Column

バレンタインに『Like Water for Chocolate』

BEDROOM RECORDS

2月といえば、世の中の男子が1年でもっともチョコレートを待ち焦がれる日、バレンタインデーがある。その日に貰えるチョコレートはやはり格別だが、日頃僕にとってのチョコレートといえばアルフォートかCommonのアルバム『Like Water for Chocolate』の2択になる。今回はアルフォートほど甘くなく少し苦めな『Like Water for Chocolate』を紹介したい。

このアルバムを聴くきっかけになったのは、「BEDROOM RECORDSの2人が愛聴してやまないJ Dillaがほとんどのトラックをプロデュースしているのだから間違いないだろう」と思いアルバムを手にとった。

一通り聴き終わり、すぐに感じた。このアルバムってJ Dillaの中でもかなりベストワークなんじゃないかと。Commonの軽やかなライミングに、J Dillaのどこかクセになるトラック(特にキックやハイハットの位置がとても気持ちいい)が完全にマッチしている。J DillaのトラックにここまでマッチするMCはCommonしかいなと思わせてしまうくらいだ。

その中でも特に際立っている曲がある。それが5曲目の『The Light』という曲で、このアルバムの中ではかなり甘めな曲だ。

この曲で大胆にサンプリングされたのが、AOR歌手Bobby Caldwellの『Open Your Eyes』なのだが、J Dillaがこんなにも大胆にサンプリングネタを使うのは珍しく、後にも先にもこんな使われ方をした曲はないと思う。

この曲の持っている魅力を最大限に生かしつつ、Commonのラップにも合うよう調整されているのがさすがJ Dilla といった感じだ。何かの記事で読んだのだがJ Dillaが『Open Your Eyes』を初めて聴いた時に、このネタは絶対最高のトラックになると確信して、近くにいた友人にこの曲を聴かせたというのも納得なくらい原曲もいいので、Commonの『The Light』とBobby Caldwellの『Open Your Eyes』の2曲ともぜひ聴いて頂きたい。

ここまでCommonとJ Dillaを中心にして書いてきたが、このアルバムを紹介するにあたって絶対に外せない音楽集団がいる。その集団とはソウルクエリアンズ。

The Rootsのドラマー、クエストラブを中心にディアンジェロ、エリカ・バドゥ、Qティップ、ジェイムズ・ポイザーに加えCommon、J Dillaからなるスーパー音楽集団。

90年代後半から2000年代初頭まで活動していたソウルクエリアンズが携わっている作品が大好物なのだが、ディアンジェロの名盤『Voodoo』が最も有名な作品だ。この時にソウルクエリアンズが携わった作品達が、今のブラックミュージック全体の基盤になっていると思っていて、この時に生み出された音楽は未だに色あせず聴き続けられているのが、このソウルクエリアンズの凄さを物語っていると思う。

現にディアンジェロの『Voodoo』を超えるソウルミュージックは今まで出ていないと思うし、これからも出てこないんじゃないかと思ってしまうくらい、完成し尽くされた作品をつくり出してしまったのだ。

そんな『Voodoo』をつくり出したディアンジェロとクエストラブにジェイムズ・ポイザーが加わった曲が14曲目の『Geto Heaven Part Two』。この曲中では『Voodoo』の音質に近いクエストラブのもたつくドラムとディアンジェロの甘いファルセットボイスが合わさり、それをジェイムズ・ポイザーがうまくバランスをとりまとめている。

ヒップホップとソウルミュージックをこんなにも気持ちよく繋いでいるこの1曲には、ソウルクエリアンズが目指していた音楽の本質的な気持ちよさを感じてしまう。

このアルバムを知っていた人も、このコラムを読んでこれから聴こうとしている人も、バレンタインという1年で最も甘い日に、甘さ控えめなこの『Like Water for Chocolate』を大切な人と一緒に、ぜひ聴いていただきたい。

Creator

BEDROOM RECORDS

90年代生まれの幼なじみ2人が音楽、映画、アートなどの様々なカルチャーをマニアックな視点で掘り下げて発信していくプロジェクト。栃木県足利市名草町にて2020年BEDROOM RECORDSをオープン。厳選されたレコード、CD、VHS、様々なアーティストの作品などを展示・販売。オリジナルグッズも展開中(現在休業中)。