Column

勝手に妄想映画館
<角川映画祭1>

GO ON編集人

私は、角川映画好きではない

「どちらかというとスルー」「友人と話題にもならない」「アイドル映画」「一般受けするエンターテイメント」…。長らく私の中で、角川映画はそのような立ち位置にいた。しかし、好きな映画ベスト3に入る藤田敏八監督の『スローなブギにしてくれ』が角川映画であったこと、何気なくみていた『セーラー服と機関銃』が単なるアイドル映画ではなかったことに衝撃を受け、角川映画の世界に少しずつ足を踏み入れていった。

先に断っておくが、私は角川映画好きではない。みたい作品が角川映画だった、それだけだ。昔の映画を追いかけていたら、自然と角川映画に辿り着いただけである。

私は昔の映画が好きだ。日活ロマンポルノもATG作品も男はつらいよシリーズも。ただ間違えないでほしい。レトロ趣味ではない。

昔の映画の何が好きかって、ちゃんと街や人が汚いからだ。そして、ちゃんと湿度を感じる。暑い夏にはちゃんと汗をかき、うなじに髪がへばりつく。シャツに染み込んだ汗にムッとした臭気を感じる。それにタバコ、アルコール、古い油、安物の香水、カビ、ドブ、小便の匂いが混ざり、鼻をつまみたくなる独特の臭気がスクリーンから漂ってくる。

寒い冬はちゃんと身体の芯まで凍える。靴に雨水が染み込んで氷のように凍てつく爪先、なかなか温まらない電熱器、陽の当たらない四畳半の部屋、部屋に吹き込む隙間風。そして惰性的に重なり合う男女の姿。

こんなだらしなく淫らな生き方は、とても自然で正しい。しかし、現在それを再現しようとしても清潔すぎて湿度も匂いも漂ってこない。全てがつくりものだ。だから私は昔の映画をみながら、ちゃんと正しい生き方を学んでいるのだ。

アイドルに気を取られるな

昔の映画はクレジットを最後まで見逃せない。出演者もスタッフもロケ地も。一瞬たりとも気が抜けない。毎週放送している『男はつらいよ』でさえも、オープニングクレジットだけは作業する手を止めている。だから昔の映画は隅々まで存分に楽しめるのだ。そしてこれを楽しめるのは、長い間送ってきた映画生活の見返りだと思っている。

私はアクションメインの松田優作が好きではない。そのため村川透監督作品はスルーする予定だった。しかし角川映画祭初日だし、シネマテークたかさきで映画をみる予定もあったので『蘇る金狼』をみることにした。松田優作と風吹ジュンの濡れ場、成田三樹夫を拝むぐらいでいいかなと思っていたが、オープニングクレジットをみて思わず声が漏れそうになった。

佐藤慶にも胸がときめいたが、岸田森の名前が!どんな役なのかと思ったらトリッキーな探偵。『時計じかけのオレンジ』みたいなファッションで杖の使い方が絶妙。そしてツッコミを入れたくなるような殺され方。何に感動したかって松田優作との絡みに尽きる。2人の絡みをスクリーンでみることができるなんて、これだから昔の映画は気が抜けない。

ちなみに私の好きな松田優作は、アクションでも怪演でもなく普通の人だ。だから映画の『探偵物語』をオススメする。そうね、席を立ちたくなる気持ちはよく分かる。でもラストシーンをみるために、我慢して約100分の苦行を耐えてほしい。

私が角川映画の第一歩としてオススメしたい作品は『セーラー服と機関銃』だ。薬師丸ひろ子の「カ・イ・カ・ン」だけに満足している場合ではない。監督の相米慎二はさておき、脚本が田中陽造。私の好きな映画1位鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』の脚本も手がけている。ちょっとおもしろいエピソードがあったので一部Wikipediaから抜粋する。

脚本家の田中陽造は、〔難解な〕映画『ツィゴイネルワイゼン』・『陽炎座』の後だったので、楽しんでやれた仕事だと答えている。一人の少女が世の中に一歩踏み出す1か月間の話であり、世にも不思議な青春喜劇をシリアス・ドラマの手法で描き、少女とヤクザの異なる世界観のズレから生じる笑いを狙った。

鈴木清順監督作品で溜まったストレスを存分に発散した作品が『セーラー服と機関銃』だったのではないか。そういった意味でも、『セーラー服と機関銃』は外せない。

そしてとどめは渡瀬恒彦、風祭ゆきだろう。渡瀬恒彦のとめどもなく溢れ出る色気、風祭ゆきから漂う色気と哀愁。自身の過去を語るシーンにグッとくる。色気と哀愁を同時に漂わせることができる女優、それが日活ロマンポルノの女優なのだ。エキセントリックな演出に戸惑いつつも、全てのバランスが絶妙でメジャーとアングラ両者に刺さる作風になっている。その最高峰が『セーラー服と機関銃』ではないかと勝手に思っている。ググるより先に映画をみてほしい。

今回の角川映画祭では、柄本明に注目した。若い頃の柄本明は、黙っていると柄本佑、笑うと柄本時生。そう、柄本明を堪能するなら『二代目はクリスチャン』に限る(『セーラー服と機関銃』も捨て難いが)。前半はコメディ満載で何度も笑ったが、後半は一気にシリアスになる。志穂美悦子が美しいのはもちろんだけど、柄本明、蟹江敬三に気持ちを持っていかれてしまう。蟹江敬三がヤクザになった理由を語るシーンで、気がついたら私は泣いていた。最後に柄本明が「全部俺がやったことにしていいから」といった男気満載のセリフも最高。つかこうへい原作なのだが、今まで興味を持つことはあっても「つかこうへいみたいな舞台より大人計画の時代でしょ」と思った20年前の私に伝えたい。「広末涼子でもいいから『飛龍伝』をみろ」。

角川映画初心者へ告ぐ。アイドルだからといってナメてかかるな。そしてアイドルだけに気を取られるな。

角川映画祭は5月19日まで開催

群馬県高崎市にある高崎電気館で開催中の角川映画祭。角川映画祭の情報を知ったのは2021年11月。半年近く経っての北関東での上映(ずっと待ってた!)。しかも都内と同様に全作品を上映している。こんなイカした・イカれた映画祭に行かないわけがない。では、現時点(5月13日)でみた作品を感想とともに紹介しよう(Twitterにアップした感想の一部をコピペする)。

『蘇る金狼』
松田優作と風吹ジュンに気を取られていたけど、それどころじゃなかった!社長が佐藤慶、部長に成田三樹夫がいる会社。絶対真っ黒ってすぐ分かる。

『Wの悲劇』
開始すぐ、ガニ股のひろ子をみるやつと思い出しその姿をしっかり拝んだ。三田佳子43歳。私と一緒。蜷川幸雄が灰皿(正確には紙の束だった)投げるシーンは爆笑。世良と一緒ではなく自立して再起をはかろうとする姿は、将来、三田佳子のようにはならないだろうと思わせる。エンディングは何度みても最高。

『早春物語』
枯れた中年と10代の瑞々しさが対照的に描かれていて「私は枯れた側だ」と思ったり「年上に恋する気持ちわかるよ」と思ったり脳内が忙しい。仙道敦子、早瀬由香子にも注目を。原田知世と林隆三のキスシーンはいただけない。「私は過去を持ったの」。処女喪失より大切なことを学んだ。林隆三と黒猫チェルシーの渡辺大知が似ている気がする。

『セーラー服と機関銃』
エキセントリックな演出、危ういひろ子の演技、笑いとシリアスの絶妙なバランス。柄本明が死に際に「あんたいい娘だよ。好きだったよ」。今日はそのシーンに泣いた。

『戦国自衛隊』
何度も「何をみせられているのだろう」と思い席を立ちたくなったが、眠くならないという謎。夏八木勲と千葉真一のふんどし姿、登場3分ぐらいで(正確には90秒だった)殺された岸田森、ムッシュかまやつ、悪そうな奴は大体、成田三樹夫。

『二代目はクリスチャン』
志穂美悦子が美しいのはもちろんだけど、断然、柄本明でしょ!髭だから高杢だと思ってたけどバカにしてごめん。室田日出男を刺した時の志穂美悦子の表情にまた泣いた。助監督に阪本順治の名前あり。つかこうへい原作なんだけど、死ぬまでに「飛龍伝」をみると誓うよ。とにかく泣いた。

『友よ、静かに瞑れ』
藤竜也、倍賞美津子、原田芳雄、室田日出男、林隆三、佐藤慶。字面だけでお腹いっぱい。オープニングが最高に良い。タイトルも音楽も全て素晴らしい。観光地ではない沖縄の風景。人もまばら。出演者の影響だろうか、沖縄の乾いた風よりも湿気を感じた。藤竜也と原田芳雄のツーショットは絶景であったが、映像が暗くてしっかり顔を拝めず。男女の絡みはなく、男同士、特に藤竜也と子役との掛け合いが素晴らしく「友情」を感じた。子ども扱いをしない藤竜也の態度が、さらにそれを際立たせている。

『探偵物語』『犬神家の一族』『スローなブギにしてくれ』をみて、私の祭りは終わる予定。<角川映画祭2>に続くので、次号のコラムもお楽しみに。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。