Feature

目的や理由にとらわれない生き方

髙橋奈鶴子

昨年ふやふや堂で『イリュミナシオン』という文芸誌を注文したところ、同じ本を注文した人がいると知った。「ちょっと趣味が合いそうだな」と思ったその人物が、髙橋奈鶴子さんだ。読書、ラジオのアシスタント、ライブの開催など髙橋さんのSNSを追えば追うほど、どんな人物なのか謎は深まるばかり。

今月号から髙橋さんの小説がスタートする。この記事を読めば、髙橋さんの描く世界がみえてくるかもしれない。

ターニングポイントはアメリカ留学

群馬県みどり市出身、桐生市在住の髙橋さんは心理職の仕事に就いている。

「アメリカの大学へ留学して、ジャーナリズムを学んでいました。留学中、2001.9.11アメリカ同時多発テロに遭遇したことで、メディアの在り方に疑問を感じ始めたんです。世の中を動かすものは人間の心理がベースにあり、それが行動になっているのではないかと考えました」。

「9.11のテロに対する報道が、日本とアメリカでは全く異なりましたね。アメリカでは、次第に戦争へ向かう準備を、ドラマチックにあおるような報道が続きました。事実を報道するのではなく、報道する人の視点や心理が含まれているように感じ、自分がやりたいジャーナリズムについて見つめ直しました」。

髙橋さんは各々の心理によって、情報の受け取り方が変わっていくことに興味を抱き、専攻を心理学へ変更した。学生時代はネバダ州、卒業してオレゴン州ポートランドに住んで2年ほど働いていた。髙橋さんは、留学中に出会った人から受けた影響がとても大きいと話す。

「留学中に出会った人から教えてもらった音楽や本、ライブなどに影響を受けました。今までとは楽しみ方が変わって、もっと生活に密着するようになったんです。その感覚は現在にもつながっていると思う」。

休日の楽しみは、栃木県足利市の喫茶店『モカコーヒー』での読書

「私は家や地元に対して居心地の悪さがあって、アメリカへ逃げたのかもしれないですね。人の目線を気にして行動し、言いたいことも言えなかった。でもそれは、日本に帰国してからも変わらなかったです。日本での生活に馴染もうとせず、ここは居場所じゃない、と思い苦しかった」。

髙橋さんはそんな状態の自分を良くするため、瞑想やお寺に通っていたと話す。

「私の考える瞑想は〈信じる〉という行為ではなく、〈リセット〉をすることが目的です。それらを行うことで、自分自身を掘り下げていきました。そして家族に対しての関わり方や距離の取り方など、考え方が変わって楽になりました。働き方も同じで、何を仕事にするかではなく、どう生きるかが重要だと気づきましたね」。

「20年前の留学時代に吸収したことを振り返ると、あの頃に叶うものはない、と思って苦しくなることもありますよ。でも、あの時代をどのように生かしていくかは、自分次第じゃないのかな」。

そう考える髙橋さんの小説は、現在の視点で自分のベースとなった出来事を振り返っていく物語になるとのこと。髙橋さんのバックグラウンドと重ね合わせて読むと、より一層楽しめるだろう。

やりたいから、やってるだけ

髙橋さんは、単独でライブの開催をしている。昨年は桐生市の『四辻の斎嘉』で世田谷ピンポンズ御座敷ライブ、原田茶飯事ワンマンライブを開催した。

私は原田茶飯事ワンマンライブへ足を運んだ。そこで目にしたのは、こたつに入った髙橋さんが1人で受付をしている姿。髙橋さんは音楽活動をやっているわけでも、イベントグループに属しているわけでもない。たった1人である。何か将来の展望があって行っていることなのか?質問を投げかけた。

世田谷ピンポンズ御座敷ライブ(桐生市『四辻の斎嘉』)

「特に何も考えてないですね(笑)。お金に関しては、自己負担もしてますよ。ただ自分が楽しいので、趣味や買い物などに置き換えれば特に問題はないです」。

「将来の展望や目的について質問されることが多いけれど、やりたいからやってるだけ。やれる方法を考えて、やれるようにやってるんです。だから定期的に開催するとか運営グループをつくるとか、そういったことは必要ないかな。仕事ではなく好きでやってる趣味だから」。

今までに髙橋さんが呼んだアーティストは、世田谷ピンポンズ原田茶飯事ボギー家族。アーティストだけではなく、お坊さんと作家の対談を設けたイベントも開催したことがある。では、選ぶ基準は何だろうか。

原田茶飯事ワンマンライブ(桐生市『四辻の斎嘉』)

「この人に会って欲しい!という気持ちが1番強いですね。アーティストと観客が融合することで、おもしろい空間が生まれるんです。現場にいた人たちがその時の感動を持ち帰って、日常生活のプラスになるといいなって思います」。

「私は先を考えるのではなく、とりあえずやってから考えます。ゴールを決めてしまうと、それに達することが目的になってしまい、ゴールまでの道中で色々と見逃してしまうんです。だからゴールは決めない」。

髙橋さんの話を聞きながら、私はGO ONと重ね合わせた。私もやりたいからやっていて、やれるように考えてやっている。道に迷いそうになったら、髙橋さんの話を思い出そう。

読書は呼吸をすることと同じ

以前、『ねぎし村』の根岸さんから「ふらっと来て読書をして帰っていく人がいますよ」と、村へ訪れる人の話聞いたことがある。後々、その人物が髙橋さんだったということを知った。

「最近は寒いから行ってないけど、『ねぎし村』は私にとってリセットをする場所ですね。野外だし放っておいてくれるから居眠りもできるし。瞑想的な要素もある場所です」。

『ねぎし村』で読書をして気持ちをリセットする

小説よりエッセイを読むことが多い髙橋さんは、読書についてこう語る。

「読書をすることは、呼吸をすることと同じだと思います。筆者の考え方を吸収しながら、自分自身を重ねて、自分だったらどうするか?ということを考えて読みますね」。

髙橋さんは毎月第4木曜に、FMきりゅうにて『ぶらり旅お手伝い』という番組のアシスタントをしている。そこで本の紹介をするコーナーを担当しているので、ぜひそちらも聴いて欲しい。

「最近は、本に関わる仕事をしている人の本を読みますね。本屋さんのエッセイとか。『頁をめくる音で息をする(藤井基二)』が好きですね。深夜にオープンする本屋さんのエッセイで、本屋に至るまでの経緯などが書かれています。言葉とどう向き合っているか、というのがみえる本はおもしろいですね」。

「色々な土地の本屋さんへ行くのも好きですよ。地元のふやふや堂(桐生市)は良く行きます。本屋Title(荻窪)、百年(吉祥寺)も好きですね。陳列や選書が好みなので、ブックマンズアカデミー前橋店(前橋市)も良く行きます。本屋さんへ行くことも自分をリセットすることに近いかもしれませんね」。

真っ直ぐに目をみて話す髙橋さんの目力は最強だ。そして、芯の強さを感じる。今月から髙橋さんの小説がスタートするので、ぜひ読んでいただきたい。

■髙橋奈鶴子今月の小説はこちら

取材協力:モカコーヒー

Creator

髙橋奈鶴子

群馬県桐生市在住。教育、医療、料理の仕事を経て、現在は児童・青少年福祉の分野で心理職として働いている。