Column

勝手に妄想映画館 8

GO ON編集人

12月になると、勝手にその年のマイベストシネマを挙げたくなる。音楽も同様だ。しかし12月が近づくと、大抵みた映画のことなど忘れる。忘れずにずっと頭の中に残っているものがマイベストシネマなのだろう。ということで、牧田のマイベストシネマ2021である『アメリカン・ユートピア』(監督:スパイク・リー)について大いに語りたい。

爆音映画祭が開催された高崎電気館

岡崎漫画で学んだニューウェイヴ

10月に高崎電気館の爆音上映で『アメリカン・ユートピア』と『ストップ・メイキング・センス』を鑑賞した。トーキング・ヘッズの音楽は『Once in a Lifetime』しか知らないし、ニューウェイヴが何なのかいまだによく分からない。

そもそもトーキング・ヘッズのことは岡崎京子の漫画で知った程度にすぎない(『東京ガールズブラボー』)。有名なジャケットの『Remain in Light』は買ったけど、深く聴き込むまでは至らず。そういえばトム・トム・クラブも岡崎京子の『東京ガールズブラボー』で知った。「トム・トム・クラブじゃん!」とか言ってサカエちゃんが踊るシーンがあったな。

ここだけの話、私はサカエちゃんに今でも強い憧れを抱いている。そんなサカエちゃんのことを追いかけたくて80年代のニューウェイヴっぽい単語は色々覚えたけど、結局身につくことはなかった(ダブだけど漫画の中に何度か出てきたミュート・ビートは聴き込んだ)。先日のポップアップショップの時に『東京ガールズブラボー』を無料配布してしまったので、いささか後悔している。また買おうかな。

まぁ、その程度の知識とDOMMUNEの特集で予習をして、映画館へ足を運んだ。

深谷シネマでパンフレットを手に入れた

強さとユーモアを交えた政治的なメッセージ

今回『アメリカン・ユートピア』は10月に高崎電気館で、そして12月に深谷シネマで鑑賞した。全部素晴らしいけど、2回とも同じところにグッときたので、それを伝えたい。

映画の後半からクライマックスにかけての流れは、怒りや悲しみ、そして希望といったようなメッセージを感じてグッと心を掴まれた。

『Blind』から『Burning Down The House』の流れなんて最高にクール。『Blind』では影を生かした演出が素晴らしく、他のシーンとはちょっと違った雰囲気がある。あとパーカッションのソロがカッコいいんだけど、『ストップ・メイキング・センス』でもパーカッションの人がダントツにカッコ良かったことを思い出す。

『Burning Down The House』。ノリノリの観客が映るのだが「はやくライブへ行ってこれをやりたいんだよ!」と、ただただ来年に希望を託すばかりだ。私は着席しながら心の中で一緒に「Burning Down The House!」と叫んだよ。

そして『Hell You Talmbout』。権力や暴動によって命を奪われたアフリカ系アメリカ人たちの名前を力強く読み上げる鎮魂歌だ。亡くなった方たちの名前と写真も映る。デイヴィッド・バーンは映画の中で何度か政権批判、社会批判を繰り返す。トランプ政権下だった当時、移民問題や人種差別の問題も取り上げでいる。そのためメンバー紹介の時は、名前だけでなく出身地も一緒に紹介している。

クライマックス『One Fine Day』から『Road to Nowhere』。ここでは先程の怒りから一転して未来への希望を感じた。それは、映画のオープニングに映った緞帳(どんちょう)に描かれたイラストを彷彿させた。

怒りや悲しみを訴えたい時、政権批判や社会批判をする時、私だったらどのように伝えるだろうか。この映画のデイヴィッド・バーンのように、自然体でユーモアがあって、そして力強くできたらいいのに。

「ユートピアを実現できる可能性を我々は持っている」。デイヴィッド・バーンの言葉を反芻しながら「来年、自分にできることは何か?」を考える12月であった。

因みに、私はキーボードの人が1番気になっていた。みなさんはどうでしたか?

『ストップ・メイキング・センス』のタイポグラフィはカッコ良いね

最高すぎた『ストップ・メイキング・センス』

高崎電気館の爆音上映では『アメリカン・ユートピア』の後に『ストップ・メイキング・センス』(監督:『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミ)を鑑賞した。デイヴィッド・バーンが『Psycho Killer』をラジカセとギターだけで演奏するシーンから始まる。

次第に楽器(バンドメンバー)が増えていき、舞台セットも完成していく。昔みたスカパラのライブもドラムから1人ずつメンバーが登場してくるやつで、このライブの形式が好きすぎてたまらない!バンドをやっていたら、絶対にこれをやりたい!!

映画をみていたら、だんだん「なんか『じゃがたら』っぽい?」と思ったんだけど、その辺に詳しい方がいたら教えてください。私はもっとはやくこの映画に出会いたかったし、80年代に大人でいたかったよ。80年代のニューウェイヴに詳しくて、サカエちゃんぽい人がいたら(もしくはサカエちゃんぽい人と付き合ってた)、80年代について学ばせてください。

余談だが、途中で(デイヴィッド・バーンがビッグサイズスーツに着替えている時)トム・トム・クラブのコーナーがあるんだけど、ドラムが「Check it out!」って言う日本語訳が「どうだ!」ってなってて笑いが込み上げた。『アメリカン・ユートピア』の字幕監修はピーター・バラカン氏なので、ご安心を。

今年最後の私の妄想映画館では、踊ってもOKな爆音上映で『アメリカン・ユートピア』と『ストップ・メイキング・センス』を上映したい。年末なんで、上映中の酒・タバコもOK。

では12月31日まで、みたい映画はまだあるので、せっせと映画館へ通います。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。