Column

サイトウ兄弟往復書簡
その4 デジタルのこと、アナログのこと
(サイトウ弟)

サイトウナオミ

WebマガジンとしてのGO ONも8月の更新で最後となるので、この連載は僕の回はこれが最終回。今まで読んでいただきありがとうございました。Webマガジンでの文章を書く機会を与えてくれたマキタさんにも感謝します。ありがとう。往復書簡の僕の回は今回が最後なので、書きたいことをつらつらと書きたいと思います。

今(7月3日)別府温泉の某ホテルにいます。マップの仕事で現地を見るためにやってきました。現地を視察することなんてほとんどないのですが、今回は特別にそういう機会を得ることができました。他の仕事などの予定も詰まっているので、そんなにゆっくりはできず明日にはもう帰る予定です。観光地のホテルに来ていると世界はコロナ前の状態に戻りつつあることを実感します。コロナはなくなったわけではないし、世界はますます混とんとしてきているが、経済活動は進み続けているのですね。

別府の朝

二冊の本を読んでいます。一冊は『図書館には人がいないほうがいい』(内田樹 著、朴東燮 編訳)、もう一冊は『武器としての土着思考』(青木真兵 著)です。『図書館には〜』は、今日移動中に読み終わりました。編訳の朴先生とは、ご縁があり、毎朝、LINEのやりとりをしています。さっそく読み終わったので感想を送りました。この二冊は、偶然なのですが、自分事として読めるところが多かったです。前回の兄の往復書簡に書いてありましたが、今、日本全国で小さな本屋、小さな出版が増えています。それは、書物をベースとした新しいコミュニティができているのではないか、現代の過剰なお金一番主義に対抗する動きなのではないかと『図書館には〜』に書かれていました。お金儲けのためでなく、自分に与えられたミッションとして、それぞれの場所で小さな本屋をはじめている人が増えているということらしい。

『土着思考』には、それぞれの社会の内と外を行き来しながら、二つの違う思考を行き来しながら、自分の頭で考え、地に足をつけてこれからの時代を生きていったほうがいいというようなことが書かれています。都市と田舎(山村)、貨幣経済の内と外、デジタルとアナログなどなどなど。どちらかがよくてどちらかが悪いということではなく、その間を行き来しながらちょうどよいところをみつけていければよいと思います。

さて、ふやふや堂のことです。前回の兄の往復書簡にいくつかの小さな本屋のことが書かれていました。僕もどこかにでかける際には、時間があれば、その街の小さな本屋に寄ってみます。様々な人が様々な理由で、様々なやり方で小さな本屋さんを営んでいます。それらの小さな本屋さんのことを「独立系書店」とか「セレクト書店」という言い方がありますが、ふやふや堂に関してはあまりそういう言い方がなじまない気がします。なんでそう思うのかはあまり考えてはいませんが。あくまでも小さな本屋くらいの言い方のお店でやっていきたいと思います。どうしても小さな本屋は、店主のキャラクターが立ちがちだけど、本屋の主役はやはり本であってほしいと思っています。

そして、やはり最後にもう一度言いたいことは、マキタさんにインタビューしてもらったインターネット前夜についての話、デジタルとアナログの話です。兄が大学に進学した1995年、ウィンドウズ95が世に出てきて、インターネットというもを一般の人たちも使い始めました。まだモデムで電話回線を使ってピーヒョロヒョロヒョロとかいいながら繋げていた時代です。NASAのページが見られるとか、自分でもホームページを作れば世界に発信できるぞとか言っていました。僕たちが大学時代を過ごしたのは、ちょうどそんな時代でした。もちろん、まだスマホもなく、パソコンを持っている人もそれほど多くはなかったので、兄のマッキントッシュLC630は、なかなか珍しいものでした。その後、僕はMoZZでバイトをし始め、MoZZのマスター周辺はMac好きが多かったので、その影響を受けて、iMacを買ったり、デザインのソフトを教えてもらったりして、今の仕事にも繋がりました。デザインの世界においては、僕は完全にデジタルでしか仕事をしたことがない世代です。ほんのちょっと前までは、手作業(アナログ)で作られていたものが、あっという間にデジタルに置き換わりました。前にも書きましたが、デザインにしろ、写真にしろ、音楽にしろ、デジタルになって圧倒的に便利にはなりましたが、アナログで作られたものの方がやはりよいし、面白いと個人的には思います。

そんなこんなで、デジタルとアナログの間を行ったり来たりしながら、山と街を行き来しながら暮らしています。昨年末でカイバテラスというお店を閉めて、マップの仕事とふやふや堂とまちづくりのことをやりながら日々忙しく過ごしています。カイバテラスでやっていた「とりびあツアー」と「吾妻山へ行こう会」はふやふや堂で受け継いで、部活動みたいな感じで楽しくやっています。それに加えて、もうかれこれ7年くらいやっている「ビブリオバトル」も毎月続いています。マキタさんとなちさんとはじめたラジオ(ロジウラジオ)も2021年の秋からだから、まもなく丸三年やっていることになります。個人的には、山に行くことと(新日本)プロレス観戦がここ最近の一番の趣味になっています。仕事やお金にならない仕事、楽しいコミュニティ活動、個人的な趣味、そんないろいろな属性の中を行き来しながら楽しく生きていこうと思います。こういう風にいくつかのコミュニティをまわりながら生きることで、これからのますます混とんとしていくだろう時代を生き残る方法を少しずつ見つけていければと考えています。

それでは、また、GO ONのどこかでひょっこりお邪魔したいと思います。またね。

サイトウ兄へ続く

Creator

サイトウナオミ

地図描き/ふやふや堂店主。群馬県桐生市出身。東京・京都を経て2012年秋より再び桐生市に住む。マップデザイン研究室として雑誌や書籍の地図のデザインをしながら、2014年末より「ちいさな本や ふやふや堂」をはじめる。桐生市本町1・2丁目周辺のまちづくりにも関わり始める。流れに身をまかせている。