Column

セルフタイトル

与良典悟

今月号で私のコラムは最終回となる。最後という事で、総括的な内容にしようと思っていたが、これがなかなかまとまらない。牧田編集長に提出して、さらに自分で直し再提出する作業を5回位繰り返しているのではないだろうか。編集長もさぞ辟易していることだろう。

そもそもGO ONのコラムニストの中で、1番よく分からない謎の人間はきっと私だ。お店をやっていたりなにか活動をしている人ばかりのメンツの中で、ただ1人私だけが肩書きを持たぬまま、絵を描いたり文章を書いたりしている。内容からして音楽が好きというのは分かってもらえただろうか。改めて伝えるが「Yo La Tengo」が別に好きなわけではない。

で、たいした肩書きではないが、あまり健康でないというのは1つの肩書きだと考えている。体が弱いのは勿論の事、気持ち的にも色々なものを抱えていて、遠回しに言うと、あのダニエル・ジョンストンの抱えていた病気と同じものを持っている。今も周囲からサポートを貰いながら生活をしているが、そういったことは未だに認められないことだったりする。

病気の話をしたが、1つの特徴はコミュニケーションが苦手なことだ。こうやって文章を書くことなら少しはできるが、人と話すことはあまり得意ではない。ただ音楽の事ならいくらでも話すことが出来る。矛盾しているようだが、それは私の1つの長所だ。初めて友人が出来たのも音楽の話がきっかけだった気がする。

コミュニケーションツールとして音楽をインスタントに消費していた面は否定できないが、音楽コミュニティで繋がった人々との交流から学ぶことは多かった。筋肉少女帯の大槻ケンヂの著書の中で「学校になじめなかったものは学校の外で社会を学んでいくのだ」なんて書かれていたのが印象深い。インターネット上の場所ではなく、実際に存在するサードプレイスのような場所としてレコードショップやその周辺コミュニティがあったことは、私にとって本当に幸運なことだったと思う。今も音楽を通して人々との交流は続いている。

たくさんの人々との交流が生まれる中で、自身の事を表現する機会も増えた。GO ONの記事やインスタグラムの漫画を読んだ方々が笑ってくれるのはやっぱり嬉しい。褒められるのも悪い気はしない。ただそれは他者からの評価を喜んでいるだけだ。自分で自分の評価をする、特に褒めてあげることは重要である。でも私はそれがあまりできない。編集長がインスタで毎月各コラムの紹介をしてくれても、与良典悟に関する投稿にだけ「いいね!」を押せなかったのはその典型的な例だと思う。結局私は私のことを認めてあげられただろうか。GO ONの連載が終了する直前になって、そんなことをずっと考えたりしていた。

上記のイラストは実際には今月号コラムのバージョン<1>(本コラムはバージョン<6>になる…)のためのイラストだった。コラム冒頭にダニエル・ジョンストンが出てくるのは各バージョン通して共通の事で、彼の作った「Hi, How Are You: The Unfinished Album」というアルバムのジャケットに出てくるモンスターを、猫の耳が付いた通称与良典悟君が抱きしめるという趣旨のイラストとなっている。色々選択肢はあったけど、このイラストを描き上げたことで、今回のコラムの方向性がやっと定まった。

ある程度は無意識に描いたから断定はできないけれど、抱きしめられているモンスターは多分私の中での「病気」とか「障がい」のイメージなのだろう。そういった「負の象徴」を、私の分身が抱きしめている。勝手にダニエル・ジョンストンの愛らしいキャラクターにそんな負のイメージを押し付けたら色々と怒られそうだが、その見解で納得してしまう自分もいた。

自分を好きになるという事はちゃんと自身と向き合うことで、それは想像以上に辛く、難しいことであると思う。文章を書くことは一種のセラピーともいわれるが、GO ONにおけるコラム作成の過程で、結果的に己と向き合う機会を多くいただいた。どんな形であれ、連載の最後にふとこういうイラストが私の中から出てきたことがとても嬉しい。GO ONにおける連載を通して、音楽が好きな「私」の事は好きになれた。きっとそれ以外の「私」のこともこれから好きになれるだろう。私から私へ、1枚のイラストを通して最後にそんなメッセージを受け取った。

以上、最終回はそんな話であった。個人的にはこの話を書くか大長編マンガを描くかの2択だったが、結果的にこれで良かったのではと思っている。終始他のコラムニストの方々のエネルギーに圧倒される中、「レコード」というニッチなジャンルのコラムがどれだけ受け入れられたか分からないけど、それでも連載をここまで続けたことを褒めてあげたい。GO ONという媒体に関われたことを、改めて誇りに思う。

Creator

与良典悟

栃木県佐野市在住。知らない町の知らないレコード屋さんに行くのが好きです。