Column

「ユーモアは世界に対抗するもうひとつの武器である」
(アメリカの映画監督メル・ブルックス)

ボンジュール古本

そんな武器なら、なんぼあってもいいですからね…。
特に熱心に応援している芸人がいて、毎回単独ライブが行われる時はできるだけ足を運ぶ。今は配信もしており会場へ行かずともライブはみられるのだが、会場でみられるものならみたい。

チケットの販売は、一般発売前にプレオーダー(抽選制度)があり、そこで当選すればそのままチケット獲得となるのだが、ここで外れると一般発売日に購入することになる。当日の発売時間にはチケットサイトへのアクセス数が集中するため繋がりにくく、PCならリロードボタンをクリックし続け、電話ならリダイヤルをタップし続けるマシーンと化す。

「まだチケットってそのシステムなのね、ていうかそれやってる人ってまだいるのね」と思った方はいらっしゃいますか?

私はまだそれをやっています。

これは大変面倒な作業で、時間きっかりに始めて、売り切れるまでアタックし続けなければならない。途中で諦めると「やっぱり行っておけばよかったライブ」と思えば思うほどひどく後悔するからだ。というか、私は転売屋ではないのでこれ以外に、チケットのより効率的な購入方法を知らない。どなたかご存じの方は、ぜひ教えてください。編集長経由で私に届くと思います。
↓↓↓ご連絡先はこちらへ↓↓↓ 
https://goon-type.net/contact/

後ろから追突して来た50代男性の携帯電話、留守電メッセージの音声が声優の女性キャラのアニメ声だった時の私の顔

2019年だが、あるライブチケットを一般発売で取ろうとMacBook Proに張り付いている時、ついさっき仕事へ出かけたはずの母親から電話があった。母親からの電話、そしておかしなタイミング…、嫌な感じがして渋々電話に出ると車の事故にあったという。赤信号で止まっていたら後ろから追突されてしまい、現場に来て相手と話をして欲しい、と半泣きで頼まれた。

「私は必ず行かなければならない【電気グルーヴ30周年ウルトラのツアー】のチケットを争奪できるか否かの重要な任務を果たそうとして、今手が離せない時なんだけど!!」とは全く言えず「この世から交通事故がなくなりますように!!」と心からの祈りを半泣きで叫びながら、母親の元へ車を飛ばした。

現場で諸々の話や処理を終え家へ戻る途中iPhoneをみると、当然チケットは売り切れていて、悲しすぎて今度は私が止まっている車へ激突したくなってしまった。

しかしこのライブの直前、ピエール瀧の逮捕により公演は中止となり「事故ゼロは目指せても、この世に事件はきっと起きてしまうもの」と悟った。

…とんだ余談になったが、冒頭に戻り、単独ライブのチケットである。

なぜかこの芸人の単独ライブのプレオーダーは外れた事がなく、便利でラッキーでありがたいことだった。今回もおそらく当選するし、会場は青山だから、その日はどこで食事をしようかな?などと久しぶりにウキウキした気持ちで当確発表の日を余裕で迎えたのだが「厳正なる抽選を行った結果、残念ながら今回はチケットをご用意することができませんでした」とメールがきた。

予想外の結果にわりとショックだったが、仕方なく来週の一般発売に賭けるしかない。ライブにはとても行きたいくせに、チケットを取る行為が大変に面倒と感じる。

ファンとは勝手なものである。

徹夜明けの朝マック、それはおいしい

その昔というか20年くらい前の事だが「チケットを取る」ということは、チケット店に直接並ぶことだった。

高校生の頃、どうしても行きたいお笑いライブがあり、バイトを終えた後友人と合流し、発売日前日の夜10時頃から店頭というか店の外で並び始めた。より良い席を取りたいなら、行列の先頭にいないと意味がない。ここから朝10時までひたすら待つのだ。

始めの2〜3時間は興奮状態もあり、お菓子を食べながら話をして過ごせるが、0時を過ぎると退屈になってくる。屋外なので、気候が良ければまだマシだが冬は相当きつかった。外は暗いから本も読めず、毛布にくるまってただじっとして過ごす。ウォークマンは必須アイテムで、カセットテープを2〜3本と、何より充電が切れると最悪なので電池も新しいものを用意した。
ただ、チケット店と自宅間が自転車で3分程の近隣だったため、足りないものや今どうしてもこれが欲しいというものがあれば、家まで取りに戻ることができたのが救いだった。

ある時、地べたにそのまま座っていたがお尻が痛くなり、立っているのも足が疲れるので、座布団を持ってこようと一時的に家まで取りに戻った事があった。それも深夜だったので、当然玄関のカギが閉まっていたが、運良く妹の部屋に電気が付いていた。窓をめがけて小さな石を投げてコツンと当ててみたら、カーテンを少し開けた妹の顔が半分見えた。手を振ると明らかにギョッとした表情で、カーテンをシャッとすごい勢いで閉めた。もう一度石を投げてみてもカーテンが開くことはなく、私は諦めてチケット店へ戻って友人に謝り、2人で座ったり立ったりしながら朝まで待ち続けた。

翌朝家に戻り妹にたずねたら、ダッフルコートと同じ長さのスカートで素足だけが見えたので、不審者だと思ってとても怖かったのだそうだ。

また冬のある時。夜遅くに並びに行くと先頭を陣取った2人の女性がおり、建物のコンセントから電源を取ってこたつを持ち込み、ミカンを食べていた。大変驚いたが「寒いから入って一緒に待とうよ〜、誰のライブ?」などと気さくに話しかけてくれた。なんでも彼女は雨上がり決死隊の激烈なファンで、休日と金をほとんど捧げて、全てのステージをみているという。おたくの情熱の注ぎ方は振り切っているなぁと感心した覚えがある。

そういえばあの芸人のYouTubeをみたことがない

雨上がり決死隊は最近解散した。いわゆる「売れる前」からみていた側からすると、解散までしなくてもいいのでは…と思ったが解散報告会をみたところ、当の本人達の仕事についての意識や考え方、今後の願望が全く異なるのだと実感し、周囲の芸人が2人を労ったり、なぜこんな事になったのかと泣いたりしている様子がさみしさを感じさせた。

蛍原さんはめっきり老け込んだようにみえ、宮迫さんは「今整形のダウンタイムやねん」とキリッとした目元で言った。

ここだけでもう、色んなことが対照的な2人ではないか?

あのお姉さんは、雨上がり決死隊の解散をどんな風に思ったのだろうか?
それとも、なにも思わなかっただろうか?
もしくは「まだお笑いのライブみてるんだね」と、私を笑うだろうか?

冒頭の単独ライブだが「プレオーダーに今までにない応募数があり、追加公演が決定しました」と先ほどSNSで案内があった。

昨年くらいからメディアへの露出が急激に目立ち始めたためと思われる。それ自体は喜ばしい事なのだが、「今まで余裕で取れていたチケットが取れない」という皺寄せが自分に来たとなると話は別だ。

「私は何年も前からライブみてるから!!優先して当確させろ!!」とか主張するうるさい古参にならないよう、そんなことは口には出さず一般発売日には謙虚に、そっとリロードボタンを連続クリックしようと思う。

ああ面倒くさい。