Column

雑煮的雑記 その6

GO ON編集人

遠足前夜の子どものように

生まれて初めて執筆の依頼を受けた。普段は依頼する側なので、非常にうれしい。しかも2本だ。両方とも大好きな媒体だ。うれしい。うれしすぎる。うれしすぎて一文字も書いていない。1本に関しては締め切りが迫っている。後の1本も2月末までに提出したい。それに加えてGO ON2月号の原稿もある。まるで売れっ子のような気分だ。うれしい。うれしすぎる。うれしすぎて一文字も書いていない。

この「うれしすぎて一文字も書いていない」という現象は、まるで「遠足が楽しみすぎて眠れない」と同じ現象ではないだろうか。と悟ったところで…、一文字も書いていない。

ここで勇気の出る言葉を紹介したい。文芸ユニットるるるるん、かとうひろみさんの言葉だ。

アイデアがなくても、書きはじめることですね。書いていると、次の文章を書く必要がある。1行書いたら次の1行を書く。それを継続的に考えて積み重なっていくと小説になりますよ。だから「書いちゃえば」ってアドバイスしますね。私は、書きながらストーリーを考えます。何ページ書いてもダメな時はあるけど、なんとかなります。
(GO ON4月号Feature 文芸ユニットるるるるんとは より抜粋)

最後の「なんとかなります」に勇気をもらう。「なんとかなる」といえばもう一つ紹介したい言葉がある。日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成の「お金はなんとかなるでしょう」。美術品か骨董品を購入した際のコメントだろうか。大丈夫、文章もお金もなんとかなるのだ。

という両者からの励ましにより、一文字書いたら600文字ぐらい書けた。ゴールは1,000文字。あと400文字だ。文字数を稼ぎたい…。そういえば、中原昌也氏が海外のバンド名をカタカナで書けば文字数を稼げると言っていたことを思い出した。がしかし、音楽の話なんぞ書いていない。

そうだ!こんな時はるるるるん、かとうさんの言葉を引用するしかない。引用文は文字数を稼げる。それに最後の「なんとかなります」が、どんな場面にも当てはまる言葉なので、万能な引用文ではないだろうか。かとうさん、文字数を稼いでくれてありがとう!

このテキストを依頼者が読んでいないことを祈るばかりである。(無事、納品完了したのでご安心を!)

もう1回観たい

昔、上司がこんなことを言っていた。

「眠れない時にはこの映画がおすすめ。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』」。

ジム・ジャームッシュは好きな映画監督の1人だ。嫌いだという人に会ったことがない。だから<みんな大好きジャームッシュ!>なのだが、おーい、みんな起きてるの?

先日YEBISU GARDEN CINEMAで『パーマネント・バケーション』を観た。観る前から、いや、タイトルを目にした時から寝ると分かっていた。それでも観たいと思うのだ。今回は、あの有名なダンスシーンのあといつのまにか寝ていた。そして自分のイビキで目が覚めたが、何事もなかったように映画の続きを鑑賞した。詳細は割愛するが、なんとなく分かった。何回か笑った。そして「始めから観たいな」って思った。私の中でジャームッシュの映画は、毎回そんな感想を抱いて終わるのだ。「(寝ちゃったから)もう1回観たい」。

『パターソン』を観た人は分かると思うが、1週間の物語になっている。私はなぜか木曜日だけ寝てしまった。そのため、木曜日を観るだけのために再度映画館へ足を運んだ。2回目は木曜日だけ起きていれば良いので、それだけを気をつけて寝た。結果、トータルして1週間になったので物語を堪能できた。『パターソン』いいよね!

ゴダール…字面だけで眠くなったけれど胸がときめいた人、挙手を願いたい。私もその1人なのでご安心を。

昨年、シネマテークたかさきで開催されたゴダール特集で『パリところどころ』を鑑賞した。<ヌーヴェル・ヴァーグを代表する6人の監督たちが、パリの6つの地区を舞台に、そこで暮らす人々の姿を描く短篇オムニバス映画>と説明が記載されていた。以下、Twitterに投稿した感想。

「サンジェルマン・デ・プレ」でパリの男の洗礼を受け「北駅」でパリの憂鬱を知る。「サンドニ街」で懐が深い娼婦に出会い「エトワール広場」でパリの滑稽さに笑う。「モンパルナスとルヴァロア」…ゴダールだからだろうか、ほとんど寝た。最後<このアメリカ女>というセリフだけが耳に残った。「ラ・ミュエット」食べ方が汚いしまずそう。無音。無音。これで終わりなの…。

第5話「モンパルナスとルヴァロワ」の監督がゴダールなのだが、なぜか私はその作品だけ寝てしまった。ゴダール特集なのに、オムニバスの一編なのに、短いのに、私は寝た。

私は寝てしまう映画を死ぬまで追い続け、「(寝ちゃったから)もう1回観たい」と言いながら死んでいくのだろう。それはまるで、永遠の片想い。永遠のときめき。そう、これもまた『ときめきに死す』(森田芳光)ではないだろうか。とボンジュール古本と話し合いたい気持ちになった。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。