Column

2023お笑いライブで行った劇場

ボンジュール古本

前口上
先月「私は笑いを批評したり、論じたりできたら格好いいと思っている」と書いたがそう思うのはもうやめた。前回登場したHさんよりメッセージが届いた。
「批評、評論でなくていい。素人の観客だから語れることがある。我々が笑わない限り、どんな面白いネタも仕上がらない」という、私的名言オブ・ザ・イヤーを頂き、大変嬉しかった。そして同時に気付いた。私は少し気負っていたかもしれない。今の自分が書ける内容を、書きたいように書けばいいのだ。

今年も懲りずにお笑いを見に、色々な劇場へ行った。電車で初めて降り立つ場所はとても楽しみだが、毎回、迷わずに劇場までたどり着けるのかと少々の不安がある。以前、渋谷駅から徒歩3分の会場へ行くまで、25分かかったことがある。Googleマップを頼りに歩いていたのだが、設定が車の経路になっている事に気づかず、案内の動作がバグってるな!とキレながら公演時刻をかなり過ぎて劇場に入った。バグっているのは、私の方だった。

上野恩賜公園野外ステージ(マセキ芸能社 真夏の笑フェス2023)

7月の猛暑日、場所が屋外ステージと知り不安だったが、屋根があり風の抜ける快適な会場だった。隣に不忍池があり、水面が見えない程一面に、蓮の花が咲いていた。こんな景色を初めて見て、大変に感激した。感激しすぎて、見る前のライブがどうでもよくなった程だ。

会場に入り、ステージより高い位置にある客席後方から周りを見渡すと、出番を終えた芸人がステージを見に来たり、出番待ちの芸人同士が端でお喋りしている姿が見えた。上野公園の祭りの一環で行われているらしく、なごやかな雰囲気だった。ライブは5時間行われていたが、飽きずに過ごせた。上から池と蓮を見渡せて眺めもよく、午後の日射しから夕暮れになるにつれ月がぼんやり輝き、風のぬるさがいかにも真夏の夜らしく、心地よかった。

このような素晴らしいロケーションだったため、お見送り芸人しんいちさんが、大学お笑いサークル出身の芸人達の悪口をめちゃくちゃ言ってたネタしか覚えていない。
あんなにたくさん見たのに。

座・高円寺(や団 単独ライブ 高円寺リベンジ)

ライブが始まる前、読書と手紙にまつわるお店『Amleteron(アムレテロン)』に寄りたかったが、この日は店休だった。先日、桐生市で写真展を行った児玉浩宣さんの経営するお店『カンフーカメラ』へ立ち寄ろうとしたら、シャッターが閉まっていた。

以前から行きたかったスパイスカレーのお店『青藍』に行った。開店直後でまだお客さんがいなかったのでラッキーだった。カウンターに座り、厨房でカレーを調理する姿を見たかった。どんなスパイスを使って、どんな風に仕上げているのだろう。スタッフに気付かれないようチラ見をしていたが、見えたのはほとんど後ろ姿だった。

噛む度にスパイスの香りが弾け、最後の一口も、最初の一口と同じテンションで感動した。食べ終えるのが名残惜しいくらい美味しかった。食べている最中、ウーバーイーツの注文がバンバン入る。スタッフがパックに詰めたカレーを入れる紙袋が、オリジナルのデザインでハーブとかスパイスのイラストが書いてある。かわいくてとても欲しくなったが、袋が欲しいから下さいと言ったところで、さすがに無理だろうと思いやめた。今後、青藍に行きたいというだけで高円寺に降り立ってしまいそうだ。

劇場へ着いた際、発券したチケットを忘れたことに気づき、スタッフの方へ相談したら、購入履歴を見せることで快く承諾して下さり、無事にライブを見ることができた。SMAのスタッフの方、ありがとうございました。私は今までもこれからも、所属芸人の方達を応援し続けると思います。

座席の並びに、作家のせきしろさんと、鬼ヶ島のアイアム野田さんがいた。10月には大きな賞レース、キングオブコントの放送がある。特に大好きなや団、今年も決勝進出を見たい。

帰りに物販でTシャツを購入したが、9月現在、まだ一度も着ていない。

南阿佐ヶ谷 アートスペースプロット(笑いの現象学 127時間目)

丸ノ内線南阿佐谷駅に到着し、ホーム端にあるバリアフリーのお手洗いに入った。誰も並んでおらず、すぐ済むので利用した。オートロックドアが勝手に開くことはないとわかっていても、ドア一枚隔てた先は公の場なのだ…と思うと全く落ち着かず、背中をゾクゾクさせながらすぐ退出した。

開演時間まで少し時間があったので、劇場の場所を確認してから街を歩いてみた。商店街のような場所は、人通りがほとんどなく静かで、古い建物がたくさんあった。玄関や窓が開いている家が多く、ビールや食べ物や人が集まっているにおいがして、花火大会などに集まる親戚の家を思い出した。

会場も古めかしくて、なぜか落ち着いた。座席は2列だけなので1列目に座ったが、目前に遮るものがない状態は、わりと気持ちの良いものだ。約50組出演する中で、私が今大変気になっている芸人、マザー・テラサワさん以外、全く知らない芸人ばかりの、約5時間に及ぶライブだった。

おもしろいと思わないネタも見ている最中、もしここに霜降り明星の粗品がいたら必ず笑えるだろうかとか、読みかけの小説を今すぐ読みたいとか、現実の生活ってそのまま喜劇になりそうだとか、奇妙なことを考えていた。

『笑いの現象学』というタイトルのリード文にはこうあった。
「本講義は道化者による演目の鑑賞を通じ、笑いという現象の何たるかを問い直すことを目的とする。学術的価値が何ら認められていない。その点を鑑みると軽い気持ちで臨むことが最もふさわしい聴講態度かと思われる」

そりゃそうだ。私はいつも軽々しい気持ちでライブを見ている。一体、笑える/笑えないの違いは何なのか。こういう事を文章で説明してみたい。いつかできるようになるだろうか?それはわからないが、今のところ続けてみたい。