Column

繰り返す太鼓のリズム
第1章

PEANUTS BAKERY laboratory

◇ 2023年1月(マラソン大会まで11ヶ月前)
今年初のヨガのレッスンで今年の目標を発表した。ハーフマラソンの完走とヨガレッスンを続けることをクラスで宣言。

◇ 夏(半年前)
1年の締めくくりとして、12月開催のハーフレースで制限時間も3時間と余裕のある千葉のいすみ健康マラソン増田明美杯にエントリーする。1年前のこの時期ランニングは全然出来なかった。朝も夜も30°近い気温の中では4、5kmが精一杯でいつも走りながら早く家に帰りたかった。今夏はハーフを意識して12 km走れるように挑戦し始めた。走り始めた頃は3 kmが精一杯だったのが、1ヶ月毎に5 km 、6 kmと1 kmずつ走れる距離を伸ばしていき、いつの間にか10 kmまでの数字はただの通過点になっていった。しかし10 kmからの2 kmは長く辛く、この試みは5〜6回で自然消滅。

夏の途中から水泳トレーニングを試み始める。水の中の快適さはこの上ないが、1時間以上水の中にいると体が芯から冷えて寒冷蕁麻疹で身体中が痒くなるのが難点。この頃から毎日ランニングウェアとシューズと水着を車に持ち込み、仕事終わりにランニングコースか屋内スイミングに直行するルーティンを作ろうとするが、言い訳をして毎日は続かない。

◇ 秋(2ヶ月前)
だんだんルーティンに体と気持ちが慣れていく。レースに向けてランニングウォッチがそろそろ必要ではないかと感じ始める。始めた頃からただ心と体の気持ちよさのためだけに走っていたので格好はお金をかけず無頓着に、タイムやスピードも意識せずに、走るフォームだけを本で読んで気を付けてきた。昨年のレースでは一応目標タイムを設定していて、いつものランニングのようにスマホをポケットにしまい、アプリの音声を頼りにタイムを気にしようと安易に考えていた。しかし実際のレースでは、周りの足音や沿道からの応援に、ポケットからの声はかき消され結局時間もペースも分からないままカンを頼りに夢中で走った。たまたま目標を達成したが、さすがに今年はランニングウォッチをつけようと決める。

この頃、初めて20~22km走に挑戦する。17km過ぎからペースは速くないため呼吸は苦しくないが脚が鉛のように重くなる、或いは股関節から下は油が切れてギコギコ歩く人形状態になり腕を一生懸命振り子にした勢いで足を前に捻り出すしかない、100m進むのが非常に長く感じる。20kmと22kmは全く違う。

◇ 1ヶ月前
ランニングウォッチの選択にこの1ヶ月費やした。セイコーのプロスペックスまたはGARMINのForeAthlete 55。前者はマラソンレースの公式時計にも使われる信頼と実績の会社がつくるラップ機能がついてるくらいのシンプルな性能で薄く軽量、デザインもミニマル。後者はラップ以外にも目的に合わせたコーチ機能や心拍、睡眠、最大酸素摂取量なども計測できるもの。価格は2万円程差がある。初球ランナーから上位の中級ランナーのほとんどは多機能ウォッチを使っているそうだが、プロの何%かのアスリートのほうが意外にも多機能ウォッチよりもプロスペックを愛用する率が増えるそうだ。そこまでのレベルに達した人は時計の機能に頼らずとも自分の身体をよく把握出来ているから、ということ。普段非常に感覚的に生きている自覚があるので、不足部分を補うためにGARMINに決定した。

山岳家山野井泰史さんの『垂直の記憶』を読んで感じたことがある。生きて帰るには一瞬、一瞬の精度の高い自己判断が全てだがそれを限られた時間で行うには、事前に叩き込んだ知識とデータ、数字や理論を血肉となるまで深く自分に落とし込んでおく必要が絶対あるということだ。もちろん肉体的、実際的トレーニングと合わせて。

連日の10km走。体調は悪くないのに昨日の続きで走っているように走り始めから脚に鉛感、疲労が積み重なっていくことに気付く。月間走行距離○km、を重視する意味が分かり始めていく。とにかく距離を踏むことで長距離に耐えうる脚が育っていくんだ。

気温が下がってきたこともあるのか、スタートから強めのスピードに乗ることができるようになり始める。今までは6km過ぎの呼吸やピッチが安定してくるまではスローで入ることがほとんどで、これは体の能力があがるとともに精神的に責めているような強い気持ちが出来て、自分の体への信頼感も増してきたのだと思う。前半にスピードを出したら最後苦しくて仕方なくなるのが分かる。それは嫌だな、でも歩きたくはないという恐怖心がでちゃう。無意識に守ろうとする。

◇ 6日前
休日。午前中に10kmいつものコースを走る。ひどく足が重いが日中で日差しが強いせいかと思う。帰宅しシャワーを浴びた後ぐらいから猛烈に頭痛がしてきたので薬を服用するが、痛むスピードの方が速くて全く効かない。いつものように頭を冷やして横になっているとふと朝インフルエンザ予防接種を受けたことを思い出す。接種後空白の2時間で全て忘れて走り出していた。とにかく頭痛と嘔吐を繰り返す偏頭痛症状最悪レベルになり翌朝まで12時間ほど苦しむ。頭が痛過ぎて「助けて~」と呟きながらコンビニにポカリスエットさえ買いに行けず、脱水して弱り果て痛み疲れ果て少し眠れた間になんとか収まった。そこから2日間は食欲がなくゼリー飲料で過ごす。

◇ 4日前
満月前後でだらだらと毎日頭痛に悩まされる。初めは気付かなかったが、頭痛日記をつけている時期に満月と頭痛の関連を発見。海水の満ち引きと同じ原理だそうで月が満ちてくると体内の血管も膨張して痛み物質が放出。神経を痛めるしくみ、ということを頭痛時に冷静に反芻しながら時を過ごす。自然の一部だから仕方ない。もちろんこの3日間は走っていない。

◇ 3日前
マラソン大会前の最後の休日。いつまでもゼリーでは仕方ないので、ぬか漬けや豆腐、味噌汁など食べる。午前中、ガソリンスタンドで燃料満タン、洗車、空気圧補充する。レッドブルも用意。移動中に不安なことがよぎらないように長距離ドライブ前はこれらを必ず行う。午後、山道コース20km走る。これだけ走れればもう大丈夫だろ、と無理やり体に思い込ませる。

以下、マラソン大会前日と当日の様子は私のInstagramのストーリーハイライトにもまとめてある。あちらもひとつの記録になっている。ぜひ合わせてご覧いただきたい。

第2章へ続く。

Creator

PEANUTS BAKERY laboratory 長谷川渚

1980年生まれ、神奈川県秦野市存住。パンを焼き、菓子をつくり、走る人。開業準備中。屋号は幼少期から常に傍らに居続けるSNOOPYのコミックのタイトル、及び秦野市を代表する名産物である落花生から。「laboratory=研究室」というと大袈裟な聞こえ方だけれど、かちっと決めてしまいたくない、常により良さを求めて試行錯誤する場所、自分でありたいという思いを込めて。