Column

私の短い腕に合うシャツと出会う

kobayashi pottery studio

学生の頃は着る服に無頓着で、全てファストファッションのお店で購入していた。
社会人になり陶磁器メーカー勤務、一応“デザイナー”と名の付く職種についたこともあり、少しは見た目を気にした方が良いと友人から指摘され、選ぶ服に気を使うようになった。

ただ洋服のブランドなどの知識もなく、自分に何が似合うかなど気に留めたこともなかったので、とりあえず今まで購入していたお店に行く。
今までシャツを購入する際に試着などしたことはなかったが、服選びを真剣に考え試着をするようになった。そこで初めて気づいた。

「私の腕は短いのでは?!」

今まで着ていたシャツもそうだったが、袖が余る。
ファストファッションのお店で扱う服は、誰が着ても良いようにデザインされている。そんな平均的なサイズ感で仕上がった服を着ても袖が余るのだから、やはり私の腕は短い。

一度この事実に気付いてしまった私は、そこから自分の身体に合う服を探すことになる。とはいえ、今までファッション雑誌などみたこともなく、知識もない。そして海外ブランドなどはもってのほか、自分の身体に合うわけがない。洋服難民になった私だったが、ある時運命の出会いをする。

30代初めの頃、当時岐阜県に住んでいたのだが月に1〜2回ほど買い物のために名古屋市内へ出かけていた。名古屋の繁華街より少し離れた人通りの決して多くない路地を歩っていると、ビルの半地下にあるショップが目に入った。あまりこういった路面店に入り慣れていない私は一度はお店を通り過ぎたのだが、何故か気になり引き返してお店に入ってみた(今思えば特に特徴のあるお店ではなく、なぜ気になったのかはわからない)。お店にはシャツやジャケット、ジーンズや服飾小物などのアイテムが並び、メンズ・レディースどちらも揃うお店だった。

コンセプトは、「ヨーロッパのアトリエ(工房)。道具としてのデイリーウェア。上質のカジュアル」。店内をみて回りながら、やはり手に取るのはシャツ。気になるものを手に取り試着してみると、なんと自分の身体にフィットするではないか。袖もぴったり。初めて着心地の良さというものを感じた。

ただ今まで購入していたファストファッションのシャツに比べて価格は倍以上。一瞬購入を躊躇するが、この着心地の良さを知ってしまったら後戻りはできない。だから思い切って購入した。

それ以来、定期的にこのブランドの服を購入している。なんとこのブランド、本社は三重県で、店舗はやはり三重・愛知がメインで、その他は大阪・東京にある。ただなぜか前橋市にもあるのだ。このことを知ったときは「なぜ群馬に?」と思ったことを覚えている(以前は高崎市にもあったが、数年前に閉店してしまった)。

今思えば、洋服以外のモノ選びもこの頃から変わったような気がする。
自分の暮らしの中で、そのモノを使う自分の暮らしをイメージし、しっくりフィットするモノを購入するようになった。たとえ100円ショップで購入するものでさえ同じようにしている。これを“こだわり”というのかどうかは分からない。モノ選びを通じて自分と向き合い、自分自身のあり方や価値観を知ることができるのではないかと思う。

Creator

kobayashi pottery studio 小林俊介

群馬県太田市出身。美濃焼の産地である岐阜県多治見市で陶芸を学び、陶磁器メーカーでデザイナーとして従事。2018年、地元太田市にてkobayashi pottery studioを設立。「暮らしに寄り添ううつわ」をコンセプトにうつわの製作をしている。