Column

THE SECOND

ボンジュール古本

前口上
『THE SECOND~漫才トーナメント~』は、結成16年以上の漫才師による大会。昨年頃から、そのような会が始まるらしいと噂はあったが、本当に今年から開催される。漫才師をたくさん見られるのはどのような場合でも楽しみだ。

ほとんど決勝のような激烈に熱いカード:モンスターエンジンVSかもめんたる

出場するコンビは、東京・大阪選考会を経て現時点で決定している32組。ほぼ全員、オリジナルの強いネタを持つ、下記のいずれかに当てはまる大好きな漫才師が集まった。

・ベテランの安定力&ハマった時の爆発力がある
・<劇場番長>などと呼ばれ、鉄板ネタを多く持っている
・一部の熱狂的なファンがたくさんいる
・強すぎるので絶対戦いたくないと思われている
・勝敗の概念が通用しない、というか皆無

40~50代に多い<中堅>と言われる芸人層は山ほどいるが、中でも特に結成25年のスピードワゴンがエントリーし、そして大会の上位にしっかり残っていることに感動し、嬉しくなった。メディアで活躍している芸人ほど劇場に立つ機会は減っていき、あまり漫才を作らなくなっていくことがほとんどだ。しかし小沢一敬さんは、今も若手漫才師たちと一緒に劇場に立ち、定期的にライブを行っている。

昨年「小沢さんにネタを見てもらい、アドバイスをもらおう」というライブが小さな劇場で行われた。大阪から15組ほど芸人が集まり順番にネタを披露し、それを見て小沢さんが評をのべる。ステージ上に用意された椅子に座らず、若手と並んで立って話す小沢さんは、少し刺激的な漫才を見て「こういうネタを見られるから、劇場へ来るのをやめられない」と嬉しそうに笑っていた。

約20年前は、思い起こせばほとんど笑顔を見たことがなかった。「当時はとがっていたから」と自分で言ってたけど。たくさん穴の空いたニット、細身のスキニー、ジョージコックスのラバーソールというスタイルは、昔から変わっていない。小沢さんは笑っていてもいなくても、格好いいのだ。

どちらかが初戦で終わってしまう悲しみと興奮で泣きそうなカード:東京ダイナマイトVS金属バット

今大会はタイマン形式の勝ち抜きバトル。集まった漫才師各々が強すぎて、この中から勝敗を決定する意味がよくわからない状態になっている。

ピカソとダリの絵画は、どちらが優れている?
ピエール・エルメのマカロンと、とらやの羊羹、どちらが美味しい?
バラとチューリップ、美しいのはどっち?

こんな質問と同じくらい、無謀で野暮な気がしてくるのだ。

「出場できる賞レースがないため、ブレイクのきっかけが見いだせない」と言う人達がいるが、賞レースに出場後、優勝=売れるとは全く限らない。それはあくまできっかけに過ぎず、その後活躍するかどうかは本人達次第なのだ。むしろ、このとってつけたような「M-1GPに出られない芸人たちのために無理矢理作られたステージ」は、少々胡散臭いとすら感じていた。業界の人達が内輪で盛り上がって作った大会、のような印象があったが、番組制作者側のコメントはこういったものだった。

「制作人生を支えてくれた芸人さんへ、感謝を込めてステージを用意したい」
「人生を変えるとかではなく、ベテラン漫才師に新たな彩りを与えられたら」
…というか制作側の思惑などわりとどうでもよくて、つまりこの大会はひとつの楽しみになった。

あなたや私の想像以上に、芸人はたくさん存在する。メディアに出ていない実力者が、芸人の世界には多すぎるのだ。むしろこのトーナメントに残れなかった人達の中にこそ、「あなた達も見たかった!」と叫びたくなる芸人が山ほどいた。

そもそも勝敗とはカード:インポッシブルVSランジャタイ

トーナメントの組み合わせ抽選会は、本人たち不在のまま、マネージャーや事務所社長が代理したくじ引き順で出番を決めていた。M-1GPに見られる、決勝進出者発表時の現場のような「人生かかってます」みたいなピリピリした感じはまるでなく、リモートで出ていた芸人たちは口を揃えて「どの順番になってもやることは一緒だから」と、大らかにかまえていて、この祭りを楽しもうという寛容さがあった。

M-1は見る方も緊張感をともなう。生放送中、私の見ている周りが騒がしいと「おい!なに笑って見てるんだよ!こっちは真剣に見てるんだよ!」と言いたくなる。本末転倒である。

THE SECONDはただ楽しみ、人と話して盛り上がりながら見たい番組になりそうだ。思えばお笑いを見る時、以前は友達や家族と一緒の時もあったが、今は大概1人だ。ていうか書いてて思ったけど、私だったら「M-1を笑って見るな」とか言いそうな人と一緒には、お笑いを見たくない気がする。

数年後、THE SECONDが始まったこの年に、このコラムを書いたなと思い出す日が来るのだろうか?そもそもTHE SECONDはどのくらい続くだろうか?やっぱりTHE SECONDを数年後も1人で見ているだろうか?

これらは数年後にならないとわからないが、第1回優勝者は5月には決定する。今からとても楽しみだ。

この32組全員、今から1組ずつコンビ解説をしていきたい。きっと皆さんも大変興味があり、絶対読みたいのではないかと思う。

しかし大変残念ながら、この後ピン芸人の賞レース『R-1GP2023』の生放送が始まるため、今日のところはこの辺で失礼いたします。