Column

勝手に妄想映画館
<角川映画祭2>

GO ON編集人

「愛だなんて…そんな、言うと減りますから」

2022年5月14日。朝8時台に家を出て、10時30分から高崎電気館にて『探偵物語』を鑑賞。そう、約100分の苦行が朝から始まったのだ。私はこの苦行を少しでも和らげるために、岸田今日子を執拗に追いかけていた。

冒頭から、岸田今日子はなんだかかわいい。いや、とてもかわいい。

「ウエディングドレス?まぁ、着られなくもないですけど」
「長らく靴というものを履いていないので」
テレビでエアロビをみながら上半身ノリノリの岸田今日子
(パパとキスしたことある?)「もう調査が始まりましたか?」
(パパを愛してるの?)「愛だなんて…そんな、言うと減りますから」

ちょいちょい出てくる秋川リサの攻撃をかわすため、かわいい岸田今日子を盾にしてラストシーンへ突進していく。

そしてようやくあのラストシーンに漕ぎついた。

そうそう、とても興味深いコメントをいただいたので紹介したい。るるるるんの3月クララさんから「探偵物語の優作はゲンスブールだと思ってます」と。

どういうこと!?分かるような分からないような…そんな気持ちで、松田優作を見つめていた。

映画が終わってしばらくしてから、私はポンと手を打ち

「そうか、よしっ、わかった!」

こう推理した。

「一度は突き放したくせに、女(薬師丸ひろ子)を強く引き寄せて忘れることのできない痕跡を残す男(松田優作)。そのまま男の元に置いておくのかと思いきや、そっと離す。うーむ冷静に考えてみよう。処女が、あんな痕跡を残されたら絶対にその男を忘れられないはずだ。男と再会したら脇目も振らず駆けつけるだろう。再会する時はきっと、いや絶対に女は美しくなっている。それを見越しての犯行だ。それはまるで調教そのものだな。そういう手口を使う男と言えば…ロリータを調教することを得意とするゲンスブールそのものじゃないか。どうだね。えー君は誰だっけ?」。

「なまたまご」

14時30分『犬神家の一族』を鑑賞。「国宝級」ではない「国宝」そのものの映画だと思っている。映画館でもテレビでも何度もみているにも関わらず、またみてしまう。それはまるで「慶派の仏像が美術館にやってきたから行かなきゃ!」みたいな感覚に似ている。「横溝正史 市川崑 石坂浩二」が「運慶 快慶 湛慶」にみえているのかもしれない。

それはさておき、今回とても気になる人物がいたのだが、どうにもこうにも思い出せない。手形の指紋を鑑識する人物(藤崎鑑識課員)が気になり「どこかでみたことあるような…」とその人物が出てくるたびに「アレだ、そう、アレアレ」となっていた。

またもや私はポンと手を打ち

「そうか、よ〜しっ、わかった!」

こう推理した。

「あの独特の話し方、顔つき、背格好…。『獄門島』の復員服の男じゃないか。ほら松葉杖をついた片足の!でも両足で歩けたあの男だな。そう!三谷昇だ。おいおいさっきの『探偵物語』にも出てるじゃないか。どれどれラブホテルのマネージャー役?これだから脇役を見落とすなと言ってるではないか。何をやってるんだ君〜、もう1回みなさい」。

因みに、かわいい岸田今日子も出ているので、横溝正史とか三木のり平に気を取られないようにしてほしい。特に三木のり平には気をつけろ。

映画の半券は要保存

「拾った。猫いなかったよ、今度は」

17時10分『スローなブギにしてくれ』を鑑賞。20年前にビデオでみた時は、もちろん浅野温子側だった。「なぜこんなにも年上の男は魅力的なのか」と思い、年上の男性に恋焦がれていたものだ。

それから、藤田敏八監督作品の少女と中年男性ものを中心に掘っていった。秋吉久美子三部作『赤ちょうちん』(歳の差無し)『妹』『バージンブルース』『ダイアモンドは傷つかない』。オススメしたいのは『バージンブルース』の長門裕之だが、『ダイアモンドは傷つかない』のクソすぎる山崎努もみてほしい。

「ムスタング」
「帰るけど、戻ってきてあげる」
(うなじを触りながら)「色っぽくなったな。あいつとはうまくいかないよ」
「惚れたんだよ」
「私はジャリじゃないよ」
「それじゃ知的淫乱だな」

最も好きなのは、浅野温子と山崎努がかき氷を食べるシーン。汗びっしょりで本当に暑そう。というか暑い。太陽に照らされて汗をかいている肌の艶っぽさ、かき氷を手でギュッと押さえるアロハシャツ姿の山崎努。

浅野温子の実家があるエリアはトタンの家が立ち並んでいて、その雰囲気で生い立ちが分かる。浅野温子の母親に財布を渡さない山崎努に、少し育ちの良さを感じた。山崎努が共同生活をする旧米軍ハウスも素敵。簡単に言うとおしゃれ。でも最後、浅野温子が全部ぶっ壊すけど。浅野温子は、この映画のストーリーのようにちゃんと成長している。山崎努の「色っぽくなったな」は本心なのでは?と思ってしまう。

映画をみて一晩経って気づいたのだが、「そうか、よ〜しっ…」まぁ加藤武は置いておこう。40代の今、共感できたのは山崎努の気持ちだった。記憶に残るセリフのほとんどが山崎努だった。そして20代の時、意味不明だった山崎努たちの共同生活。40代になってその意味が分かるようになってしまった。

お金はあるんだろうけど、心が満たされない。破綻した家庭、離婚、子どもとの別れ、友人の急死、愛人の子どもの問題…。満たされない心を女で埋めているだけ。そして女と心中したがるどうしようもない中年の男。

「拾った。猫いなかったよ、今度は」。

心中に失敗して、結局1人生き残る山崎努。山崎努から去っていった人たちはみんな成長しているのに、1人だけ同じことを繰り返している。どうしようもないのに、なんだかほっとけない。藤田敏八監督作品の魅力って、そういうところにある。20年経って『スローなブギにしてくれ』の主役は山崎努だと思ったのだが…。そうでしょ?違う?

弁護士役に伊丹十三、刑事役に石橋蓮司。まともな人間って室田日出男ぐらいじゃない?

浅野温子が古尾谷雅人と再会する絶妙なタイミングで、南佳孝の『スローなブギにしてくれ』が流れるだのが、もちろん泣いてしまったよ。「エモい?」そんな安易な言葉で片付けないでほしいね。

<追伸>
『スローなブギにしてくれ』をみた20代の君へ。20年後も忘れずにみるように。これからの20年、色々なものに揉まれるだろう。揉まれまくって傷ついたりちょっと汚れたりするぐらいが、ちょうどいいと思う。きっとこの映画がより一層心に染み入るよ。そうしたら強いジンを片手に語り合いたいね。

<角川映画祭1>もあわせてどうぞ。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。