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インターネット前夜の話をしよう

サイトウナオミ

『追憶の東京〜地図のような文章〜』のタイトルで本編より番外編が多くなってしまったコラムを届けてくれるサイトウさん。雑誌や書籍の地図のデザインをしながら、ふやふや堂という本屋の店主を務め、さらに群馬県桐生市本町1・2丁目のまちづくりにも関わる。マイペースな雰囲気からは想像ができない活動の広さである。私とサイトウさんは同年代。90年代に青春を過ごした身にはスルーできない書籍『90年代のこと 僕の修行時代 堀部篤史 著(夏葉社)』を課題図書として、対談をスタートした。

ふやふや堂の前で

ネット社会がずっと続くとは思わない

―この本の中でサイトウさんが気になった箇所はどこですか?

第1章の『バック・トゥ・ザ・パラレルワールド』で掴まれましたね。(文中:かつての街もまた、なんでもないものに溢れていた〜を指して)以前は、ただの喫茶店、ただの本屋だった。今みたいな『サードプレイス』『セレクト書店』なんて言葉はなく、普通に喫茶店や本屋が存在していたと思う。コーヒーも、ホットかアイスしかなかったでしょう。今は前書きが多すぎて疲れちゃうね。

この本を読んで「何が変わってしまったんだろう、そして何がなくなっちゃったんだろう」ということを考えましたね。

―インターネットの登場は大きな変化ですよね?

今はスマホで調べると何でも出てきちゃう。「調べたら分かっちゃう」っていうことが馴染めないですね。「後で調べればいいや、調べれば分かるからいいや」ってなっているような気がする。だから、逆に調べていないんじゃないかな。

―インターネットで調べると、調べたことが記憶に残らないですよね。以前は調べた過程も記憶に残るから、ずっと覚えていたような気がします。

昔は、もっと真剣に調べましたよね。人に聞いたり、本屋で調べたり。そして調べて分かったことを、さらに深掘りしてみたり。今の「調べる」と昔の「調べる」は意味合いが違う。

懐古主義になるのとは異なるけど、すぐに調べられなかった時代は、すごくおもしろかったですよ。それは若かったからかな?古本屋に行って、探している本が出てくるか出てこないか追い続けたし、CD屋でジャケ買いとか、ちょっとしたヒントだけで探したり。あの時代はなんだったのかな(笑)。

課題図書『90年代のこと 僕の修行時代 堀部篤史 著(夏葉社)』

―インターネットに対して、疑問を持つようになったきっかけはあるんですか?

社会人になってから『日本の古本屋』というサイトを使っていて、探している物がすぐに出てきて「すげー」って感動しましたね。Amazonなどでもたくさん買ってたし。でも、ふと古本屋で買ってた時のことを思い出して、そっちの方がおもしろいなって思ったんですよね。

それと桐生に帰ってきて本屋を始めたことも、大きなきっかけになりました。例えば、桐生に住んでいて電化製品をネットで簡単に買ってしまうと、桐生の電気屋さんが売れなくなってつぶれてしまう。本も同じですよね。そうなると困っちゃうから、なるべく身近な店で買おうと考えました。

あとは、買い物に対する考え方が変わってきていることに気が付きました。特に急いで手に入れたい物ではないのに、すぐに届かないと満足しなくなってきたりして。便利だけど、このままやり続けていくと、おかしな事になりそうだなって思いました。ネットで買い物をする時は、本当に欲しい物を買っていないような気がします。

―買い物の敷居が低くなって、物を買うという価値が下がっているのかもしれないですね。

興味がある物を検索すればAmazonですぐに手に入る。でもそれが実店舗の場合「探しても見つからない、お金がないから買えない」ってなれば買わない。時が過ぎれば、それらは本当に必要な物ではなかったということになると思います。

―そうなると、インターネットでの買い物は物との出会いがないように感じますね。

もう昔に戻ることはできないけど「あの時楽しかったことを、また楽しめるのか?」ってこの本を読んで共感しました。ずっと心に引っかかってたことでした。若さゆえのことなのか、そうではないのか、仕分けして考えたいことですね。

ふやふや堂の店内

―今後、インターネットとどう付き合っていくのか考えはありますか?

そもそも、このネット社会ってずっと続くのかな?僕は信じていないですね。いつなくなってもおかしくないと思う。戦争が起きたら、すぐに止まるだろうし。それに災害が起きると、電気が使えなくなりますよね。だからそんなに、ネットを使っていくことについて考えてないです。仕事では使うけど、自分の趣味とか楽しみの部分において、ネットは必要ないと思っています。

血流を良くしてあげる程度の、まちおこし

―サイトウさんのご自宅は桐生の山の方なんですよね。自然な生活が好きですか?

暮らすなら、自然が多いところがいいですね。まちだと、自分のお店もあるから仕事場になってしまう。まちもおもしろいけど、自然の中でギターを弾いたり、レコードを聴いたりして暮らすのが楽しいですね。

―以前「地図の仕事がなくなると困るから、本屋をやって仕事を回している」といったお話をされていて興味深いなって思いました。その考え方とまちづくりの考え方は繋がっていますか?

大型ショッピングモールができて近所のスーパーや商店街が潰れていくのは良いことではないですよね。不便だけど、楽しみながらどうやってまちをつくっていくか、その暮らしを守っていくかということを考えています。

だからと言って、無理して(値段や利便性を無視して)商店街を使うのは違うかな。「楽しいから行きたい!」って思わないとだめですよね。

ネットショップやサブスクで音楽を聴くことも同じ考え方じゃないかな?無理してレコードがいいってわけではないですよね。便利で楽な方が楽しいのなら、そっちでいいと思います。今の僕は、CDやレコードが自分にとって楽しいから聴いている。

Amazonよりふやふや堂で本を買うのが楽しいって思ったり、大型ショッピングモールより本町1丁目の方が楽しいって、思ってもらえたらいいですね。

ふやふや堂の名前の由来が書いてある

―本町1丁目にあるカイバテラスもそういった考えで運営しているんですか?

そうですね。ふやふや堂だけを一生懸命に宣伝して、お客さんに来てもらっても仕方がないんです。この辺(本町1・2丁目)全体を盛り上げて、その流れでふやふや堂にも行ってみようと思ってもらわないと。だからカイバテラスを中心にして本町1・2丁目を賑やかにする活動をしています。

もちろん、最終的には自分の店であるふやふや堂やカイバテラスがメインだけど、そのためには桐生のまち全体に人が来ないと意味がないと思います。

桐生のまちは年齢でいうとお年寄りでしょう。お年寄りを「まちおこしだ!」って言って起こしたらショックで死んじゃうから、血流を良くして「ねえ起きて」って軽くゆするような、まちおこしをしている感じですよ(笑)。

―自然の流れで活動をしているように感じますね。

僕は「桐生のまちをどうにかしてやる!」という気持ちは、そんなにないですよ。自分の理想を追いかけることで、このような考え方が生まれたのかな。こういう考え方もネット的じゃないよね(笑)。

みんなで集まって色々話すのが好き

―これからやってみたいことはありますか?

漠然としてるけど、雑誌をつくりたいと思っています。形のある物をつくりたいかな。具体的な内容は決まっていないけど、なんだろう…雑誌をつくるためにみんなで集まって色々話すのが楽しい!そういうのが好きですね(笑)。
これからやってみたいなという夢は、雑誌をつくって、バーみたいな店をやって、本屋をやって暮らしていけたらいいですねぇ。それと義父の農業を手伝いたいです。農家本屋なんてどうかな?手書きの看板で「畑にいます」って置いてあったりして(笑)。

―堀部さんが自身の本屋を『ヒップホップな本屋さん』と言っていましたが、ふやふや堂はどんな本屋さんですか?

『店主こだわりのセレクト書店』って言われるのは居心地が悪いんですよね。僕は感覚で適当にやっているから。ただ「必要とされているかどうか」ということは大事にしています。だから、本を選ぶ時は自分の趣味ではなく「こういう本を必要としている人が、この辺にいるのではないか?」と想像しながら選んでいます。例えば働き方、生き方についての本は「悩んでいる人が多いかな?」と考えて、そういった人に届くようにと思って仕入れますね。

それと、小さな出版社を応援したいという気持ちもあります。良い本がたくさんあるので、ぜひみんなに知ってもらいたいですね。

関西の出版社の本も揃う

私とサイトウさんは、10代後半から20代前半にかけてインターネットやデジタルへの変化を体験している。私たちの青春はアナログとデジタルの境目にいたのだ。得意げに語ると『懐古主義者』のように思われてしまうだろう。しかし、その時代の考え方をベースに新しい道を開拓しようとアクションを起こせる人は別である。

いつも飄々とした感じのサイトウさん。ネット的じゃない考え方で突き進んで欲しい。

『90年代のこと 僕の修行時代 堀部篤史 著(夏葉社)』はふやふや堂で購入できるので、ぜひ幅広い世代の方に読んでいただきたい。そして夏休みの宿題として「これからの生き方」を考えてみてはどうだろうか。

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Creator

サイトウナオミ

地図描き/ふやふや堂店主。群馬県桐生市出身。東京・京都を経て2012年秋より再び桐生市に住む。マップデザイン研究室として雑誌や書籍の地図のデザインをしながら、2014年末より「ちいさな本や ふやふや堂」をはじめる。桐生市本町1・2丁目周辺のまちづくりにも関わり始める。流れに身をまかせている。