として「そんなことはもう忘れたよ」と言って、煙に巻く。
「そんなことはもう忘れたよ」という言葉が一番似合う方であり、またその容姿から「もうお爺さんですしね」と納得がいく。
先に紹介した書籍の中では、47歳離れた妻との馴れ初めやツーショット写真、妻のコメントも記載されている。歳の離れた夫婦というと、、、思い出す人物がいると思うが、彼らとは全く異なる。本当に微笑ましいご夫妻だ。
書籍の中で「その日」について綴られた章がある。
清順監督はもうこの世にいないので、「その日」のことが綴られているのは当然のことだと思うが、実はその章だけ目を通せないでいる。なぜだろう。亡くなったニュースを聞いた時も「彼方側へ逝ったようで。さようなら」と私個人のInstagramに投稿をし、この世にいない清順監督を受け入れている。私は、死に関しては受け入れているが「その日」があった事実を受け入れることが怖いのだろうか。いつか「その日」の章と向き合って読めるようにしたい。
ということで、今月は清順監督二本立てに。
「夢二」と「ピストルオペラ」だろうか。
「夢二」、実はあまりピンとこなくて、ちゃんともう一度鑑賞したいと思っている。
若い頃の広田レオナは必見なので、それだけでもみておこうか。
そして「ピストルオペラ」。当時脚本家を目指していた恋人とみにいったが「こんなの映画じゃない」と怒って口を聞いてくれなかった。
大谷直子の冷ややかな目でこう言いたい「あなた日活?」。
『清順はええのぅ』(岡崎京子の何かの漫画のセリフ)。