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暮らしに寄り添ううつわ
陶芸家を志し、陶芸を学んだ私が社会人としてスタートを切ったのは、陶磁器メーカーのデザイナーでした。陶芸を始めた頃は特に「こうありたい」という目標もなく、とりあえず陶磁器デザイナーという道に進んだわけですが、それから20年あまり、職場は幾度と変わりながらもその職種を続けてきました。ありがたいことに、手掛けた商品は雑貨店や飲食店などで扱って頂き、世の中に受け入れられました。時折立ち寄ったお店で見かけると、今でもとてもうれしい気持ちになります。
陶磁器デザイナーとして、うつわづくりに携わってきましたが、常に意識していたのは使い手の姿です。うつわは食事をするための道具であり、その先には使い手の暮らしがあります。それは個人でうつわづくりをするにあたっても変わりません。「暮らしに寄り添ううつわ」というコンセプトは、今までのうつわに対する想いそのものと言えます。
2018年にkobayashi pottery studioを立ち上げ、そして今年、個人としてうつわづくりに専念しようと決意をしました。40歳を迎えた人生節目の年に「うつわづくりをライフワークにする」と決意し、どのような形であれうつわを通じて地域や社会との繋がりを持ちたいと考えてきました。ただ自分の想ううつわづくりをするだけでなく、何かもう一歩踏込んだというか、人との関わりの中でうつわづくりをしたいなと考えていました。
47都道府県のうつわをつくる
昨年12月、足利市mother toolでのイベント「オンリー椀」で、「おでんのうつわ」の陶器バージョンをつくる機会を頂きました。イベント初日にろくろ舎の酒井さんに初めてお会いし、素材は違いますがうつわづくりについて話をしました。その中で「47都道府県の椀をつくりたい」という話を聞いて「これだ!!」と感銘を受けました。独立するにあたって47全ての都道府県に、kobayashi pottery studioのうつわを扱ってもらうことを目標に掲げていたのですが、新たに「各地域のオリジナルのうつわをつくる」ということを加えようと思いました。これはかなり壮大かつ大変な目標ですが、うつわづくりを通じて地域や社会との繋がりを持ちたいという、自分の想いに通じると考えたのです。
地域の食文化といっても、テレビや雑誌などで紹介するような、伝統的な食文化や町おこし的なB級グルメとは少し異なります。その地域に暮らす人達がよく行く居酒屋の名物メニューや、カフェのこだわりスイーツなどの料理から発想したその地域のオリジナルのうつわは、その地域で暮らす人達の生活の一部になってくれるではないでしょうか。そのようなうつわをお店の方と一緒につくり、そしてそこに訪れる方に「なるほど!」と驚いてもらえたらうれしいです。
コロナ禍での独立。2020年は普段の暮らしや、当たり前だと思っていた価値観が改めて見直されました。私ももれなく今後の人生を考えたひとりです。大きく方向転換をしたわけではありませんが、少なくともシャツの裾をチョイとつままれて立ち止まり、過去を振り返り辺りを見渡し、今自分の手にあるものを見つめ直す。そして前を向いた瞬間に、ポンッと背中を押されて新たな一歩を踏み出すことになったような感じです。「47のうつわをつくる」は、そんな時に出会った大きなきっかけになる言葉だった思います。
■mother toolで開催された「オンリー椀」の取材記事