Column

収穫祭(前編)

与良典悟

暑い夏は過ぎ去り、段々と秋の匂いが空気を漂うようになってきた。秋が好きだ。美味しい食べ物に、芸術的なイベントもある。「スポーツの秋」というワードにはあまり関わりがなかったが、小さなころ毎年行われていた秋の運動会も今思い出せばそれなりに楽しい思い出だった。収穫の秋という言葉もあるように、秋は色々なことが実る季節なのかもしれない。

ということで、今回のコラムのテーマは「収穫の秋」である。かと言っても私自身何か育てて収穫したわけではない。芸術の秋とも絡んでくるが、やっぱり大好きな音楽の話だ。どこかでこういうことを書きたいと思っていたが、せっかくなので、ここ1年位で発見、いや収穫した素晴らしい音楽作品を、前編・後編に分けて是非ともこの機会に皆さんにお伝えしようと思う。

『Songs From Another Life』 The Boys With The Perpetual Nerveousness

2021年発表、ギタリストのイギリス人とドラマーのスペイン人からなる2ピースバンドの2ndアルバム。スペインのBOBO INTEGRALというレーベルより。今まで意識していなかったが、スペインではギターポップの人気が高いようである。なんだかグループ名が長く感じるが、それについてはポストパンクの名バンドFeeliesの同名の曲より拝借したものと考えられる。

近年以降のパワーポップ、もっと言ってしまえばTeenage Fanclub(以下TFC)みたいな音楽を器用にやっている彼ら、ボーカルの声質までTFCに似ているのは愛なのかもしれないが正直ズルいとも思ってしまう。だってその声に最高なメロディを乗せるだけでサマになるのだから。TFCに似ているというイメージの影響があると思うが、本当は体験したことのない90年代の青春模様がまるで蘇るようである。3分以下の短尺のトラックが多くを占めており、総再生時間も30分以下とコンパクトなのは潔いというか、聴きやすくもある。同じく名盤である彼らの1stと合わせて聴いてみてほしい。

『Adult Hits』 Blue Jeans

2019年発のBlue Jeansの2ndアルバムである。これまたBOBO INTEGRALより。短尺の10個のショートチューンが並んでおり、最初に紹介したThe Boys With The Perpetual Nerveousnessと同様30分も経たずにアルバムはぐるりと1周してしまう。その短さも含めてやや物足りなく感じるのは、よく言えばジャンルを突き詰めたストイックな90sインディサウンド、悪く言えば展開がそれほど多くなく地味に聴こえるからかもしれない。

90年代のK Recordsの作品のようなザ・インディーポップで楽しそうな楽曲ばかりだが、断片的に歌詞を聴くとなんか辛そうな単語ばかり聴こえるのがユニークに感じる。個人的に浮かんだこの作品のイメージは、宿題の全く終わっていない夏休み最終日、といったところだろうか。そういう哀しさはある意味the Softies辺りともつながるのかもしれない。言い過ぎかもしれないけれど。ちなみに1stアルバムはインディーポップの名門レーベルJigsaw RecordsよりCDで出ていて、そちらはもっとポップな印象だ。

『Still Life』Massage

Massageというバンドの2ndアルバム。まだアルバムを2枚しか出していない新人バンドかと思いきや、中心人物が10年代以降のインディーポップに大きな影響を与えたPAINS OF BEING PURE AT HEART(以下ペインズ)の元メンバーだというから驚きだ。Sarah Records辺りのネオアコースティックな匂いもするし、JESUS AND MARY CHAINのオマージュみたいな曲もある。そういうネタの引き出し方がとても上手に感じる。

80〜90年代のインディー音楽に親しんだ人なら正直ド直球に刺さってくるのではないだろうか。昔を懐かしんでいると言われればそうかもしれないし、ペインズの1stのようにこれがシーンの起爆剤になるのかは分からない。でもシンプルでグッドなメロディは多くの人々が親しみを持つだろうし、この1枚はきっとそれらの人々にずっと愛される名盤になっていくのだと思う。少なくとも私の中では2021年最もお気に入りな新譜となっている。

あと勘が良い人は気づいているだろうがこの作品のリリースにもBOBO INTEGRALが関わっている。以前3rd and Homie氏のコラムの中で、Ezratというバンドが出てきたが、彼らの1stアルバムもBOBO INTEGRALからのリリースだ。このレーベルは本当に良い物をたくさん出しているので、ギターポップが好きな人は是非チェックしてみてほしい。

以上、本コラムにおいて3つの作品の紹介をさせていただいた。

来月号も音楽紹介をする予定だ。後編に続く!

収穫祭(後編)はこちらから

Creator

与良典悟

栃木県佐野市在住。知らない町の知らないレコード屋さんに行くのが好きです。