Column

THE SECONDを終えて

ボンジュール古本

前口上
2023年5月20日『THE SECOND~漫才トーナメント~』の放送があった。この大会が開催されると発表があった時は、なんだかうさんくさい大会だと思っていたにもかかわらず、3月のコラムを読み返すと私は大変楽しみにしていた様子がわかる。4、5月にもTHE SECONDに触れており、懲りずに今回も言いたいことを言うだけの総評と感想、1人アフタートークになりそうだ。これをTHE SECOND3部作としたい。お暇な方は、さあお立ち合い!

職業、漫才師(ギャロップ 毛利大亮)

初代王者はギャロップという大阪の漫才師。おめでとう!

一戦目のテンダラーとは先輩後輩で、大阪の劇場で切磋琢磨してきた仲だ。ここに勝った時点で毛利さんは涙目になってしまい、もう自分たちの役目は果たした、と心底思っているように見えた。そのせいか、その後のMCとのやりとりや、漫才中も余裕が見えて頼もしかった。

ギャロップの毛利さんの、優勝決定後の一言は「最近は劇場の出番が減っていた。もっと出たいのにとくやしい思いをしていたが、報われた」と話していた。私はここで、視界が涙でぼやけた。この泣きには、戦って負けたマシンガンズも、ここまで来られて良かったね、という賞賛も入っている。

大会翌日、大宮ラクーンよしもと劇場で『緊急トークライブ』が行われ、ギャロップ、第3位の囲碁将棋が登場し、当日の舞台裏やその時の心境を話していた。ギャロップの毛利さんは「トーナメントだから、戦う相手もお客さんのウケ方も瞬間で変わる。そのため、直前の舞台袖でやる予定のネタ順を変えたり、漫才中の大きい声を出す場面では、普段より30秒多めに使ってウケる時間を引き延ばした」等、細かな調整を行っていたそうだ。

「舞台はナマモノ」とよく言われたりするが、ステージやお客さんが変われば、同じネタを披露してもウケ方は全く違うものになる。囲碁将棋は前日、沼津市の劇場に立ち大会と同じネタを披露したが、2本とも「ゼロ笑い」だったそうだ。

アドリブを入れたり、動作を変えたり、場面や状況に応じて「その場でできる、最高に笑える状態」を瞬時に判断し、披露できる人達が、優れた漫才師と言われる所以なのかと感じた。それは長年の経験を積んだ、賜物だ。

ギャロップは大会の中では唯一、M-1GPのファイナリスト経験者でもある。2018M-1に出場した際、審査員からの評価は辛辣だった。

「もっとおもしろいネタいっぱいあるのに」
「自虐はあまりウケないことをもっと自覚しなさい」
「林くんの髪の禿げかたがおもしろくない」

賞レース出場経験者だからできる戦い方を、存分に発揮したような気負ってなさを感じ、今回はそれをクリアして臨み、実を結んだ結果だと感激した。

#自撮りおじさん(マシンガンズ 滝沢秀一)

舞台セットの扉がゴゴゴと開いて、漫才師が舞台中央へ登場するシーンに私は最も痺れた。

囲碁将棋は、文田さんが上を見上げ「どうもおおーー!!!」と出囃子に負けない大きな声で悠然と歩いてくる。サンパチマイクの長さを調節する姿に毎度ほれぼれしてしまう。
ギャロップは、毛利さんが胸を張りダブルの背広をバチっと着こなし「ありがたいですね〜」と声に出して堂々と登場する。こなれた、いかにも大阪の、風格のある漫才師といった感じだ。

特にグッときたのはマシンガンズの滝沢さんで、顔の少し先に人差し指を立てて、腕ごと振りかぶった瞬間中央に向かって颯爽と歩き出す。その勢いのまま喋り倒し、拳を突き上げて客席を振り返りながら去っていく。

滝沢さんは普段、ごみ清掃員として働いている。5年前は「心の中では芸人は辞めている。お笑いに希望も目標も何もない」と言っていたそうで、今大会の予選の度に「自信ない。勝てないよ」と投げやりに挑んでいた。

しかし予選通過する度に、対戦仲間と共に喜び「こんなことあるんだな!今まで続けてきて良かったな!」とこの上ない笑顔を見せた。ステージ上から「ちょっと袖うるさいよ!」と叱られているのに「ごめん!嬉しくってさ!」と叫ぶ滝沢さんは、まるでお笑いの希望を具現化したそのものに見えた。人は、一度完全に諦念したりやけになると怖いものがなくなり、どうせダメならこの場を荒らしてやろうと振り切れるのだ。

そのとびきりの笑顔に魅せられた視聴者が多かったのか、翌日より1週間、Twitterのトレンドワードに「滝沢さん」が入っていた。顔がかっこいいこともあるが、今現在、自分のやりたいことを心底楽しんでいる人の、喜びが溢れているような表情だ。

放送から半月以上経った今も、芸人仲間を巻き込み、自撮り写真をアップしまくっている。漫才中「優勝したら絶対モテるだろ!」と叫んでいたが、今モテているのだろうか?
この先もごみ清掃員は続けたいそうだが、同時に漫才も続けてくれたら、こんなに嬉しいことはない。

平気なフリするの、以外と大変(スピードワゴン 小沢一敬)

THE SECOND生放送終了後、スピードワゴンの小沢さんは芸人たちの楽屋を端から端まで「今から打ち上げ行く人〜!」と声を掛け回り、ほぼ全員が集まり急遽打ち上げが行われたそうだ。「(皆からしたら相当上の先輩なのに)こういうこと言える俺が俺で良かった。大会が楽しかったから、終わらせたくなかった」とても彼らしいエピソードだ。

小沢さんは最初、お笑い番組の審査員をつとめていることもあり、出場するつもりがなかったらしい。しかし相方の潤さんに「1回目だぜ?1回目だから出なきゃ!」と促された。大会後のアフタートークでは「漫才師が全員出ないといけないわけじゃなくて、漫才師だという自負がある奴は出なきゃいけない」とは、小沢さんにしか言えない名言だ。負けたことがめちゃくちゃ悔しくて、今では他の芸人にインスパイアされ、違うスタイルの漫才も作っているところだと話す小沢さん、来年も楽しみにしています!

思えば、私の今年の上半期はTHE SECOND一色だった。目が離せない予選から、ずっと楽しませてもらった。お笑い番組では、赤やゴールドの色を使ったステージをよく見かけるが、セカンドのスタジオの照明や大道具の色は、青で統一されていた。

夜空の星の表面温度は、高温になるにつれ「赤→オレンジ→青」と変化する。青い星は赤よりも高温で静かに燃え、輝き続ける。まるで、長く続けてきた漫才師たちの持ち合わせた熱量、このまま終われないという執念、笑いに取り憑かれた人たちの生き様を表しているかのようにも見えた。

常々、笑いは中毒性のあるものと思っているが、これは見る側の状態であり笑わせる芸人側は、まるで依存症のようだ。特定の何かに心を奪われ、それなしではいられない状態であり、のめり込むことで気分が大きく変化し、自分に不利な結果が出ていてもやめられない。

まさに依存ではないか?舞台に立ち、人を笑わせたことのある人は、その快楽状態にずぶずぶなのだ。