「私設美術館をつくることが夢なので、コレクションしているアート作品や自分の作品を紹介したい」と佐藤さんから申し出があった。美術館名は『貪で堅な美術館』。
貪(とん):好きなものに対する激しい欲求、堅(けん):物を惜しんで貪ること、という意味がある。毎回108個の煩悩をテーマにコラムを書いている佐藤さんに相応しい名前だ。
今回の取材では、佐藤さんの親しい方達を招待し、アートのことや自身のことをあれこれ自由に語っていただいた。
『貪で堅な美術館』館長:佐藤一花氏(右から2番目)
ゲスト:
TAGE(タージュ)代表 高田祐子氏(右)
たまきちゃん 8歳(小2)(左から2番目)、
たまきちゃんのお母さんアズサさん(左)
撮影:黒田和義氏
黒田さんの写真をコレクションしているくらい大好きだと話す佐藤さん。今回撮影にご協力していただきました。
contents
『貪で堅な美術館』へようこそ
『貪で堅な美術館』、何が展示してあるのか全く想像できない。ましてや佐藤さん宅の物置である。佐藤さん、美術館のコンセプトって…?
佐藤「25歳の頃からアート作品のコレクションを始めました。今は約20点ありますね。アーティストを応援したいという気持ちがあって、いつか美術館をひらきたいと思っています。今日はいつも自分の部屋に飾っている作品を展示しました」
佐藤「グラフィティライターQPの作品を買ったのが最初です。私はジャンクなものに魅力を感じますね。白い部屋の方が映えると思うけど、ゴチャゴチャしたところにギュッと集まっている感じが好きです。ストリートアートのようなイメージあったので物置に展示をしました。コラージュをやっているのも、その延長線上ですね」
物置にアート作品という奇想天外な発想だが、佐藤さんの中にはしっかりとしたストーリーがつくられている。
私の好きな作品
ではゲストのみなさん、お好みの作品はありますか?
たまちゃん「点々のやつ(hand point)が好き。こういう描き方はじめてみた。自分でも描いてみたいなぁ」
たまちゃん母「ろうそくの作品(ZY$のrousoku)が良いですね」
佐藤さんとたまちゃんは、2019年夏に佐藤さん主催のコラージュキーホルダーをつくるワークショップの時に出会った。
佐藤「たまちゃんは、コラージュキーホルダーをサラッとつくっちゃって、その後みんなに教えてあげたりしてたね(笑)。自分でどんどんつくっていく姿が印象的でした」
たまちゃん母「普段行く美術館ではコラージュ作品をあまり目にしないので、佐藤さんの作品やコレクションは新鮮ですね」
高田「私は佐藤さんの丸縁シリーズ『Portrait of someone』が好きですね。プロレスと誰かのポートレートが入っていておもしろい」
佐藤「肖像画をテーマにしていて、それに関するストーリーをイメージしてつくった作品。以前、下北沢の美容院で展示しました」
高田「色々な要素が入っているけど、全てのバランスがとれている。コラージュだけでなくドローイングも入っていて、それが特に好きです」
高田「個人的に幾何学模様が好みということもありますが、細かいドットやパターンのドローイングが好きですね。作風は学生の頃から変わってない。さらに凝縮して変態感が出ていると思いますよ(笑)」
高田「学生の頃はもっとシンプルな線画だったかな。時が経つにつれて色々なものが凝縮され、それが弾けたと思う。つくっている時のワクワク感が伝わってきます」
佐藤「シンプルな感じでいきたいけど、衝動的に埋めていってしまうかも」
高田「好きなものと表現するものは違うからね」
高田「蛍光色が入っているこの作品も好き。柔らか太りシリーズって呼んでいる(笑)」
高田「コレクションで好きなのは、工藤さん(舞踏家 工藤丈輝)の飴玉爆弾(笑)。加賀美健さんのおっぱいもいいよね(笑)」
高田「佐藤さんはアートに敏感。私は正統派の方(大きな美術館の展示など)に行っちゃうから、誘ってくれると新たな発見がある。佐藤さんはインプットしたことを自分の作品に弾け出すことができるけど、私は服を売るという商業的なフィルターを通さなくてはならない。そのためダイレクトではないけど、自分の表現に何かしら影響はあると思っている」
「楽しい、おもしろい」といったインプットだけで完結せず、お互いにアウトプットの仕方を知っているからこそできる深い話。今回、高田さんがゲストに招かれた理由はそこにあるのだろう。
ところで、2人は学生時代からずっと親しくしているのか?お互いをどう思っているのか?鑑賞後、ゆるい感じで対談が始まった。
文化服装学院での出会い
まず、高田さんのプロフィールを紹介しよう。
TAGE(タージュ)というレディースメインのアパレルブランドを立ち上げて12年が経つという。
高田「卒業後ロンドンで、服のデザイン・パターン・商品をつくるところまで自社で完結するスタジオで働いていました。服づくりの全ての工程に携われるのが楽しくて、これが理想の服づくりだと思いましたね。そして帰国後すぐに、自分のブランドを立ち上げました」
高田さんはその経験を生かして、ソーイングの本も出版していたと話す。
佐藤さんはTAGEに対してどんな印象を持っているのか?
佐藤「世代を問わない着こなしができる。だから今着ているものは、おばあちゃんになっても着こなせると思う。シンプルな形だけどテキスタイルが個性的なところが好きですね。個性的な形の服は飽きちゃうから」
高田「うん、そうだね。デザイナーの主張が強すぎないように意識しています。あくまでも服は人が着ることで完成するから。だから主張を抑えながらデザインする。たまにやりすぎちゃう時もあるけど(笑)」
高田「学生時代はあまり話さなかったよね。ロンドンから帰国後偶然会って、佐藤さんへ仕事(生産管理の仕事)を依頼するようになったのがきっかけかな。性格は昔から変わらないね(笑)」
佐藤「高田さんは真面目だけど、パンクなところがありますよ。バックグランドを考えず好きなものは好きだというし、斜め目線かな(笑)。でも洋服は別。そういった人格は服に反映はしていないと思う」
高田「仕事でもプライベートでも、お互いの距離感が変わらないよね」
佐藤「だいたい友達と仕事をすると揉めるよね(笑)。でも高田さんは気遣いもあるから、揉めることはないですよ」
高田「お互い思っていることを言っても、関係性はおかしくならないね。それは、依頼した仕事で失敗が起きたとしても変わらないですね」
お互いの人物像
高田「佐藤さんはクリエイターにとって1番良いものを持っている。怒りや何かに対しての鬱憤を創作して表現することは、1番熱を持ったパワーだと思う。そして作品として生み出すことがとても上手い。GO ONのコラムもそうだよね。自分の表現を言葉で説明できないって言ってたけど、読んでみたら、できてるじゃん!って思った(笑)」
佐藤「高田さんはデザイナーだけど自分に酔うことなく、デザインしたものに対して責任を持っているよね」
高田「そうだね。自分が認められたいというのではなく、自分がつくった商品を褒めて欲しいからね」
佐藤「人物像やバックグラウンドに対して意見されても、特に気にしないですね。自分がつくったものが良いと思われていれば充分」
今好きなものと、これからのこと
高田「最近は鉱物が好きですね。石の集合体(コンクリートや敷き詰められた石)や質感が好き。ひび割れたコンクリートとかも良いですね。自然発生した構築的なものには魅力があります。石の写真を集めていますよ(笑)」
佐藤「私はグラフィティに対しての熱が高くなってきたかな。昔から好きなものが、何周かして再び周ってきたような気がしますね」
佐藤「ゴミゴミした渋谷とか汚い場所が好きなんです。昔は洋服が好きだったけど、スケーターと一緒に遊んだりして(スケボーはやらないけど)ストリートカルチャーを密接に感じるようになり、格好良いと思ってきた。そしてグラフィティに出会って、街の見方が変わりましたね。そこから好きなものが広がったし、自分の作品にも繋がっていったと思う。だからと言って、そういったスタイルのファッションをするわけではない。その生き様に惹かれるんです」
高田「佐藤さんには衣食住に基づいた表現ではなく、自分の思うまま好きにやって欲しいですね。今までと変わらず、突き進んで欲しいです。私は『衣』に関わる仕事をしているから、佐藤さんのような表現はできないけど」
佐藤さんのオフィスアートレディの今後はいかに?これからについて話を伺った。
佐藤「PLAYBOY蒐集家(しゅうしゅうか)としては、それを形にしたいですね(笑)。今は引き算で表現することが多いから、昔のギラっとしている感じや、こってりした感じを出していきたいですね」
佐藤「洋物のヌードは単純に女性としての造形美が超絶きれい!PLAYBOY=エロではないかな。『エロといったら佐藤』って言われてもいいけど、きっとそれは、その人がエロ目線とフィルターを持ってみているからだと思いますよ。むっつりですねー(笑)」
最後にたまちゃんが絵を描いてくれました!
たまちゃん「みんな仲良しになればいいなと思って描きました。今日みた点描画やってみたい!あと今つくっている線路がもうすぐ完成します」
佐藤「色使いがきれい、花が上手だね!たまちゃんは集中力がすばらしいから見習いたい(笑)。コロナが落ち着いたら、たまちゃんと共作をして展示会をやりたいね!」
たまちゃん「うん。あと一緒にリカちゃん人形のお洋服をつくるのが楽しかったから、またやりたいです」
『貪で堅な美術館』、みなさん楽しんでいただけただろうか。
しかし、まだまだ序章に過ぎない。この先、どんな美術館が完成するのか誰も想像ができないだろう。私は美術館が完成するまで、佐藤さんを追い続けようと思う。