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うつわづくりを通して、社会と繋がる

kobayashi pottery studio

kobayashi pottery studioのうつわを目にしたのは、栃木県足利市のmother toolだった。小林さんもいらっしゃったので、雑談をしながら作品のことを伺い、その後もお見かけするように。シンプルで手に馴染むデザインと絶妙な色味に惹かれ、また「手仕事」のイメージが少ない群馬県太田市で陶芸をやっているということに意外性を感じ、もっと話をきいてみたいと思い始めた。

会社員から独立して陶芸家へ

会社勤めをしながら別の仕事をするワークスタイルが定番化してきた昨今、小林さんも同様会社員と陶芸家の2足の草鞋を履いていたが、昨年末、陶芸家として独立したという。独立するにあたって、ターニングポイントはあったのだろうか。

現在45歳の小林さんは、30歳を過ぎた頃「これからどうしようか?」と悩み続けていた。岐阜県多治見市で陶芸を学び働いていたが、独立するとなれば地元である群馬県太田市へ帰ることになる。「陶芸と全く関わりのない太田市へ帰ったところで、自分に何ができるのだろうか?」そう悩みながらも「とにかく地元で陶芸をやってみよう」と決心をして8年前に帰郷した。

だが、すぐに陶芸1本で生計を立てることはできないため「一定の猶予期間」として都内の企業で働きながら「本当に自分のつくりたいものをつくろう」と、休日に作品をつくるような日々を過ごしていた。

ある日、群馬県前橋市にあるWandervogelから「コーヒーのイベント用にうつわを使いたい」と声がかかり、店舗にてコーヒーカップの販売を開始した。この時に作成したうつわは、今の作品のベースとなっている。それを自身のInstagramで紹介したところ、足利市のmother toolから「店で扱いたい」と連絡が来た。

小林さんは「mother toolの中村さんがセレクトする目線を信頼している。中村さんに認めてもらえるのであれば、この先やっていけるのではないかと考えた」と話す。
小林さんにとってこの出来事が、独立するターニングポイントになったのだ。
自分のつくりたいものをつくり続けた結果、それを認めてくれる人物(mother toolの中村さん)が現れたのである。

工房での作業風景
Wandervogelのイベントで販売したコーヒーカップ

独立した現在、日々の仕事内容について質問をした。
「在庫確認をして生産するスケジュール立て、さらに新しい色を開発するために釉薬のテストなどを行なっている」。
小林さんは「手に取って買ってもらいたい」という思いがあるので、店頭販売に重きを置いている。そのため作品をつくりながら「どうすれば自分のつくったものを、みんなに伝えることができるのか」と販売戦略についても考えていると話す。

余談だが、TBSラジオのリスナーで「たまむすび」をきいているという。小林さんを見かけたら、TBSラジオのことについて触れてみよう。きっと笑顔で「たまむすび」トークをしてくれるだろう。
しかし会社とは違って工房は小林さん1人。TBSラジオだけで孤独を感じることはないのか?
「1人で篭って作業をすることに孤独は感じない。会社にいた時のような、人の会話などといった雑音が無いので集中できる」と話す。

釉薬のテストピース(色見本)。何度もテストを繰り返す。偶然生まれる色もあるという
参考にしている書物「陶芸の釉薬」。悩んでいた時期に一度手放したが、もう一度手に入れた大切なものだ

自分の作品を、世の中へどう伝えるか

先ほども触れたが、小林さんが常に考えていることだ。
最近では、1月12日(火)〜25日(月)に開催された「伊香保くらし泊覧会」に出品。作家の作品を扱う宿へ宿泊できるプランがあり、実際にそのしつらえを体感し購入もできるという、新しいタイプの展示会である。3月には「ててて商談会」に参加する。「作り手」「使い手」「伝え手」の3つの手が共鳴しあえることを目的に掲げているBtoBの展示会だ。そこでは新アイテム、新色を出品予定。また、東京都立川市GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)の広場で開催されるマーケットへの出店も決定している。5月のクラフトフェアまつもと2021にも応募をしているそう。今年の小林さんは、マーケットのエリア拡大に力を注いでいるようだ。

今年の活動予定を聞いていると、前回のコラム「47のうつわをつくる」につながるような気がする。太田・足利・桐生は地元とのつながり、群馬県はエリアのつながり、そして47都道府県=全国とのつながり。使い手の反応や求めているものが、地域によって異なることもあるだろう。全国へ飛び出していく、小林さんの作品の変化が楽しみである。

カンナは形成する時に使う道具
うつわの形を考える時は図面を引くという。木製のコテは角度調整に使用する道具

小林さんはSNSでの情報発信についても深い考えを持っている。
過去うつわにもファッション同様「流行」があったが、今は特に無いように感じる。自分が世の中に合わせるのではなく「こういうものをつくりたい!」と考えてつくった作品をSNSで発信し、欲しい人とつながる。今まではそれが店舗の役目だったが、SNSでダイレクトにつながる機会が増えてきた。自分の作品をしっかりつくって、上手に発信すればファンは集まるだろう。

しかし、一時的な「にわかファン」も存在する。「その時、自身をどうコントロールするかによって、進む道は大きく変わるだろう」と小林さん。「そういったことを意識して、流行りのうつわではなく、定番化していくものをつくりたい。自分の軸がブレないよう、そして周りに流されないよう注意したい」と話す。

プライベートをちょっと質問

ところで、作品づくりに影響を与えた映画などはあるのだろうか?
小林さんへ質問を投げかけた。
セドリック・クラピッシュ監督作品の「スパニッシュ・アパートメント」「ロシアン・ドールズ」「ニューヨークの巴里夫」が好きでDVDも持っていると話す。
自分のやりたいことを貫く様や、人との出会いを通して成長していくストーリーに共感でき、生き方や考え方に影響されたという。

ちょっと頑固な一面も!?自身の考えをしっかり語ってくださった小林さん

最後に小林さんのように2足の草鞋を履いている方、独立を考えている方へ伝えたいことはないかと尋ねた。
「自分が積み上げてきたものを大切にすること」。

今の自分が存在するのは、過去に様々な経験をしてきたからこそ。
最近ちょっと停滞中の方、これは励みになるメッセージではないだろうか。
kobayashi pottery studioのうつわでコーヒーを飲みながら、ちょっと立ち止まって自身を見つめることも、大切な時間だろう。

■kobayashi pottery studio今月のコラムはこちら
https://goon-type.net/kobayashi-pottery/2021/02/freitag/

■撮影:小林亜紀
https://www.instagram.com/arco_fragment/

Creator

kobayashi pottery studio 小林俊介

群馬県太田市出身。美濃焼の産地である岐阜県多治見市で陶芸を学び、陶磁器メーカーでデザイナーとして従事。2018年、地元太田市にてkobayashi pottery studioを設立。「暮らしに寄り添ううつわ」をコンセプトにうつわの製作をしている。