Column

裏返してみてください

kobayashi pottery studio

デザインや素材などとは別に、みえない部分のこだわりとか仕事の丁寧さなどは、つくり手の想いを意味する場合がある。料理だったら素材の扱い方や火の入れ方だったり、衣服だったら裏地の素材や仕立て方などでしょうか。

うつわづくりにも、そういったみえない(目立たないと言った方がいい)こだわりがあると思っている。私の場合は「ハマ」である。「ハマ」とは高台のこと。うつわの「足」と言った方が分かりやすいでしょう。

作家の作品であっても量産品であっても、私はいつも「ハマ」をみている。みるポイントというのは、デザインであったり仕上げ方である。うつわをつくるにあたり、カタチや色、絵柄や質感などつくり手の表現やこだわりのポイントはあるが、ぜひ「ハマ」の仕上げにも注目してほしい。

多治見市陶磁器意匠研究所へ実技指導に来ていた作家の先生に「ハマ」の仕上げにも意識を持つように教わった。それまで私は「ハマ」のつくりは適当で、使用上問題なければ良いと思っていた。先生の作品をみたとき、うつわ自体は素朴な感じの佇まいで、「ハマ」の仕上げは1つひとつ違うものだった。それぞれ表情に違いがあり遊び心があった。うつわの裏にも景色があるのだ。その時教わったことは就職してからも心に残っていて、商品をデザインする上でも気を遣っていた。

大量生産のメーカーや窯元のうつわでも、この「ハマ」の仕上げをみる。「ハマ」には釉薬がついていない。それは釉薬が焼成によって溶ける。そうすると板にくっついてしまうため、釉薬を塗った後スポンジなどで拭き取る。その拭き取り方に窯元(メーカー)の技術・ものづくりへの姿勢がみえる。私が勤めていたメーカーでもこの釉薬の剥がし方に神経を使っていた。

作家であってもメーカーであっても、「ハマ」はモノづくりの姿勢がわかる部分だと私は思う。料理を盛り付けたり飲み物を飲むなど、「使う」という点では特に機能上支障がある部分ではない。うつわの足なので目に留まることもない。そんな目立たない「ハマ」のカタチ(デザイン)を考える時は悩むことが多い。しかし決して手を抜きません。うつわの絵柄や色やデザインを考えるのと同じように、真剣にデザインを考えます。

ぜひ、うつわを裏返してみてください。目立たないところだからこそ、つくり手のうつわに対する想いがそこにあると私は思う。

Creator

kobayashi pottery studio 小林俊介

群馬県太田市出身。美濃焼の産地である岐阜県多治見市で陶芸を学び、陶磁器メーカーでデザイナーとして従事。2018年、地元太田市にてkobayashi pottery studioを設立。「暮らしに寄り添ううつわ」をコンセプトにうつわの製作をしている。