Column

はっぴいえんどは眠らない

与良典悟

一時期、はっぴいえんどを聴きながらエロ本屋へ行くマイブームを持っていた時があった。学生の時の話だ。もちろん空が明るいときにそんなことをしていると同級生に見つかってしまうので、大抵真夜中にエロ本屋へと赴いていた。なぜ、はっぴいえんどとエロ本屋が結び付いたのかは未だに分からないが、私の中で彼らの楽曲はどこか夜の街とリンクしていたように思う。いかがわしいお店と勝手に結びつけられたはっぴいえんどには失礼な話だが、特別な時間が確かにそこにはあった。

下宿から少し行ったところにそのお店はあったはずだ。チェーン店ではなく個人経営のお店で、エロ本やアダルトビデオだけではなくレンタル落ちのCDや、なんならレコードもあった。肝心のビデオの品揃えは別に大したことは無かったが、少し変わったものが置いてあった。今だから言えるが、そこではいわゆる「裏ビデオ」が販売されていたのだ。ジャケットは無くて、ただDVDの入った茶色い封筒にタイトルが書かれただけの品物である。これが1枚5,000円以上で販売されており、何だか高いね、でもそういうものなのかと、好奇心と興奮が混ざったような不思議な気持ちになったのが今では懐かしい。タイトルなんて適当だった。例えば<撮影中にカメラはUFOを捉えた!>とか、何がメインなのかと言いたくなるような作品もあったが、その適当さは個人的に好きだった。

結局1度も裏ビデオを購入することはなく、普通(?)のビデオや、レンタル落ちのくるりやthe pillowsのCDを購入していた。ある意味ディグのしがいがあったように思うが、そのお店は発見して1年くらいで閉店してしまった。今では更地になっているだけだ。

エロ本屋からの帰り道には、よく暴走族に遭遇した。北関東には暴走族がよく現れるのだ。大抵休みの日の夜だった。平日にはほとんど遭遇したことが無かったので、暴走族のあんちゃん達もきっと普段は仕事で忙しいのだろうなと勝手に思うことにしていた。どこかその真面目さのギャップが微笑ましい。

ポスト・ハードコアの最重要バンドの1つに『Fugazi』というグループがいるが「感情のこもっていない音楽なんてないのさ」という言葉を残していたような気がする。はっぴいえんどどころか、激しいハードコアパンクすらかき消してしまうようなその爆音は正直メーワクだったが、これも一種の自己表現なのだと思うと暴走行為にもエモーションを感じてしまった。

暴走族が何を思い、夜の街に繰り出していたのか知る由もない。けれど彼らなりに昇華できない感情を表現するのに「暴走」という手段を選んだだけで、きっとそれ以外の手段を選んだいわゆる「マトモ」な人々と暴走族は本質的には変わらないように思う。決して市民権を得ることは無いと思うが、年々うるさくなくなる彼らを見ていると少しだけ、寂しい気持ちになる。

はっぴいえんどを聴くたびに思い出す非日常の風景は、もう戻ることは無いからこそ、記憶の中で一層輝いて見えるのかもしれない。怪しい裏ビデオや、夜の街を駆け抜けた暴走族の事を、いつになっても私は忘れない。

Creator

与良典悟

栃木県佐野市在住。知らない町の知らないレコード屋さんに行くのが好きです。