Column

酒場奇太郎
〜忘日会〜

岡本奇太郎

「お客さん終点ですよ」
どうやら縁もゆかりもない駅にいる。これで何日連続になるのか…。今日もケータイのカメラロールには意味不明の写真が散見される。思い出すこともできないし、思い出したところでどうせろくでもない夜だろう。

その年の苦労を忘れるために執り行われる宴会を忘年会というが、私は連日忘日会を開催している。これは私の生きる術そのものである。いや、私だけではなく、日々ストレスやプレッシャーにさらされる現代人の皆に必要なのが忘日会ではないだろうか。過去の過ちや将来への不安、その他諸々の悩み、何もかも忘れて「瞬間瞬間に爆発して生きる」(©︎岡本太郎)。そうすれば大抵のことは解決する。

「酒の存在を忘れれば、あなたもアル中を卒業できるんじゃないですか?」

確かにそうかもしれない。しかし、忘れたくても忘れられないのが中毒の恐ろしさであり、ここ日本では酒はあまりにも容易く手に入る国民的なドラッグなのだ。
では、実際に酒がドラッグのように違法になればどうか。現状を鑑みると、それでも私は酒に手を出すに違いない。だが、そうなるとかなり面倒なことになるだろう。
道すがらコンビニで缶チューハイを買うこともできず、愛しの立ち呑み屋は全て一掃される。おそらく禁酒法時代のスピークイージーのような隠れ酒場も誕生するだろうが、家呑み中心の私は売人との接触がメインになるはずだ。

「酒が1杯ほしい」とLINEで注文する。そもそも1杯とはどれくらいの量になるのか。仮に350ml缶を1杯としよう。しかし、売人からすれば1杯売ったところで大した儲けはない。そのため「最低5杯から」などの条件が提示されるかもしれない。もとより、違法で酒を買うのに、「酒がほしい」という直接的な表現で取引を続け、万が一、ケータイを落として誰かに見られたりすると厄介なことになりはしないか。それに考えたくはないが、もしも警察に逮捕された時、それらは全て動かぬ証拠になるだろう。やはり一通一通削除しておくべきか。だが、警察は消されたデータを復元することができると伝え聞く。ならば、「酒」→「酔っ払い」→「酔拳」→「ジャッキー・チェン」とブツから遠ざかった隠語を使うのはどうか。

「ジャッキー・チェンのDVDを5本貸してください」

これは妙案か。しかし、一定の周期でジャッキー・チェンのDVDを借り続けるなど、やはり怪しい行為だと見なされるだろう。では、メッセージが暗号化され、一定時間後に自動消去される秘匿性の高い通信アプリ『テレグラム』で連絡を取ることにしよう。
「奇太郎さん、一連の闇バイトの報道によると警察はテレグラムも解析できるらしいですよ」と事情通の呑み仲間から教えがあれば、もはや打つ手はない?

そうこうしているうちに、アルコールの主成分であるエタノールの化学式C2H5OHを、ごく一部だけ改変し、規制をくぐり抜ける「合法アルコール」なるものが巷に蔓延する。「これが合法?」と驚くようなものは、すぐさま厚労省から規制されるが、業者はまた似たような新成分をつくり、合法として売り出す。そのイタチごっこが、結果的に新たな危険な成分の開発につながり、体調不良を訴える者や病院に搬送されたりする例が相次ぎ、社会問題へと発展。

しかし、よくよく冷静になって合法アルコールを呑むと、風味も本物に似ているようで違うし、翌日に頭が重たくなるような感覚もある。こんなもん合法でもいるか!!!!!!
って何の話でしたっけ? 忘れた。

今日はこれから神泉の『みさわ』で一杯。ではこの辺で。

INTA-NET KYOTO Presents -UKIYOE Exhibition- に参加しています。
常に変わりゆく儚い世の中、浮世。江戸時代、今を楽しもうと「浮世」という言葉が使われるようになり、その浮世を現した絵画として「浮世絵」が誕生。浮世絵には、過去や未来ではない、その時代最先端の流行や享楽が描かれた。2024年、現世を主題として13名のアーティストが表現するいまの浮世絵展。
〈日時〉1月17日(水)〜3月17日(日)
〈場所〉INTA-NET KYOTO【Gallery・Tattoo・Cafe&Bar】
詳細はInstagramをご覧ください。

Creator

岡本奇太郎

美術作家/ライター。雑誌編集者時代に担当した吉永嘉明氏(『危ない1号』2代目編集長)のコラージュ作品に影響を受け創作活動を開始する。以降、様々な手法を用いた作品の制作、雑誌・Webメディアの原稿執筆等、カタチを問わず創造力捻出中。