Column

岡山の新たな奇祭になるかもしれない、『あなごFES』とは?〜前編〜

カタオカキヨシ

岡山県には、まわしを締めた裸の男たちが宝木(しんぎ)をめぐって激しく戦いを繰り広げる『はだか祭り』や、修験者に憑依した護法実(ゴーサマ)が、闇の中を縦横無尽に駆け回る『護法祭』など、長い歴史を持つ奇祭や変わったお祭りが数多くある。

ワタクシがDJとして毎年のように参加している『わやじゃ祭』は、倉敷駅前のクラブやバー数店舗で合同開催されるイベントで、夕方から翌朝まで音楽とお酒にまみれる、まさに’わやじゃ’(岡山弁でメチャクチャという意味)なお祭りなので、21世紀型の奇祭と言っても差し支えないだろう。

そんな岡山県で生まれた新たなお祭り、『あなごFES』はアナゴを焼いたり、天ぷらにしたりして食べ尽くすようなフードフェスの類いではなく、サウンドエンジニアの砂子紋里沙(マナゴアリサ)さんが主催する、迫力のライブも人気の屋台もアートもなんでもござれ! のお祭りイベント。イベント名は砂子さんが幼少の頃、あだ名で’あなご’と呼ばれていたことから付けられたそうだ。

2018年の橋の下音楽祭に参加した砂子さんは、TURTLE ISLANDの永山愛樹氏の「お前ら、こんなに集まるんじゃない。楽しいのは良いけど、これは俺たちの祭りなんだから。こんな楽しいこと、自分のとこでやれよ」というMCに感銘を受け、翌年から橋の下音楽祭に参加することなく、コロナ禍の最中も頭の中で祭りや表現のことを考え続けたそう。そして、「日々の営みの中で培っている自分の中にある物を見せるしかない」と、決心し実行に移したのが2024年1月20日に開催された『あなごFES』だ。

会場は、長きに渡って岡山の文化・芸術の発信拠点としての役目を担ってきた岡山市民会館。数多くのアーティストのライブやミュージカル公演などが行われ、県内外問わずたくさんの人に親しまれてきた施設だが、老朽化のため2024年3月31日をもって閉館となり、今後解体されることになっている。

岡山市民会館の外観。モダンで存在感のある昭和の歴史的建造物がまた一つ姿を消す

雑貨や服、レコードなどのお店が出店していた、ホワイエ2階。壁面に嵌め込まれている色とりどりのモザイクガラスが館内を彩る

ホワイエ1階には出演者物販や飲食エリアが設けられ、今回は60年に渡る岡山市民会館の歴史上、初めてアルコールの提供が認められたそう。それもあって、『あなごFES』のサブタイトルには「前代未聞!岡山市民会館超特別公演!」と付けられたようだ。

バー出店していた、108倉敷のTATTOくんとデザートタイムのヘイハチくん。いつもお世話になってます!

出番前にまずは一杯。ホロ酔いでご機嫌さんなザ・ワイラーズのメンバー

この日フード出店していた、「フリーダムタコス」の店主・マサオさんはグラインドコアシーンにその名を刻んだ、324の中心人物。この日が初対面だったが、数十年前にワタクシがやっていたハードコアバンドのギタリストがマサオさんと一緒にバンドをやっていたと聞いていたので、話かけたところ、短い時間だったがハードコア界隈の話に花が咲いた。

フリーダムタコスのマサオさんが作る、化学調味料や添加物不使用のタコライスも堪能

あなごFESは、岡山市民会館のスペースを有効活用し、大ホールの“どやどや祭ステージ”エリアとホワイエの“がやがや街ステージ”エリアの2エリアのステージを用意。岡山で活躍するデコレーションアーティストが各エリアの装飾を担当し、この日だけの舞台が出来上がった。

“がやがや街ステージ”の装飾を担当したのは、108倉敷などでイベントのデコレーションを数多く手掛けるpyonくん。家具職人でもある彼に今回のデコのコンセプトを尋ねたところ、「お酒が進むような空間を目指して作成した」とのこと。ウッディーで温かみのあるデコの制作時間には18時間ほど掛かったそうで、協賛企画の名入れ行燈の灯りが会場を彩っていた。

お祭り感とパーティー感満載。ホワイエの“がやがや街ステージ”

僭越ながら、行燈にワタクシの名前も入れていただきました

“がやがや街ステージ”は、岡山のアンダーグラウンドシーンやストリートカルチャーがテーマ。オープニングを飾ったのは、20代前半の若手レゲエクルー・BAMBOO CREW。108倉敷で「FULL UP」というイベントを主催している、今後の岡山のレゲエシーンを担う注目の次世代クルーだ。彼らは若い世代としては珍しくレコードでプレイするのだが、EARTH SOUNDのサウンドシステムから出るその音は、まさに「レゲエ」なサウンド。

BAMBOO CREW

EARTH SOUNDの移動式音響設備「EARTH 086 SOUND SYSTEM」

そして、ジャマイカ発祥のオーセンティックなスカをメインとしながら、ロックステディーやレゲエ、ダブなど、カリブ海の音楽に影響を受けたバンドサウンドを展開している、The Wailars(ザ・ワイラーズ)の登場でオーディエンスのテンションが一気に上昇。これまでにイベントで一緒になることが多く、何度もワイラーズのライブを見ているのだが、この日のライブはバンドのテンションやほっこりするMCも含めて、いいライブだった。

The Wailars

今回初見だった、やっほーはファストコアと言ってもいい、超高速のビートにノイジーなバックトラックが乗り、ボーカルは会場中を暴れ回りながら絶叫。場内が一気にカオスな空間となった。ある意味、今回のFESで一番のインパクトを残したパフォーマンスだったかもしれない。

やっほー

続いての、オッス!オラ和人!は、ニューヨークのハードゲイを思わせる出立ちで、歌いながら時折ロウソクの火でケツ毛を燃やすという、こちらもインパクト大のパフォーマンス。曲は意外にポップで、ムダに(失礼!)歌が上手いし、歌詞もよく聴くとイイことを歌っている(気がした)。

オッス!オラ和人!

日本初のヒップホップを中心としたクラブミュージックレーベル「MAJOR FORCE」の創設者の一人であり、DJやミュージシャンとしてワールドワイドに活動を続けているK.U.D.O.氏も『アナゴFES』に出演。以前DJでご一緒したときにも感じたのが、ジャンルを超えた幅の広いK.U.D.O.氏のプレイはあらゆるミュージックラバーズに響いている、ということ。この日も氏が掛けるダンスミュージックが音好きたちの身体を気持ち良さそうに揺らしていた。

「MAJOR FORCE」のキャップやスタジャンを着用してプレイするK.U.D.O.氏

北海道出身で、全国各地の酒場を中心に音楽活動を続けている2人組「じゃじゃ漏れ騒動」のライブも相変わらず心地よかった。ヒップホップとブルースが融合したようなオーガニックなサウンドは唯一無二。オーディエンスは皆、床に座って2人のリリックや歌に耳を傾け、“がやがや街ステージ”はピースフルな空気に包まれた。

じゃじゃ漏れ騒動

ジャパニーズHIP HOP界の至宝であり、DJのみならず楽曲制作やプロデュースなど、多岐に渡る音楽活動で知られる、KWAZZ YOKOYAMA氏はHIP HOPやSOULなどのブラックミュージックをプレイ。選曲はもちろん、職人的な技巧のスクラッチなど、長いDJキャリアに裏打ちされた熟練のプレイにしばし聴き惚れてしまった。

2015年に東京から岡山に移住した、KWAZZ YOKOYAMA氏は岡山駅前でBAR「いちぎん」を営む

“がやがや街ステージ”のラストを飾ったのは、岡山のサウンドシステムクルー・Hot&Ice the Muzikに所属するセレクター、フランケン。倉敷のレゲエバーDoobyで毎月開催しているラウンジイベント「WATCH THIS SOUND」を主催する彼は気持ちいいレゲエのツボを分かっており、BOB MARLEYの曲をはじめ、グッド・チューンをしこたま聴かせてくれた。

フランケン(左)とEARTH SOUNDのNOLI

と、ここまで“がやがや街ステージ”の模様を書いてきたが、年のせいか息切れしてきたので、TURTLE ISLAND や柳家睦&ザ・ラットボーンズ、Theタイマンチーズなどのアーティストが出演した“どやどや祭ステージ”の模様は後編で。

後編に続く

Creator

カタオカキヨシ

宮城県出身。蟹座。A型。ライター・編集者。平成を代表するサブカル誌『BURST』では、主にタトゥーに関する記事の執筆や「ラスタマン養成講座」などの特集記事の企画・執筆を手掛ける。2007年〜2008年に出版された、写真家・菊池茂夫氏の写真集「ROCKER'S TATTOO」と「ROCKER'S TATTOO Returns」では編集を担当。2016年から生活拠点を岡山県に移し、米や大豆などの無農薬栽培に取り組みながらLuv KiyoshiというDJネームでDJ活動も行う。