先月と引き続き、今月のコラムは音楽レビューだ。前回はジャンル的にもポップなものに偏ってしまった気がするので、今月はロックなものを紹介したい。
『Anthropocene』 Burning House
Anthropoceneとは、我々人類が繁栄した年代以降に堆積した地層の事である。場所によっては、空き缶みたいなゴミとかが埋まっていそうだ。そういう学術的な用語らしい。数年前のブームと比べると今はやや落ち着いている、シューゲイザージャンルの音楽である。ヒトによって違うと思うが、私はシューゲイザーの構成要素は耽美・サイケ・青春であるのではと思っている。このアルバムはサイケ成分こそ少ないものの、耽美なところもあるし、何より要所要所の盛り上がりどころの曲で差し込まれる「青春成分」がとても強いと感じる。
アルバムとして全編シューゲイザーな感じであり、レコードで例えると80分を超えるぎっちり2枚組の大作アルバムだが、青春成分溢れる儚くキラキラした曲のハイクオリティさはもちろんの事、そういった盛り上がりどころに行きつくまでの過程も、非常にいとおしく感じてしまう。何度も何度もザ・クライマックスな曲を迎えてようやく最終曲である『Awning』を聴いた時には、本当にお話を1つ読み終えたような満たされた気持ちになる。そんな素晴らしい作品だ。
唯一残念なのは私の持っているLP盤には14曲しか入っていないことである。何が言いたいかというと配信版には時間の都合上レコードに入りきらなかった15曲目の『Peach』という曲が含まれており、これがバンドワゴネスク期のTeenage Fanclubの曲みたいで本当に名曲なのだ。ノイジーなポップソングで、というかその曲が聴きたくて知らずにわざわざレコード買ったんですけどね、といつも悲しく思ってしまう。
『In a Small Place』 Sillyboy’s Ghost Relatives
現行バレアリック音楽の名門レーベル、Claremont56よりギリシャのバンドの記念すべき1stアルバム。このアルバムの前に発表されていたシングル『In a Small Place』(これまた同名!) が素晴らしかったので興味を持つようになった次第である。
ジャンルは何と言ったらいいのやら、購入させていただいた通販サイトには「ソフトロック」と書いてあったのだが若干納得できないままで、ちょっとそこは有識者に聞いてみたい気もする。AOR寄りのインディーロックくらいの説明で良いんじゃないだろうか。何はともあれ素晴らしいチルアウトミュージックだと思う。
ジャジーなギターやレトロなキーボード、退廃的でセクシーなボーカルの声など、全てがうまくはまっていて気持ちが良い。チルアウトミュージックと書いたが、ゆったりした時間が終始流れる訳ではなく、3曲目『In a Small Place』では不穏なサウンドが流れを崩していくし、6曲目『High Life』ではいきなり彼ら流のディスコチューンを始めたりするのが面白い。そんな風に展開をきちんと作ったうえでラストトラック『Wasted』できれいに終わるのも何だか映画みたいで良い気がする。今作は2019年の作品であり、それ以降の彼らに関しては情報の少なさもありうまく追えていない。是非とも活動を続けてほしいと強く願う。今後の活躍に期待するばかりである。
以上、本コラムにおいて前・後編合わせて5つの作品の紹介をさせていただいた。振り返ると、新しい音楽と出会う時は何かしらのレビューを参考にしていたと思う。ディスクガイド本のレビューを見てお気に入りの作品を探すのは楽しかったし、高校生当時、身近であったAmazonのレビューに騙されて、意図とは違う相当とがったような作品を掴まされたこともあった。
90年代以降のハードコアパンクが好きな方の多くが通ったであろう、ハイパーイナフ大学みたいな個人のデータベースには今も憧れるし、現在お世話になっている各地のレコードディストロショップからは、レーベルインフォだけではない独自のレビューを通して未知の作品を広めようとする強い意思が伝わってくる。
レコード屋さんのサイトでは当たり前に見ている作品紹介文も、自らやろうとしてみると、情報を調べたり英詞を翻訳したりしなくてはならず大変なのだと実感した。きっと足りてないところが多々あるだろうし、後々見ると恥ずかしく思うのかもしれない。それでも、まるでレコード屋さんになれたようで楽しい作業であった。またいつかこんなコラムを書けたらと思う。