Column

繰り返す太鼓のリズム
第3章

PEANUTS BAKERY laboratory

◇ レーススタート:10時50分
とにかく一生懸命に走った。スタート時点はまだ人が多くて思うように前に進めず、5kmは30分で通過してないが10kmを1時間きれたので残りは出し惜しみなく全部の力を出して走ってみようと思いながら走り続けた。沿道の応援の人達の声が心に直に伝わりその度に足を速く動かすことができた。走る人を応援するために自分の時間を使ってくれる人がいることに心を打たれる。私自身は昔から箱根駅伝以外のスポーツ観戦に興味を持てず、ほとんどそういった他人を応援することが無かったように思う。肉体の限界に挑戦している時に応援がこんなに励みになることを今更知る。途中の給水も欠かさず摂り、練習よりかなりのオーバーランでも最後まで体力が持つように配慮する。給水するとその度に生きかえるように走り続けられた。少し前を走るランナーは、決して速いように見えないけれど自分はもっと遅いんだなぁと気づく。他人から見たキロ5分後半のスピードで走る見え方ってあんな感じなんだな、と少しがっかりもした。テレビで見るようなマラソンランナーと比べたら歩いてるように見えた。

走り始めて2年、誰とも比べず自由に1人で走ってきたけれどこの瞬間初めて、より速く、より身体の能力を十全に使って走れるようになりたいと感じた。

残り600mでみぞおちに感じたことのない激痛があり、半泣きになったり「痛い、痛い」と声に出し、痛む箇所に手を当てながら進む。もちろん押してもさすっても深呼吸しても変わらない。食事のタイミングは充分気を付けたので原因が謎のままなんとかゴールする。

◇ レース終了:13時前
直後に女性が「すごいよ!がんばったね。私なんて絶対できないこと!」と補給食のカロリーメイトを渡しながら声を掛けてくれて一気に涙が溢れる。脚を止めたら痛みはすっかり消えていた(帰宅後調べたら、内臓が揺れて他の臓器にぶつかって痛むことが原因とある。本当かな)。痛みがなくなったのですっかり元気になり自撮りをしてマラソン会場を後にする。

◇ 1時間後:14時
道の駅内にある温泉で汗を流しさっぱりする。施設が新しいこともあり清潔で温泉成分も濃厚そう。露天風呂は最高の気持ちよさ。人生で一番かもしれないほど。なんども大きく息をつく。

◇ 3時間後:16時
すっかりくつろぎ過ぎた。帰路に向かう。行きと同様にSpotifyを眠気を覚ますために大ボリュームで。オザケンの『ぼくらが旅に出る理由』が流れる度に一緒に歌った。行きとは違う銀座や青山あたりの5個も6個も車線があるルートを間違えないようにハラハラしながら運転していたため、マラソン大会を思い出す余裕は全く無かった。

右腕の付け根が痛んでいた。脳が無意識の内に、腕は後半動かなくなってきた脚が前に進むように必死に振り子になって推進力をつけてあげていたんだなと思い、ひとつの人格を持っているような右腕にいじらしい気持ちがわいてくる。

◇ 6時間後:22時
無事帰宅。
2023年12月(フルマラソンレースの1年前)。来年の12月、フルマラソンのレース出場することを決める。

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Creator

PEANUTS BAKERY laboratory 長谷川渚

1980年生まれ、神奈川県秦野市存住。パンを焼き、菓子をつくり、走る人。開業準備中。屋号は幼少期から常に傍らに居続けるSNOOPYのコミックのタイトル、及び秦野市を代表する名産物である落花生から。「laboratory=研究室」というと大袈裟な聞こえ方だけれど、かちっと決めてしまいたくない、常により良さを求めて試行錯誤する場所、自分でありたいという思いを込めて。