Column

知ったかぶりより、知らんふり(又吉直樹)

ボンジュール古本

前口上
ランジャタイという芸人がいて、昨年M-1GPファイナリストになってから、急激にメディアへの露出が増えた。個人的に数年前から熱心に応援している芸人で、2021年4月12日に掲載したコラムの「売れてない芸人」は、ランジャタイのことだ。

売れていない時は売れて欲しいと思いながら見ていたが、実際に世間での認知度が高くなってくると、なんとなく「私だけの○○」ではなくなってしまった時の喪失感にも似た、複雑な気持ちになってくる。誰しも、あるのではないか?自分だけの宝物が世間に知られ「私はずっと前から好きだったから!」と言いたいけど言うとかなりダサいあの感じ。

ある程度大人になった私は決してそんな気持ちにはならないと思っていたが、バッチリなってしまい、人はなんて傲慢で勝手でエゴイスティックなんだろうと呆れた。ついでに言うと、ナイツのNHK新人演芸大賞はリアルタイムで見ていたし、東京03は前身のコンビ、アルファルファの頃から大好きだし、かまいたちは伝説のネタ番組『爆笑オンエアバトル』に出ている頃から応援しているし、それから…

……ダサいのでやめます。

毎年11月頃は、M-1GPの3回戦〜準決勝が行われる時期で、お客さんたちもなんとなくそわそわし、芸人たちも「かかっている」状態になる。

ランジャタイ国崎さんは、昨年決勝進出が決定した時「今まですべりたおしてきたのでM-1でもすべりたい」と言った。今まで誰も言っていないボケをかまし、ある種の強さをを感じた。今年のランジャタイはどうなるのかとても楽しみで、ほんの少しさみしい。

あなたに見えないもの

先日、NHKラジオ第1放送の番組『又吉直樹、目の見えない白鳥さんと写真美術館に行く』を聴いた。全盲の美術鑑賞者の白鳥健二さん、ノンフィクション作家の川内有緒さん、そして芸人の又吉直樹さんの3人で、東京都写真美術館の企画展『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』を鑑賞するという内容だった。

1枚の写真をまずは3人で見る。白鳥さんが「何が見えるのかおしえてください」と言い、又吉さんが、それはどんな写真なのかを彼に伝える。場所や対象物、なにがどんな風に映っているのか。最初は説明から入るがそこからとめどない対話が生まれる。

全盲の白鳥さんは、20代の頃に初めてできた恋人と、デートで美術館へ行くことになった。彼女が見た絵画の様子、印象、心情を聞き、それがとても楽しかったのだそうだ。白鳥さんは「相手が好きな人なので、なおさらだったのですが…」と笑っていた。それがきっかけで、今まで自らの選択肢になかった「美術を鑑賞する」ことが、自分の活動になっていったとのことだった。

私に見えないもの

自分には見えない絵画を、人から聞き、どんなものかを想像する。人を通して鑑賞するので、各々の説明によって印象や表現も全く違う。その絵画の歴史やコンテキスト等の学習的な情報は後にして、まずはその人が見てどんな感情を持ち、心情になったのかを知り、それを味わう。

熱量を持って事細かに伝えようとする人、真剣になって沈黙になる人、自分の印象のみを話す人、等々。白鳥さんには、その違いがとても面白いそうだ。

又吉さんは「絵画の内容を伝える行為は難しい。しかしとても興味深く、もっとやってみたくなる」と話す。その上で、芸人の先輩が言っていたことを思い出したそうだ。

「人の話は知ったかぶって聞くより、知らんふりをして聞いたほうがおもしろい」。

目で見えるものは「見えるのだから、当然知っている」ような気分になる。在ることが当然すぎて見えてなかった、見ることすらしなかった物事がおそらくたくさんある。

白鳥さんは数人と鑑賞する際、1つの作品について意見がまとまらない方が楽しいらしい。むしろ全員が同意するような感想を聞くと「違う視点の人はいないのかな?」と物足りなさを感じるという。

私だったら相手に、どう伝えるだろうか?新しいアートの鑑賞方法を、誰かと2人で、もしくは数人で話してみたくなった。

あなたと私に見えるもの

知人の勤務する会社では毎朝朝礼が行われていて、毎日誰かが1人、少しのエピソードを話すことがルールになっている。ある朝の女性社員は昨日見たという映画、ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を、見なければよかったと話していたそうだ。

苦しく悲しい、どうしようもない結末のストーリーを、わざわざ作ることの意味が全くわからない、と話す彼女は、某ディズニーアニメや、明るくハッピーエンディングな物語が好きとのことだった。

私にも、わざわざ作ることの意味が全くわからない映画はたくさんある。映画の好みはそれぞれだから、と言ってしまうと、話はそこで終わる。しかし、その先を想像して、対話することは誰とでもできる。

なぜそのような映画が存在するのか、あなたはなぜこの作品が好きだと思うのか、そもそも映画を全く見ない人はいるのか、毎日映画を1本必ず見るにはどうしたらいいのか…。

こんなようなことを今度、GO ON編集人と話したい。