Column

Say Sue Meこそが轟音だった

HIROYUKI TAKADA

2022年12月9日。
今月に入ってからようやく冬らしくなってきた。朝晩ちゃんと寒い。「寒くなると膝が痛むよ」と診断された通りになってきた。僕の膝は最悪な状態ではないけれど、無理出来ないのは自分がよくわかっている。けれどそれでも【Walk Out To Winter】僕は歩き出すのだ、冬に向かって。

Say Sue Me 待望の来日公演。場所は渋谷クラブクアトロ。オープニングアクトに日本のDYGL。これはもう申し分ない最高の組み合わせ。はやる気持ちを抑えながら、それでもワクワクして現地に向かった。いつもならゆっくり会場に入って楽しむのだけれど、今日は少し違う。きっちり開場時間前に列に並んで、ちゃんと整理番号順に入った。最前列には行けなかったけれど、5列目くらいを確保。自分でもこんなことはあまりない。それだけ期待しているって事なのだと思う。

オープニングアクトDYGL。どっからどう聴いても完全無欠のリアル・インディーロック。音のデカいバンドは信用出来るっていつも思う。前半、畳み掛けるような疾走感溢れるナンバーから、徐々にヘヴィーにシューゲイズされた色濃いナンバーへ。言わずもがなギターロックの真髄の応酬を見せつけられているような展開。ノイジーに空間を支配する、される事の心地良さ。そうか、ここはクアトロだ。ずっと前からここはインディーロックの聖地。ピッタリ過ぎるくらい箱にハマる。オープニングアクトにしては贅沢な人選。良いものを観ることが出来た。

そしてSay Sue Me。今年夏のフジロックキャンセル以降、誰もが待ち望んだ待望の来日となる。セットリストは最新アルバム『The Last Thing Left』からのナンバーを中心に新旧取り混ぜたまさにベストな内容(12月なのでクリスマスソングも披露!)。ライブでの演奏は、ポップソングの良さを根底に持ちながら、スタジオ盤で聴く以上にタイトでダイナミック。重厚なシューゲイズナンバーもあり、まさにライブバンド!といった佇まい。超満員のクアトロというのも、いろんな感情を盛り上げる手助けをしてくれる。

もはやというか、それ以前から、Say Sue Meに「アジア発」という形容は必要ない。そもそも僕らが音楽を聴くのに、カテゴリーは必要ないのと同じように、どこに属するとか、どこから来たとか、無意味なのだ。音楽は聴いたものがすべてであるように、バンドも鳴らす音が全てである。Say Sue Meの音楽的ルーツがYo La TengoやPavementなどのUSインディを基礎とするなら、もうそれだけで充分じゃないか。そうして生まれた彼らの音が全てを物語るし、ギターの鳴り方だけで僕らは納得するし、共感出来る。決して難しいことなんかじゃない。感覚は理屈を簡単に超えるのだよ。

ヴォーカル、スミさんの声が素晴らしい。それを支えるバンドの力量も凄まじい。あれだけ激しい演奏をしていても、軽やかさを失わないのが、Say Sue Meの素晴らしさ。ポップであって底なし。その佇まいから大凡想像出来ない轟音を鳴らすバンド。Say Sue Meが何故愛されるのか、ライブを観てよく理解出来た。楽しむことをわかっているし、楽しみたいから演ってる。影響受けたものをちゃんと消化し、敬意を忘れない。当たり前のことを当たり前のようにやっているだけ。だから僕らは共感し得る。インディーポップ侮ることなかれ。

ビール片手に流暢な日本語で「乾杯しましょう!」と話すスミさんが轟音編集人に見えてきた。

前編「残されたもの(The Last Thing Left / Say Sue Me)」

Creator

HIROYUKI TAKADA

群馬県太田市出身。90年代よりDJとそれに伴うイベント企画、ZINE発行等で活動。最新作は冊子『march to the beat of a different drum』を自身のレーベル『different drum records』より発行(2020年より)。コロナ禍以降の音楽と生活を繋ぐコミュニケーションのあり方を「手に取れる」紙媒体にて「無料配布」で行った。自らの活動と並行して、90年代より活動しているバンド『b-flower』の私設応援団『ムクドリの会』終身名誉会長でもある。