Column

副作用のない精神安定剤「笑い」
(アメリカの作家アーノルド・グラソー)

ボンジュール古本

年2回

月に数回、お笑い芸人のネタをみに劇場へ行く。というか行っていた。
2020年は周知の通りであり、昨年実際にお笑いライブをみに行けたのは2回だけだった。
たった2回だけ?!親戚のおばさんが年2回、必ず参加するという「バスツアーで行く宝塚観劇とお台場の高級ホテルビュッフェ」と同じ回数?!愕然とした。「日頃の自分にご褒美」と言わんばかりの『年2回』というワードに漂う、普通の人の普通に感じる普通なぜいたく感。

私はぜいたくをするためにライブへ足を運んでいるのではなく、ただ笑いに行っているだけなのに…。2020年に行けた、たった2回のライブの事はなるべく忘れずにいようと誓った。
しかし今、誰が出演していてどんなライブだったかをどうしても思い出せず、誓いは早々に破られたのだった。

50%/50%

代わりに、都内で行われることがほとんどの様々なお笑いライブはストリーミングサービスでみられるようになり、地方に住む者としては大変便利になった。動画配信が始まった当初は、自分のデスクトップでライブをみられるなんて最高この上なしと歓喜し、片っ端からみまくった。

いつもライブを「必ず行く」「ヒマなら行く」「一応みておく」の3段階に分けており、複数の劇場の月間スケジュールをみて予定を立てていた。例えば「必ず」組と「ヒマなら」組が1日のうちに各2本あったりするとこれはもうラッキーで、必ず行く。ただし「ヒマなら」組と「一応」組が合わせて3本だと、みたい気持ちはあっても、そのために時間をかけて向かうのは少し面倒だと感じることもある。

しかし電車で読書したり、霜降り明星のオールナイトニッポンを聴いたりできる…と思うと、かなり行く気になってくる。なんなら電車内でそんな風に過ごしたいがために行く場合もある。いや大袈裟か。比率にするとライブの楽しみ50%、電車内の楽しみ50%くらいだから、あながち大袈裟でもないかもしれない。

以前仕事で、クライアントの女性が「わたしい、ディズニーランドがあ、超大好きなんですう」と話していた。しかし、現地へ向かう道中は「超だるいし飽きるから一瞬で現場に着いて欲しい」ということだった。車にしろ電車にしろ行く道のりが「超だるい」らしい。

もし私がディズニーランドへ遊びに行くことになったら、道中が一番楽しい時かもしれないと思った。車で向かう途中サービスエリアに立ち寄り、スターバックスでコーヒーを飲んでいる時がおそらくテンションのMAX値で、電車の場合なら、東京メトロ日比谷線の八丁堀駅で乗り換え中に「もうすぐ着く!」とわくわくしている時がおそらくその日一番興奮している瞬間だと予想する。
もちろん現地もちゃんと楽しめると思うので、今度実行してみようかと思っている。
ただディズニーランドには20年以上行っていないので、楽しみ方を忘れていなければいいのだが…。

配信ライブはアーカイブも数日後まで残っていたりして、自分の都合の良い時間にみることができる。とても合理的だが「このライブを生でみたら、きっとさらにおもしろかったかもしれない」と思うことが多い。開演時間を過ぎたらそれはもう過去のことであり、明日みようと思っていた配信も時間が経つにつれ鮮度が落ち、どうでもよくなっていく。

大好きな宝塚歌劇団の芝居も、劇場ではあっという間に終わってしまうのに、DVDでみると確実に10分で寝る。芸人が劇場で漫才をし、それをその場でみる。ステージを生でみる興奮に、利便性は上回らないのであった。

今年初めてのお笑いライブ2021/3/6

「笑気麻酔」というものを最近知った。
歯医者等でよく使用される麻酔の一種で、頭がぼんやりし、気持ちを落ち着かせ、痛みを感じにくくさせる効能があるそうだ。笑気とは「亜酸化窒素(N2O)」の別名で、このガスを吸った患者さんが陶酔し笑ったような表情になり、こう呼ばれるようになったらしい。麻酔の名前をそんなカジュアルに付けていいのかと思ったが、世の中はそういったもので溢れている。
この字面だけをみた時、なんとも言えない魅力を感じ、意味を調べる前にどんな効能か勝手に想像した。吸入すると軽い香気があり、精神的にリラックスし笑えてくる。もしそんな麻酔があったら、かかってみたい。

新宿にある某劇場へ行くと、ネタ中におしゃべりを始めてしまう女性2人組が、自分の座席の後ろにいることが多い。彼女らは応援していない芸人が登場すると「この人、出待ちの時感じ悪くてひいた」「またこのネタだよ」など言い出し、そのまま流れるように別の会話が始まる。

「そういえばうちのママ離婚しそうって言ってたじゃん、この前さ、ママの彼氏がうちに遊びに来ててご飯食べてたのね、そしたら急にパパが帰ってきちゃってさ、やべーどうしよってなってうちら顔見合わせたのね、そしたらまさ君がさ、あ、まさ君てママの彼氏なんだけど、あ待って待って次和牛出る和牛」

待って待ってはこっちである。
話の続きが大変気になってしまい、和牛の漫才が全く入ってこなかった。

劇場に行きにくくなった今、人の話し声も恋しいかもなどと一瞬とち狂って思ったが、やはりそんなことはライブ中気にしたくない。
もしまたそんな2人組がいたら、笑気麻酔をそっとかけてさしあげたい…。

そう思った本日2021年2月26日、首都圏で発令中の緊急事態宣言の解除は、1週間後の予定だ。劇場の月間スケジュールをみる日々になりそうである。※残念ながら緊急事態宣言の解除が延期した。