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文芸ユニット るるるるんとは

るるるるん

るるるるん。るの数を頭で数えながら声に出してみる。るは4つだ。るるるるんは、かとうひろみ、UNI、3月クララの3人による文芸ユニットである。毎号、読者からお題を募って小説を書きZINEを発行している。2021年12月に発行されたvol.3のタイトルは『鏡』。群馬県桐生市在住のアーティスト唐澤龍彦氏が挿絵を担当しているということで、ふやふや堂の紹介にてZINEと出会うことができた。

私はvol.3の『鏡』、vol.2の『冷蔵庫』、月刊の日記『るるるるんDiary』を読んで、改めて文書を書くことについて考えた。そして図々しくもGO ONからお題を出して短編小説を書いていただいた。るるるるんの3人について伝えたいことはたくさんあるが、まずは小説を読んでからだ。

GO ONからのお題は「轟音」。では短編小説をどうぞ。


鉄橋の下に行こう。

何か言いたいことがあると、あなたはそう言って私を誘う。鉄橋の下の一杯飲み屋で生ビールと焼き鳥を頼み、20分に一回頭上を走り抜ける快速列車を待つ。快速列車はちょうど店に入ったときに行ってしまったばかりだったので、二人ともしばらく無言でねぎまと砂肝を生ビールで流し込む。

そうするうちに厨房の食器や神棚の捧げ物がカタカタと音を立て始める。私たちは二杯目のビールを注文してそのときを待つ。やがて大地震のような揺れとともに列車が近づき、グラスにひびが入り、満タンのビールから泡が飛び散り、酔っ払いが椅子から転げ落ちる。ついに頭上の鉄橋に列車が到来すると、あなたは顔をゆがめ目を吊り上がらせ唾を飛ばして私に何か叫ぶ。私も負けじと叫び返す。列車が立てる音のせいで私たちの声は防音室の中よりも無音だ。

やがて再び静寂が訪れると二人とも真顔になり、ビールを飲みほして店を出る。そうしてすべて元通りに生活は続く。

かとうひろみ


駅横で生田が煙草を吸っていた。

「あの人、私の悪口言ってたでしょ」

「誰とでも寝るって生田は」

「半分嘘。本当に寝てるだけ」

「気持ち悪くないのそんな」

「一人で眠るのが嫌で」

「どうして」

じゃあ来てよと言われ、私は生田の部屋にいる。小さな冷蔵庫がぶんと鳴る。彼女の適当な服を寝間着に、布団に入る。

「ある朝、海からドミノ倒しが始まった。大仏達がだらだらと逃げ惑うような音。家の本、食器、ピアノ、そして街。倒された。地面は割られた。布団に入ると、叫びを引き連れて木や鉄をへし折る、あの音がする。一人じゃ耐えられなかった。いつからか、誰かと一緒だと眠れると気づいたんだ」

生田がひそひそと語る。

彼女が自身を護る術を見つけたことに私は感謝した。それから今まで傍で眠った人達に。

そんな話の後であっけなく眠る生田の頭に自分の頭をくっつける。生田の歯ぎしりの音が私の頭に響く。骨の中で鳴る音のかけらを、私は頭蓋骨で受けとめる。

UNI


湿った壁に背中を沿わせる
なまあたたかい空調と体温を交換する
足の裏を地鳴りがくすぐる
フロアから噴き出す低音のマグマが
わたしの中心を貫く
てのひらで耳殻を倒し音を集め
うなる血流にブーストをかける
湿気で膨らむ髪にノイズが絡まり
わたしの髪は百本の弦を束ねた楽器になる
身体中の水が振動して骨がわななく

あの日聞いた音を探して
大地から生えたアンテナになる
あの日聞いた音を探して
土に埋まり水琴窟になる

あの音を知るまでは
孤独はミルクの白いしみで
あの音を知ってから
懐かしさに逃げられない
わたしは音に抗い、ここで生きる

3月クララ


書くことはセラピー(3月クララ)

牧田 『るるるるんDiary』を読んで私も日記を始めました。3月クララさんが「書くことはセラピー」だとTwitter経由でアドバイスをいただき、なるほど!と思って書いてます。考えを整理するのに良いですね。みなさんにとって書くこととはどんなことですか?

クララ 書くことは血を流すことだと思う。治りかけたかさぶたをガリガリめくるように書くので、小説が完成するときには血だらけ。だから小説を書いているときはけっこう苦しいです。でも書くことで、みえなかったものがみえてくるといった発見もあります。『るるるるんDiary』は「書く千本ノック」としても役立っていますね。

UNI 傷ついたことや悲しかったことを、書くことによって自分自身をなだめています。私、おしゃべりが好きなんです。家でひとり言を言うくらい、ずっとしゃべっていたい。だから書くことは、自分自身を解放することでもありますね。

クララ だからUNIさんは書くのがはやい!

かとう 私はただ楽しいから書いてます。後から読むと「私、こんな言葉知っていたのか!」ってなることがあるんです。書くことで、私が持っている力以上のことが発揮できる。だから書いている時の自分は他人のように感じます。「憑いている」っていうのかな(笑)。書いている時だけ、生きている実感があります。

UNI かとうさんの作品を読むと、かとうさんは入れ物として素晴らしいうつわだなって思う。「何かが降りてくる」という感覚も、入れ物だからじゃないのかな。それに物事に対して一歩引いた感覚でいるから、作品を読むと実は世の中を見据えているように感じることもありますね。

現在は最新刊『るるるるんvol.3―鏡―』(写真中央)が絶賛発売中!

小説にすることによって生々しさを消す(UNI)

牧田 実は小説を書いてみようと思っているのですが、初心者の私にアドバイスをいただけないでしょうか。

かとう アイデアがなくても、書きはじめることですね。書いていると、次の文章を書く必要がある。1行書いたら次の1行を書く。それを継続的に考えて積み重なっていくと小説になりますよ。だから「書いちゃえば」ってアドバイスしますね。私は、書きながらストーリーを考えます。何ページ書いてもダメな時はあるけど、なんとかなります。

クララ かとうさんは打率がいいんだね(笑)!

UNI 「どうやって書き始めたらいいのかわからない」という方がいれば、「その主人公の名前を考えてみませんか?」とアドバイスしますね。主人公の年齢によっても名前のパターンがあるし、育った家庭環境が影響している名前もある。それを主人公に語らせる。そうすると「自分のこと」という生々しさが消えますよ。

全員 おー、参考になる!

クララ 長編を書いたのは、るるるるんの2本なんです。私は2人に誘われていなかったら小説は書いてなかったですね。頼まれたら基本断らないようにしているので、「書けるでしょ?」「じゃあ書きます」という流れで書きはじめました。自分が心に残った光景とか形に残らないもの(光や匂いなど)を文章にできたらいいなぁと思ってます。

2021年に配布していた月刊の日記『るるるるんDiary』

書く場所があるという幸せ(かとうひろみ)

牧田 今後の活動や将来の展望について教えてください。

かとう るるるるんの活動を長く続けたいですね。2人に頼ってばかりだけど、書く場所を与えられているということは幸福なことです。それがずっと続けばいい。

クララ 私もかとうさんと一緒で長く続けたいです。私たちは友だちではないから、お互い「よく思われたい」という気持ちではなく、会社みたいな形で運営していると思う。こんなに良いチームはないんじゃないかな。るるるるんvol.4を出せれば、今後も長く続けていけると思ってます。

UNI 小説を書いて賞をとることも大事ですが、小説を書きたいという仲間と書けることは、幸せだしありがたいことです。るるるるんがなかったら、色々な人に読んでもらえないので、コツコツと活動して伝えていきたいですね。

クララ 読者の方に小説の感想を言っていただくことは、もちろんうれしいけれど「小説を書いてみたい。日記を書いてみたい」という、何かきっかけになってもらえることが、とてもうれしいです。私たちの活動によって、本をつくることや書くことのハードルを下げることができたのではないかと思う。「私にもできるんだ!」という人が増えると、もっとうれしいですね。

みなさんも「るるるるん」と声に出したくなってきたことでしょう。るは4つだ。3人についてもっと知るには、最新刊『るるるるんvol.3―鏡―』を読んでほしい。ぜひ、お近くの本屋さんで手に取っていただきたい。

そして私は「小説を書く」という目標ができたので、まずは何か書くことからはじめようっと。

Creator

るるるるん

かとうひろみ、UNI、3月クララの3人による文芸ユニット。2020年3月に3月クララが正式に加入して3人体制になった。