Column

なんでもない休日

与良典悟

足利市のアピタへ行ってきた。3階の本屋に着くと、『鬼滅の刃』のクジを引くための列が出来ており、にぎわっていた。1等賞はキャラクターのフィギュアのようだ。クジを引いた子どもが、もらったおもちゃに一喜一憂していた。周りをみると大人も並んでおり、『鬼滅の刃』の広い世代からの人気がうかがえる。自分は賭け事が好きな側面があり、当たるか外れるか分からないそういうものに手を出すとのめりこんでしまいそうになる。

レコードやCD然り、収集癖もあるので一番クジなんてものは恐ろしくてたまらない。だがそもそも『鬼滅の刃』についてよく知らないので、今回は難なくスルーして本を買った。

本屋では坂口恭平さんの『躁鬱大学』を購入した。ずっと探していた本なので、みつけて嬉しく思った。躁うつ病の筆者がどう生きるべきか、どうすれば生きやすいか技術を教えてくれる本だ。やや気分の浮き沈みはある方だと自負しているので、この本を読んで、それに対する新たな知識や解決策がみつかればいいと思う。

本を買った後は、お腹が空いたのでドーナツでも買って帰ろうかなと1階のフードコートへ向かった。ドーナツ屋の前に着くと、知っている曲が流れていた。オルガン奏者のワルター・ワンダレイ氏の曲だ。とっさに曲の名前も思い出した。マルコス・ヴァーリ氏のカバー曲『サマーサンバ』だ。暑い時期にぴったりのさわやかな歌だが、多くの人はただのBGMとして見逃してしまうだろう。

でも、こういう風に街中でふと自分が知っている曲を聴けると嬉しくなる。この狭い小さな町の中に、自分と同じ音楽を好んで選択し、聴いている人がいるかもしれないのだ。なんとなくそういうことに喜びを感じてしまう。結局ワルター・ワンダレイ氏の曲が聴けて満足してしまったのか、空腹も忘れ何も買わずにフードコートを過ぎ、アピタの外へ出た。

道路を渡るとブックオフがある。今日わざわざ佐野市から足利市へ出てきた目的の1つはそこにある。以前レコードのコーナーにあった、ハービー・マンのレコードがやっぱり欲しくなってしまったのだ。この人に関する知識は正直ほとんど持ち合わせていない。恥ずかしながら、最初はハービー・ハンコックの親戚か何かと勘違いしたくらいだ。でも、後にYouTubeで聴いたこの人の作品があまりに素晴らしかったため、自分がそのレコードをスルーしたのは間違いだったかもしれないと後悔した。間に合うか分からないが、ドキドキしながら再度ブックオフを訪れた。

ハービー・マンのレコードはそこにあった。それなりに安かったのですぐ取られてしまうだろうと不安だったが、安心した。安かったのはインサートが抜けているからのようだ。月末でやや厳しいけれど、まぁ500円だし良いかと思って、レコードを持ってレジへ向かおうとしたが、面出しされているレコードに目が釘付けになった。

足はすでに止まっていた。多分東京あたりのお店にしかなく、かつ即無くなってしまうようなとんでもないレコードがそこに飾ってあったのだ。レアなだけではない。私の大好きなアーティストのレコードでもあった。

散々迷ったが、買っても買わなくても後悔すると考え「それならば!」とハービー・マンと合わせて購入して帰った。何を買ったかは伏せさせていただきたい。名前を出すとレコードに詳しい方なら大体の売値の相場が分かってしまうからだ。相場が分かったとたんに「無職がそんなものを買うべきではない!」と怒鳴られること間違い無しなのだ。どうしても知りたい人は何らかの方法で私に会って直接聞いてほしい。そして私を叱りつけてほしい。

そんな風に楽しい休日は終わった。最近は就活続きだったので良いリフレッシュになった。終わって気付いたが、小さな時に読んだ絵本『バムとケロ』シリーズの1つ『バムとケロのにちようび』のようだなと感じた。楽しい日曜日にみんなでお買い物へ行くストーリーが、個人的に好きな作品だ。特に絵本の中でもケロは値段の高いフライパンを買いたいとバムにだだをこねていた。まるで、レコードを衝動買いしてしまった今日の私の写しのようである。

以上、私の何でもない休日の話であった。現在私は休職中で、もっと言ってしまえば未だ無職なわけだが、それでも土曜日と日曜日が来るのは嬉しく思う。多分人間のDNAの塩基配列レベルで、週末は素晴らしいと強く刻まれているのだろう。

本稿では足利での1日を書いてみたが、大体は各地のレコード屋さんやブックオフ、ハードオフに行ってCDやレコードを漁って過ごしている。こういった収集の趣味をやめようとしたこともあるが、やめられた試しがないので、多分これからもずっと続けていくのだと思う。それにCDやレコードは自分へのご褒美だ。目に見える形で頑張ってきた証が溜まっていくのは嬉しいものだ。

今日買ったレコードにも、この日に起きたことや、感じたことが詰め込まれることだろう。何年もした後に今日買ったレコードを聴いて「こんな日々があった」と思い出すのかもしれない。「つらく冴えない日々だったなぁ」と笑い飛ばせるだろうか。今はやっぱり不安だ。

未来は明るく、これからもっと人生は楽しくなると信じたい。実際には良いことも悪いこともあり、それによって私の人生は常に左右されていくのだと推測する。そんな中で数年後、数10年後においても変わらず馬鹿みたいに沢山レコードやCDを買っていたら、ちょっと笑ってしまうかもしれない。でも、そんな風にずっと音楽を好きでいてくれるなら、私は嬉しく思う。

Creator

与良典悟

栃木県佐野市在住。知らない町の知らないレコード屋さんに行くのが好きです。